41波_本戦最終出場者決定戦中
結局僕は、一切周りの人の手を借りずに、1人でダンジョンに挑む事にした。
門崎さんを始めとした周りの人は、それは……それはもう心配してくれたけど。やっぱり僕は、わたげの事を打ち明けるのは、ちょっと怖かった。
流石に、いくら籠家さんが信頼していても、僕にとっては出会ったばかりの人達だったし。……それに。召喚獣とモンスターは違う、って分かってても、やっぱり、ドラゴンの素材を扱ってるのを知っちゃったら……。
「1人で5級のダンジョンに挑むって言うから様子を見てたが……」
「パペットだけの筈なのに、1日2個ペースかよ……」
「流石あの籠家鐘鈴の弟子だな……」
……そう言えば、木透さんに、ダンジョンの攻略ペースが速いって言われてたんだった。っていうのを僕が思い出したのは、水曜日に門環町に到着して、土曜日になったから「今日は休み」だって気付いた時だったんだけど。
ちなみに、籠家さんはそこから、本当に一度も帰ってこなかった。……そんなことある? ってぐらいに、連絡も何も無かった。ただ時々他の人達、たぶんギルドに行って帰って来た人の話に出てくるぐらいだった。
……その内容が、大体は、その、今僕が向けられてる感じのやつだったけど。素のパペットだけでブロンズランクは、史上初の快挙なんだって。パペットは弱い、っていう価値観が、ひっくり返ったんだって。
「……籠家さんだしなぁ……」
召喚主の指示なしでも、確か、5級のダンジョンぐらいなら攻略できるって言ってた筈だから……。5級って、今僕も攻略してるけど、1人前の目安になるだけあって、かなり難易度が高いから……。
しかも聞いてる感じ、召喚する数の制限はついてない。そんなの、止められる訳がない。正直、今のわたげでも止めるのはかなり難しいと思う。だって籠家さん、というか、籠家さんのパペット……武器も道具もなしで、空中の敵を、落とせるんだよ?
あれはすごかったなぁ。組体操みたいにパペットがお互いに連携して、2体で1体を空へ打ち上げるんだよ。で、1体でも飛んでる相手に組付けたら、そこから翼を拘束して飛べなくする。翼が動かせないなら、飛べないからね。それで落ちたら、囲んで叩く。文字通り。……うん。まぁ。大分力業なのは確かだけど、パペットだし。
「なぁお弟子君」
「ひゃいっ!?」
「あぁ、まったまった脅かしたい訳じゃない。……パペットって、対空戦闘できる?」
「へ? え、っと、あの……」
「出来ないよな、やっぱ。うん」
「いえ……その、出来ます、よ? 僕はまだ、成功率、低いですけど……」
「マジで? ……え、飛んでても逃げられないん?」
「……逃げられないと、思います……」
そんな事を聞かれて、正直に答えたら、何故かその人は頭を抱えて唸り始めてしまったけど。……後で聞いたんだけど、その人。空を飛べる召喚獣がいて、本戦出場権を手に入れたところで、籠家さん対策がしたかったらしい。
「お弟子君に話を聞いた程度で鈴ちゃん対策が出来る訳ないじゃないの」
「あ、あはは……」
……何故か僕より自信満々に門崎さんが言い切っていたけど……その、僕も正直、そう思う。籠家さん、パペットでの戦い方は(実地というか見学含めて)色々教えてくれたけど、絶対、僕にはまだ伝えてない戦い方……手札が、あると思う。
だって。籠家さんは、ダンジョンの奥に進まない。……なのに、なんであんなにたくさんの杖を持ってたのか。実は僕は、まだ聞いてない。
あれも、絶対に何か意味がある筈なんだ。だって籠家さんがつけていたベルト、あれは身に着けてる人の魔力を吸い上げて、杖に注ぎ込んで、その使える回数を増やしていくものらしいから。
「あ、そうだお弟子君」
「はい?」
そうこうしている間に時間は経って、11月が終わりそうになっていた。御前試合は2ヵ月かかる。でもそれは、本戦の中の予選、各地区のギルド支部から選ばれた人達がグループに分かれて集団戦をして、何十人かを1人に絞り込む戦いを含むらしい。
人数が多いって事は、召喚獣も多い。だから場所もたくさん使うし、後片付けも大変だ。だから、それに1ヵ月かかる。それが終わってからだから、1対1の本当の本戦は、12月いっぱいって事になる。
……なるほど。だから木透さんは、1ヵ月丸ごとのお休みを取ったんだ。と、納得してたんだけど。
「鈴ちゃんから本戦観覧チケットが届いたのだけど、私と合わせて貴賓席で見る? それともうちで働いてる人と合わせて一般席で見る?」
「……はい?」
「ちなみにオススメは貴賓席。眺めが違うのもあるけど、トイレとか飲み物とかに配慮されてるし、何より他の人にもみくちゃにされないわよ?」
「…………はい???」
えっ。
きひんせき、って、なに。
というか籠家さん、本戦出場決めたんだね……まぁ出来るだろうけど……。