62波_総合決勝戦(本番)
『それじゃあ始めようか。蹂躙になると思うけど――【サモン:スピネルドラゴン】!』
と、光武さんが高らかに召喚詠唱をすると、巨大な……少なくとも僕が見た中では一番大きな魔法陣が出てきた。
普通、召喚の為の魔法陣は白い光だ。けど今回の魔法陣は白く光ったと思ったらすぐ真っ赤に染まって、その中心からせり上がるようにして、大きな召喚獣が出てきた。
丸くなって眠っているような姿の、ドラゴン。魔法陣と同じ、真っ赤な鱗で全身が覆われた、大きなドラゴン。ただ当然だけど、わたげとは大きさが比べ物にならない。それこそ、今までで一番大きな魔法陣でもかなりギリギリだ。
「……召喚自体は出来るのね」
「まぁ一応、去年と一昨年の御前試合ではパーティメンバーに容赦なく勝ってますからね」
魔法陣が消えたところで、まず目が開いた。鱗よりも更に赤い目。それから翼が一度開いて、丸められていた手足が伸びて、太くて長い尻尾が解かれるように後ろへ回る。
欠伸でもするように一度大きく開かれた口の中には、白く輝く牙がずらりと並んでいた。わたげよりも全体に太い感じがするけど、それは地上で良く動けるし、素早さよりも力強さの方が上っていうだけなんだと思う。
これが。これこそが、ドラゴン。召喚獣の最強。それを見せつけるように、その赤いドラゴンは頭を上げて、ぐるりと観客席を見回した。視線が正面に戻り、パペットの群れと、その向こうの籠家さんに向けられる。
「――――ゴォオオォァアアアアアアアッッ!!」
そして大きく息を吸い込んで……あいさつ代わり、というように、咆哮を上げた。
観客席を守る、透明な分厚い壁……結界も大きく震えてるのが見えた。さっきまで、ドラゴンだー! と喜んでいた観客席の人達の声がぴたっと止まる。あぁ、うん。これは、怖いよね。
ただもちろん、パペットはそんなの関係ない。待機場所から動いていない籠家さんも、たぶん。だってパペットは普通に反応してたし、動いてたから。ざざっと揃った足音をさせて隊列を組み替えて……あれ?
「空に逃げる準備……?」
「え?」
「えっ!? 鈴木君、それはどういう事ですか!?」
その組み替え方。赤いドラゴンにいくつかのパペットパーティが挑んでいったのはともかく、それ以外。少なくとも僕には、それが、一部のパペットを空へ投げ上げて避難する、そういう動きに見えた。そう、飽甫さんが自爆戦法を使ってきた時と同じように。
それをつい口に出してしまって、門崎さんと木透さんが僕を振り返ったみたいだけど。それに僕が答えるより、籠家さんが何でそういう準備をしたかって理由の方が早かった。
ド――ッゴォオオオオオオオ!!
咆哮じゃない。でも爆発音でもない。僕が聞いたことがある中で一番近い音は、動画で見たバーナーに点火した直後の音。ガスに火がついて、空気を巻き込んで大きく強く燃える音だ。
僕の方を振り返っていた門崎さんと木透さんも、勢いよく壁一面の大きさに戻したモニターに顔を戻してそれを見た。広い……神様によって空間をいじられて、本当に広い面積になっていた御前試合の試合会場。その大半が、真っ赤な炎で覆われているのを。
ようやく本来の仕事が出来ているらしい実況と解説の人達によれば、これは赤いドラゴンがブレスを吐いた結果らしい。うん。だろうね。赤って言うのは、火属性って事なんだろうし。
「む……むちゃ、むちゃくちゃじゃないですか!?」
「結界もかなり悲鳴を上げているわね」
まぁ、ドラゴンだしなぁ……。とは、言わないでおいた。というか、言えなかった。今のわたげでも全力ブレスを撃ったら、あの、壊す事は出来ないって言われてる迷路状のダンジョンの壁すら壊せるとか。
肝心の赤いドラゴンは、大して疲れた様子も無ければ、大きな攻撃をしたって感じも無い。だろうなぁ。たぶんあのドラゴンからしたら、あいさつ代わりに、雑にブレスを吐いただけだろうし。
まぁそこは流石籠家さんというか、籠家さんのパペットというか。思った通り結構な数が上へと逃げていたみたいで、会場を埋める炎に無数の攻撃が降って来て、雨のようにブレスの残り火を消していった。そしてそこに着地する。
「雑なブレス一発ですら避けるしかないとか強すぎるんですけど!」
「ドラゴンだから仕方ないわね。これがあと4体もいるからこそ、最強と呼ばれているのだし」
「それはそうなんですけど!」
そういう事だよね。
本当に、「シエルズメイド」の地下でもダンジョン探索はしてたけど、わたげはどのダンジョンに行っても、目に見える程の苦戦はあんまりしなかったからなぁ……。
お陰で、何度か魔力切れになりかけたけど。あれ、しんどいね……。