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60波_総合決勝戦(間隙)

 流石にそこまで直球で罵倒……? されたら、いくら何でも観客の人達だって反応する。まぁ、うん。それは……気持ちは分からなくはないけど。

 だって、光武さんはドラゴンを5体も召喚できる、最強の探索者で。育扉市で一番有名なパーティのリーダーで。一方の籠家さんは、言っては悪いけど、ぽっと出で得体の知れないパペット使い。しかもダサいって冒険者ギルド自身が認めてる、公式探索服だ。

 どうやらあの、分厚い透明な壁、結界っていうのは、内側から外側だけじゃなくて、外側から内側への攻撃も防ぐらしい。何でそれが分かったかって言うと、籠家さんが光武さんの言葉を容赦なく遮った途端に、すごいブーイングと共に色々な物が投げつけられ始めたからだ。


「やぁね、バカばっかりだわ」

「今の試合見てまだこんな余裕が持てる。一周回ってすごいですね! 絶対に見習いたくありませんが!」


 ……門崎さんと木透さんの反応は、まぁ、そっとしておくとして。

 言葉を遮られて黙った光武さんだけど、周りのブーイングをまず止めにかかる事にしたみたいだった。まぁ、試合にならないもんね。


『こらこら。子犬が吠えたからってあんまり怒らないであげてくれ。それに、確かに試合中にする話じゃなかったよ。彼がサインを貰いに来た時にするべき話だった』

『誰が男だ人の性別も見分けられないのか。その目は節穴か?』

『……女性ならもう少し身なりに気を付けたらどうかな?』

『公式探索服をトップパーティのリーダーが貶めていいのか?』


 籠家さんが止まらないなぁ……!

 門崎さんと木透さんは、いいぞもっとやれ状態になってるし。観客席からのブーイングは大きくなっていくし。大変な事になってる。というか、籠家さんが大変な事にしてる。

 実況の人が、実況じゃなくて観客席の人達に落ち着いて欲しいって言う方に回ってるけど、収まる気配は無い。まぁ、だよね。そうしてる間も、光武さんと籠家さんは、その……煽りあってるから。

 籠家さんはまぁわざとだろうけど、光武さんは、あれ、相手を下げながら自分を上げる言葉の選び方、わざとなのかな。それとも気付いてないのかな。それは分からないんだけど。


『――ドラゴン5体』


 そうやって、どんどんヒートアップしていく中で。

 再び籠家さんは、会話を言葉で、断ち切った。


『うん?』

『状況は整ってるだろ。ドラゴン5体。まとめて出せるだろうが』

『……いやぁ、流石にパペット相手には』

『パーティメンバーを瞬殺して、お前を挑発して、観客にも喧嘩を売って。これでもまだ足りないのか? ドラゴン5体並べてブレスで薙ぎ払っても、歓声は上がっても罵声は出ないと思うが?』

『過剰火力っていうのもね、後で怒られ』

『勝つだけなら千組で良かったし「栄光の杖」もいらなかった。というかそもそも上位「職業」のパペットすら必要ない。完全なオーバーキルだ』


 言葉を断つ。会話を断つ。繋げさせない。

 僕は、というか、門崎さんと木透さんを含めた僕達は、その「完全なオーバーキル」が、嘘でも何でもないって分かるけど。きっと観客席の人達には、更なる暴言として聞こえたんだろう。


『わざわざ。お前らの面子を、正面から叩き潰して「やった」んだ。ドラゴン5体を出しても、どこからも文句が出ないように。お前が気持ちよくドラゴン5体を並べられるように』

『……随分と好きに言ってくれるじゃないか』

『さっさとドラゴンを5体まとめて出せと言っている。ぐだぐだと余計な話をするばかりで動かないのは何でだ?』

『そりゃあ、ここまで勝ち上がって来た新規精鋭の新人に、トップ探索者の僕と喋るって言うご褒美を――』

『いいや違うな』


 ただし。


『お前は時間を稼いでるんだ。パペットと「栄光の杖」の効果で私が魔力切れするのを待ってるんだろう?』


 その最後に、再び言葉を遮って放たれた籠家さんの言葉に。

 そしてその言葉に押し黙った(・・・・・)光武さんに。

 観客席の騒ぎも、尻すぼみに消えていった。


『生憎だが、この程度なら魔力なんて消費した内に入らない。睡眠と食事の限界の方が先に来る。それさえ無視できるんなら、3日でも4日でも維持していられるぞ』

『……そんな訳がない。そんな魔力があったら、とっくに僕がスカウトしてる』

『今目の前にある現実から逃げるな。目を逸らすな。確認しろ。認めろ。お前の前にいるのは、ドラゴン5体を出すべき強敵だ』


 ここで籠家さんは、は、と、鼻で笑うような声を出した。


出せるものならな(・・・・・・・・)

『……まるで、僕がドラゴン5体を召喚出来ないような言い方じゃないか』

『じゃあ召喚して見せればいい。育扉市が出来た直後の混乱の時のように、ドラゴン5体を並べて同時召喚して見せろ。それだけで埃より軽く吹っ飛ぶ言い掛かりだが?』


 光武さんは、また黙った。……それが答えだ、と、分かっていない、って事は、流石に無い筈なのに。


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