47波_準備と警戒と手段の理由
そして。あっという間に、第一ブロックの準々決勝の日がやって来た。ここからはルールが変わって、召喚回数は3回から5回までに。待機場所から召喚主が使えるスキルは1回から3回までに。試合の制限時間は30分から3時間に。つまり、出来る事がぐっと増えるらしい。
ここまで、「職業」で進化したパペットと、アイテムである魔法の杖を使っての召喚で、ほぼ全ての相手を一手で倒してきた籠家さん。当然、準々決勝でもさくっと勝っていた。うーん、強い。
「試合時間が余っても、前倒しとかにはならない、んですね……?」
「まぁそれはそうよね。だってここからは試合ごとのチケットになるもの」
「えっ」
「そうなんですよねー。しかもちょっとお高いという。まぁその分ここからは試合全体が放送されますから、そちらでも見るだけなら見れるんですけど」
……。育扉市って、そんなにお金に困ってるのかな……?
ちなみにこの貴賓席は、元が本戦出場者(籠家さん)から贈られたチケットでとった席になる。その場合、贈った出場者(籠家さん)が勝ち残ってる限りはずっといていいらしい。それで今日は帰らないのかな?
もちろん、この部屋はホテルみたいなもので、何なら仕切りとベッドも出せるからそのまま寝泊りできるんだけど。簡単なシャワーだけとはいえ、身体も綺麗に出来るし。
「ここからは色々危ないから、鈴ちゃんが優勝するまでは帰らないわよ?」
「えっ」
「あー、それでお店の方も主に物騒対策系の準備してたんですねー」
「えっ?」
なに。色々危ないって、何。あと木透さん、準備、の前の「色々」が何か、ちょっと違って聞こえたんだけど、何!?
観戦するのにどうしてこんなに危険な事をしないといけないんだろう……。と思ったけど、ちょっとここまでの事を思い出してみる。
この御前試合は、木透さん曰く、出来レース。でも、籠家さんにはそんなの関係ない。というか木透さんと門崎さんは、むしろ出来レースなんて壊してしまえって感じ。正直僕も、ドラゴン相手でも籠家さんが負けるとは思わない。
でも出来レースって事は、大人の事情。つまり、神様以外の人にとっては壊されたら困る、大事な「予定」だ。それを壊そうとする相手がいたら……まぁ、妨害ぐらいは、するよね?
けど、籠家さん本人に攻撃したり、試合に出れないようにしたりしたら、それはそれで問題になる。問題を起こしたくないのに、問題を増やしちゃったら意味が無い。じゃあ、どうすればいいかな? って言うと……。
……もしかして、僕らが、狙われる?
だから門崎さんは、ここまで、木透さんが僕に見せないようにするほど、そういう……危ない手段に対する準備を、してた? そういう、事?
「…………。御前試合、なんですよね?」
「御前試合よ」
「御前試合ですねぇ」
「偉い人の前だから、ちゃんとしよう、とか、そういうのは……」
「無いわね。むしろ真逆、偉い人の前だからこそどんな手段を使ってでも成果を上げようとするのよ」
「むしろ普段のダンジョン探索の方が圧倒的に平和でしょうねー。7級以上であっても」
そういう事らしい。……怖いなぁ……。やる気の使い方を間違っちゃう人、怖いなぁ……。というか、籠家さんが端沼でのんびり(?)過ごしてた気持ちがちょっと分かったかもしれない……。人を傷つける方向で頑張ろうとする人、怖い……。
そんな話はしたけど、でも、門崎さんがちゃんと警戒しているから大丈夫、って言われて、そのままここで過ごす事になった。いや、それはいいんだけど。
「あの。何で僕の寝るところが、門崎さんと木透さんの間なんです……?」
「だめだったかしら?」
「籠家さんとも添い寝してたとか」
「してませんよ!?」
「えー? でもベッドの注文と到着までに何日かかかってましたよねー?」
「空いてた部屋を片付けてそこにほぼ新品の分厚いマットと毛布を重ねて寝袋使ってましたから!? 同じ部屋で寝た事すら無いですけど!?」
「あらやだ可愛い。このままじゃダメかしら」
「ダメ! です!!」
……何とか押し切って、ちょっと離れたところで寝させてもらう事になった。良かった。自分の寝相は分からないけど、何回かちゃんと被ってた筈の毛布が床に落ちてる事があったから、自信ないし……。
うん! だからさ! 僕が仕切りの中にいないのに、着替えようとするのは止めてほしいな! というか2人共僕が何歳に見えてるの!? 木透さんは僕の年確認したよね!? どうして!?