49波_対抗戦力と実力の底
『……相も変わらず趣味の悪い』
うわぁ。と思いながら飽甫さんの召喚獣、グループで召喚されたリビングアーマーとリビングウェポン・レギオンを見ていたら、その画面の下に字幕が出た。ちなみに、流石に部屋の中央に戻って、壁を大きく使って観戦してる。
趣味が悪いっていうのは……まぁ、その、ともかく。相も変わらずって事は、飽甫さんの事を籠家さんも知ってたんだろうか。それに対して飽甫さんが肩をすくめたから、この御前試合でも決闘と一緒で、相手の声は届くのかもしれない。
でもそれだけで、籠家さんは杖を抜いた。アイテムとして使う方の杖で、あれは確か、炎の矢を飛ばす奴だ。けど。
「え?」
籠家さんは右手で炎の矢を飛ばすアイテムの杖を。そして、左手でもう1本、こっちはたぶん、氷の矢を飛ばすアイテムの杖を抜いた。両手持ちだけど、アイテムの杖ならともかく、召喚する時に杖を2本持っても、意味はない筈だけど……。
「あら……鈴ちゃん、割と本気ね。まぁ残す試合はこれを含めて2つだから、別に問題ないんでしょうけど。分かっていれば防げるようなものでもないのだし」
「え」
でも、門崎さんはそんな事を言っていた。木透さんの方を見たら、あー……。って感じの顔で軽く何度か頷いてる。あ、これ2人は知ってるやつだ。
『紅蓮と紺碧
地の溶岩と天の蒼穹
朝夕日に焼ける空と光届かぬ海の底
極にして対
今一時並び立て――ダブルエンチャント』
と思って籠家さんの方を見てたら、籠家さんは両手の杖でバッテンを作るみたいにしていた。それでこれは……もしかして、籠家さんのスキルかな?
あの杖じゃなくても使えるんだ。と思ったけど、そもそもスキルっていうのは、人が持っている能力、だ。杖が違っても、使えはするんだ。もちろん、あの杖を使った方が使いやすいとか、そういうのはあるんだろうけど。
『【サモン:エクステンド:クラスパーティ×300】』
で。籠家さんは自分のスキルを使った上で、初めて召喚名に「パペット」が入らない召喚をした。といっても、パペットはパペットだったんだけど。
「わぉ、壮観ですねー」
「まだまだ加減してるわよ。ま、あの泥棒をボコボコにするには十分でしょうけど」
ずら、と並んでみせたのは……全てが黒い武器を持ってるし、8体一塊になってるけど。両手剣、両手斧、片手剣と盾、大きな盾、短剣、弓、長い杖、短い杖で8体。これまでも「パーティ」って名前の付いた特殊召喚をしているのは見た事あるけど、それより2体多い。
クラスパーティ、って籠家さんは名前を付けてた。特殊召喚。という事は。
「あれ、全部、「職業」持ちのパペットなんですね……」
「それも鈴ちゃんの事だから、下手な探索者より戦い慣れてるし連携できるパペットよ。もちろんステータスは変わらないけど……」
「ステータスだけを見ていれば、痛い目を見るどころか手も足も出ない可能性は大いにありますね!」
というか、単純な数だけで、8体が300組で2400体なんだよね。「職業」を手に入れて進化しているなら、その分だけ、召喚するのに必要な魔力は増えてる筈なんだけど。
……。まぁ、パペットだもんね。たぶん、普通の召喚獣に比べれば、誤差とは言わないけど……って量しか使わないんだと思う。
それにしても、召喚名に「パペット」が入らなくても、召喚するのがパペットの上位種族だけだったら、数を指定して召喚できるんだ。……あれ? でも待って。
「……木透さん」
「はいなんでしょう!」
「確か「職業」って……もっと上がありました、よね?」
「ありますね! 上級職特殊職ユニーク職などなどが!」
なるほど。間違いない。籠家さんは、あれでもまだまだ全然手加減してる。
だって、ギルドの資料室で調べた事があるんだ。「職業」について、ざっくりとだけど。そしてそこには、「職業」は使い続ける事で、より強力な「職業」に変わるって書いてあった。
それに、それこそ対戦相手の飽甫さんの召喚獣だって、特別な「職業」がある。その能力を使ってる。だったら。
「籠家さんが、持ってない訳がないですよね……」
「そう言う事よ。ま、今回は基本職だけで十分でしょうけど」
ふふん、と門崎さんが胸を張っている前で、「職業」持ちのパペットの群れと、鎧と武器の群れが、戦い始めた。