53波_第一ブロック決勝戦(拮抗)
僕も含めて、ほとんどの人が呆然としている間に、2つ、動きがあった。
1つは飽甫さん。手に持っていたのとは違う、宝石がくっついてないとただの木の枝と間違えそうな杖を引っ張り出すと、それを舞台の上へとぶん投げた。
もう1つは……とりあえず見える範囲、舞台の上からはいなくなっていた、パペットだった。「職業」つきのパペットはどうやら、その半分ぐらいを、上へと投げ飛ばしていたみたい。
「……え」
投げれば落ちる。その当然の理屈で、でも着地の衝撃をそれぞれのパーティにいる大きな盾を持ったパペットが相殺する。そうやって数は半分を少し切るぐらいのパペットが舞台の上に戻ったところで、飽甫さんが投げた杖が強い光を放った。
すぐに消えたけど、その光った所には、さっき召喚されて、いなくなっていたリビングアーマー……門崎さんが言うには、グリードアーマーっていうらしい召喚獣が、元と何も変わらない格好で立っていた。
「……そこまで、しますか」
とりあえず見た目には、一方的にパペットが半分に減らされた。そういう状況を見て、でも、木透さんはそう呟いた。いつもと全然違う、かたくて冷たくて、僕でも怖いと思うような声で。
でも、僕には何が起こっているのか分からない。解説の人も困惑しているみたいに、もしくは分かっていても言う訳にはいかないって事なのか、言葉を濁して具体的な事は何も言ってない。
「自爆戦法。……本当に、ただの外道だったようね」
だけど、やっぱりというか。木透さんと門崎さんは、分かってるみたいだ。……いや、待って? 自爆戦法。それって確か……。
「召喚獣を自爆させて……復活させる、っていう……?」
確か、ギルドで読ませてもらった本で「禁止された」戦い方、だった筈。
召喚獣は、「自爆」っていうスキルを覚える事が出来る。もちろん覚えられる召喚獣は限られてるけど、リビングアーマーとか、物が動いている……物質系、だったかな。そういう召喚獣は覚えられる。
で。その「自爆」ってスキルは、そのスキルを使った召喚獣が強ければ強い程、強い爆発を引き起こす。……でも当然、そのスキルを使った召喚獣は、しばらく召喚できない。それはそうだよね。だって「自爆」なんだから。
でも。そのしばらく召喚できないっていうのは、召喚獣を復活させるアイテムを使えば、無かったことに出来る。だから、復活させるアイテムをたくさん用意して、召喚獣に連続で「自爆」を使わせる。これが、自爆戦法。
「そうよ。ただし「自爆」させられた召喚獣は、召喚者を嫌いになる。召喚獣から嫌われれば、召喚できなくなる。当たり前の話よね。当たり前の話なのだけど……その瞬間火力は魅力的だったのよ。特にあんな、グリードアーマーを召喚できるような外道にはね」
召喚獣も、召喚者を見限る事が出来る。だから普段から召喚獣を大事にしなきゃいけない。当たり前の事だよね。……当たり前の、筈なんだけど。
飽甫さんは、それが当たり前じゃなかった、のかな。
「でも、蘇生アイテムは使用禁止までいかなくても、持ち込み数に制限がかかっていた筈です! 何度も使える戦法では無くなってなきゃおかしいんですけど……!」
「だからあそこで使ったんでしょう。少なくとも、2万体ぐらいのパペットがやられたようだし」
「むしろ半分弱も残ったとか、流石籠家さんですね」
「まぁそれはそうよね。明らかに全面攻撃だったのだし」
門崎さんと木透さんが会話している間に、グリードアーマーとパペット達の戦いは始まっていた。とはいえ、流石にさっきとは違うのか、攻撃が上手く通らないみたいだけど。
でも、グリードアーマーにただ薙ぎ払われるだけって訳でもない。というか、やられてるパペットはいない。とりあえず、僕が見える範囲では、だけど。
遠くなってて見えにくいけど、飽甫さんはかなり嫌そうな顔をしてるみたいだ。……まぁ、そうか。そうだね。絶対あれは、一度全滅したと思ったよね。もう一回分、余分に召喚回数を使わせたと思ったよね。
「……一瞬で全滅しなければ、パペットにとって全ての傷はかすり傷」
そして、全滅を避けるだけなら、手段はいくらでもある。籠家さんが僕に教えてくれた、パペットの基本戦術。
そうなんだよなぁ。
パペットでダンジョンを攻略しようと思うと、一瞬で全滅しそうになるのは、割とよくある事だからなぁ。