63波_総合決勝戦(圧倒)
そこから、パペットが赤いドラゴンに挑む、という戦いがしばらく続いたけど……うん。その。パペットには悪いけど、勝負になっていなかった。
というより、一応は勝負という体を取れていたパペットがすごいって言うべきかな。逃げ回り、走り回り、時には半分弱の数を犠牲に上空へのがれ、ちくちくと攻撃して。
それが本当に、ただの武装した人間が怪獣に挑んでいるようだったから、僕がその違和感に気付いた時には、観客席は結構な人数がパペットを応援するようになっていた。
「……、」
でも、流石に僕だって学習する。その違和感に気付いても、黙ってパペットの戦いの方に視線を戻した。何でって、絶対に聞かれるだろうから。違和感はあっても理由が分からない、けど、時間が経ったら分かるんだろうなって時は、黙ってるのが一番。
それに、籠家さんのパペットの動きって言うのは普通に参考になる。こんなに大きくて強い相手でも戦う方法がある、って事なんだから。もちろん、こうやってみてるのと、実際にやるのとでは違うんだろうけど。
圧倒的。赤いドラゴンが優勢、って意味で。それでもちくちく、ちくちく、ほとんど効いて無さそうだけど、小さく弱くても攻撃を重ねて行く。パペットの頑張りは、戦い方は、そうは言っても「時間の問題」だ。それは、観客席の人達も分かっていただろう。
『――時間をかけ過ぎだよ、ローズ』
……時間の問題、だった、って、言うべきかもしれないけど。
『パペット程度の雑魚に、そんなに時間をかけないでくれないか。手抜きの戦いをして、舐められるのは僕なんだよ』
光武さんの言葉は、パペットを軽んじるにも程があったし。そもそも今の状態で、赤いドラゴンが手を抜いているなんて、どうしてそういう発想になったのか、分かった人は少ないんじゃないかな。
それぐらいには、籠家さんのパペットがちゃんとしていたって事だし。赤いドラゴンだって、ただ攻撃を受けているようで、ちゃんと目や耳、翼の根元とかお腹とか、そういう弱い所への攻撃は避けて、鱗の分厚いところで受けたり、攻撃を叩き落したりしていたんだけど。
だからこそ「戦いになってる」って感想だったし、赤いドラゴンの勝利が揺らがないのを分かった上での歓声と応援だった……と、僕は思ったんだけど。
『雑魚相手だから気分が乗らないって言うのも無しだよ。これは御前試合なんだから。――本気でやれ、ローズ』
光武さんが、赤いドラゴン……ローズ、っていう名前らしいドラゴンに「命令」した。
瞬間。
何が起こったのか、少なくとも僕には分からなかった。
「な……え!? 自爆ですか!?」
「違うわ。違うけれど、あの男……」
バァン! と、すごい音がして、部屋の壁がただの壁に戻った。これしか僕には分からなかったけど、木透さんと門崎さんにはもう少し何が起こったか分かったみたいだった。
自爆。その言葉が出るって事は、きっと何か、あの「命令」で、赤いドラゴンが強い攻撃をした、んだと思う。自爆じゃない、っていうのは、門崎さんが言うならそうなんだろうし。
「……いくら宝石竜だからって、あの規模の結界を割らせるなんて。そんな無茶をさせたら、宝石竜自身はもちろん、召喚主までただでは済まないのに」
……。
…………え?
「……あの、門崎さん。今ものすごくあり得ない言葉が聞こえた気がするんですが……!?」
「あの結界を割らせたと言ったわ。でなければ、結界のこちら側にあるカメラが全滅する訳がないでしょう」
「結界を!? でも、だって、あれですよ!? あんな分厚さの結界、私も初めて見ましたけど!?」
「でも、割れたのよ。今頃一般席は大惨事でしょうね。結界が壊れた事で、衝撃を吸収するようにはなっている筈だけど。火の粉程度の余波でも、人ぐらいならシミになってしまうわ」
「大惨事じゃないですかっ!? き、救助! 救助に行かないと!」
「止めておきなさい。私達の場合は、ここから動かない事が一番の手助けよ」
え……?