54波_第一ブロック決勝戦(決着)
さっきの自爆戦法が奥の手だったのか、そこから飽甫さんは巻き返す事が出来ないままに、グリードアーマーを倒されていた。
……途中で、地面に向かって振ったら衝撃波が走っていくハンマーとか、たぶん風の刃を飛ばしてくる短剣とか、そういうのもあったんだけど……出してくる端から、全部壊されてた。
1回は飽甫さんがスキルを使ったのか、装備がたっぷりな状態に戻ったんだけど。壊される武器の数が増えただけだったよね。そんな結果だったからか、2回目はなかった。
「それにしても、刻印武器って鍛えると魔剣にも勝てるんですねー」
「相当鍛える必要があるけれどね。……というか鈴ちゃん、もしかして彼ら、あえて上位職にしてないパペットじゃないかしら」
「わぁ。テクニックとしては存在しますけど滅多にやらない方法を……!」
木透さんと門崎さんがそんな話をしていたけど、僕は聞こえないふりをする。うん。つまり籠家さんのパペットは強いって事。
さて。これで召喚回数2回分の召喚獣を倒された飽甫さんだけど、まだ召喚回数は3回残ってる。もちろん、召喚できる召喚獣がいればの話だし、その召喚獣がちゃんと鍛えられているかどうかは別の話。
けど……飽甫さんは、そのまま降参を宣言した。召喚できる召喚獣がいなかったら審判が終了を宣言するから、自分で勝負から降りたって事だ。
「ま、それぐらいの判断は出来るでしょう。これ以上となると、あったとしても表には出せないでしょうし」
「マシな召喚獣が残ってたとしても、大損害ですからね! それにしても、最終的に千本ぐらいあった気がするんですが……!」
「まぁ、三桁には収まらないわよね。どう考えても」
……魔剣、千本かぁ……。
いや。いや、うん。ここまでの飽甫さんの様子とか、木透さんと門崎さんの話とかからして、全部誰かからぬす……奪い取ったものなんだろうけど、だとしても、うーん……。
……これ以上考えないようにしよう。絶対どうしたって間違いなく、門崎さんのお店で服を買った時以上のあれになるだろうし。ぼくはなにもきづかなかった。
「え、えっと、でもこれで、籠家さんは、決勝戦出場、決まった、んですよね?」
「そうですね! あと3日かけて各ブロックの決勝戦をやって、最後の1日で優勝決定戦です!」
うん。そう。大事なのはそっち。籠家さんが、最終日の決勝戦への進出を決めたって事。だってブロック決勝戦で勝ったんだから。
違うブロックの準決勝戦と決勝戦があと3日かけて3回あって、それが終わったらシード枠の1人、えっと……勇者? だったかな? の人を含めた5人で決勝戦だ。
……今なら分かる。出来レース、って言葉の意味。だって、飽甫さんを含めた5人で、普段はパーティを組んで、外に向けた宣伝活動をしてるって話だったから。シード枠の勇者の人が、パーティメンバーと戦って勝つ。これが、「お決まり」だったんだと思う。
「楽しみね、鈴ちゃんの大活躍。――本当に」
「こうなってきたら一周回って私も楽しみになってきました! 他にも届いてますからね、色々、こう、あっこれ絶対に揉み消されるなーってあれこれが!」
それはそれとして。
門崎さんと木透さんの「楽しみ」な方向も、それはそれでどうかと思うんだ。
笑顔が黒いし怖いし、ヤケっぱちにならないで欲しいんだ。言ったところで何もならないし、実際、そういう事になるだろうから。
ただ、気になるのは。
「……ドラゴン。本当に、出してくるのかな……」
誰かが途中で入ってきたら。って思ったら怖くて、結局、門環町に来てからわたげは召喚出来てない。一回も。召喚していない間、召喚獣は特別な空間で眠っていて、お腹がすいたり弱くする事も無い、って聞いているけど。
でも、魔力を込めた飴玉はずっと持ち歩いてる。本当に美味しそうに食べてくれるんだよね。鱗もつるつるすべすべで、磨いてあげたら、本当に宝石みたいで綺麗なんだ。
わたげを召喚する時に、僕は鳥でも兎でも可愛がる自信があった。でもそれはそれとして、召喚に応じてくれたのがわたげで良かったって思ってる。
……勇者の人は、ドラゴンの事。
どう、思っているのかな。