44波_御前試合本戦開始
改めて木透さんが、人型モンスター、あるいは人型召喚獣における「職業」について説明してくれたんだけど。「職業」っていうのは、時々出てくる専用のアイテムを使うか、特殊な敵を条件付きで倒すか、同じ系統の装備を使い続ける事で起こる、モンスター/召喚獣の変化なのだという。
基本的には一度「職業」を得たらそのままで、他の「職業」に変える為にはまた「職業」をつける為の変化を起こすしかない。ただ、「転職」はその回数を重ねる程に難易度が上がるんだって。
「職業」自体にも難易度があるみたいなんだけど、それでも基本と呼ばれる「剣士」とか「魔法使い」とかは、武器を使い続ければいいらしい。ただ人型召喚獣は大体の場合、「職業」が進化にも影響するから、難しい「職業」を狙って頑張る人は多いみたい。
「え? でも、パペットです、よね?」
「そうなんです。パペットなんですよ。あの、数を揃えて何割かが通ればオッケーというパペットで、しかも装備は増えませんからね! ほぼ確実に使い捨てになります! しかも大前提としての数が必要ですし!」
「……あの。そもそも「職業」がついたら、他のパペットは召喚できなくなるんじゃ……」
「いやーそこがびっくりなんですけどねー。どうやら条件1、武器を持った時に。条件2、何も装備していないパペットがいれば。素のパペットも召喚対象として残るみたいなんですよ」
「え、えぇ……?」
……パペットって不思議だなぁ。いや、パペットだけが複数体召喚できるって時点で、特別と言えば特別なんだろうけど……。
……あれ? でも、そうだったとして。それじゃあ籠家さんは、パペット(の一部、って言い方でいいのかな)の「職業」が決まる程武器を渡し続けた、って事?
確かに籠家さんは、まぁ、その、それこそ普通の武器ぐらいならいくらでも稼げるだろうけど……。
「そこは! この! 門崎シエルのお陰よね!!」
「ひゃぅっ!?」
でも武器とか、ほとんど全部ギルドに売ってたような……? なんて思っていたら、突然大きな声が聞こえてびっくりしちゃった。そしてびっくりしてる間に、僕から見たら左側、映像が出てる方向の正面に、門崎さんが座る。
「ま、これ以上は見ながら解説してあげる。ほら、始まるわよ」
……。大きい画面を全体では、使わないのかな……? とは思ったけど、そう言われて改めて小さく切り取った画面に目を向けたら、もう籠家さんも、対戦相手の人も、待機場所に立っていた。
僕が画面を見た時に、本当に丁度『始め!』の声が響いていた。そして対戦相手の人はすぐに……あれは、かっこいいけど、銃かな? それを前に出している。そしてその前に、魔法陣が……って、あの、おっきくないかな……?
それこそ、僕が今いるこの貴賓席ぐらいはありそうな大きさの魔法陣から出てきたのは、その魔法陣がまだ小さいと思ってしまうような大きさの、白くて大きな鳥だった。
「ロック鳥ですね。空を飛ぶ事に関してはずば抜けてます。一度捕まったら逃げられませんし、どんな重量物でも高高度まで運べる怪力が特徴ですね!」
「流石ギルド職員というべきかしら?」
「これはどっちかというと個人の趣味です!」
その鳥が飛びあがる前に、木透さんがその正体を言い当てた。ロック鳥。飛ぶことが得意……って、それ、もしかして。
「……時間いっぱい、逃げ切り……?」
「でしょうね。もちろん相手が隙を見せたら攻撃もするでしょうけど」
「まぁあそこまで育ったロック鳥は少々被弾したぐらいじゃ姿勢を揺るがすこともできませんからねー。射程距離のある火力が必要ですよ」
そう言っている間に、ロック鳥は高く、それこそ見えない程高く飛び上がった。……そのままぐるぐる回ってる。本当に逃げ切るつもりみたいだ。
でも、パペットの組体操でも、流石にあの高さは届かないんじゃ……って思っていたら、ここでようやく籠家さんが、一応これだけはいつも通り着けてたらしいベルトから、杖を引き抜いた。
けどそれは、いつも使ってる杖じゃなくて……。……あれって確か、振って攻撃する為の杖だった筈、なんだけど。
「神様からのお願いがあったからかしら。鈴ちゃんにしては大盤振る舞いね」
「いやー、会場が度肝を抜かれる瞬間が楽しみですねー」
「え?」
それを見て、何が起こるのかが分かった風の、門崎さんと木透さん。でも、え? って僕が声を上げてる間に、籠家さんは口を開いてた。
……後で教えてくれたんだけど。貴賓席のモニターは、その貴賓席に行くためのチケットを出してくれた本戦出場者に限り、何て言ったかの字幕が出るらしい。
『――【サモン:パペットアーチャー×500】』
え。って、僕がもう一度言う前に、ロック鳥が出てきた時に負けないぐらい大きな魔法陣が出てきた。
そしてそこから出てきたのは、パペットだ。パペットだけど――その手には、全く同じ大きさ、全く同じ形の、「黒い弓」が握られてる。
『対象、上空。全体構え』
それだけじゃない。籠家さんによる、構え、の掛け声で、パペット達はその弓を上に向けて、そのまま引き絞った。
矢が無いのに? と思ったけど、弦が引かれたら、そこに、矢の形をした雷が出てきた。本当に。パペットが弓を構える動きに合わせて伸びて行った。
僕も、会場のほとんどの人も、たぶん対戦相手の人も、皆ぽかーんとするしかない。でもその中で、明らかに狙われてるロック鳥だけは慌てて、旋回する動きはそのまま飛ぶ速さを上げてたけど……。
『後列、斉射開始』
……まぁ、500の半分、いやもうちょっと少ないかな。それでも100以上の、矢の形をした雷に撃たれて……無事でいられる訳がないよね。