39波_お店の地下と秘密の線引き
このお店、「シエルズメイド」の地下には、ギルドの召喚部屋みたいな場所があった。それも、ダンジョンの攻略準備室とほとんど変わらないぐらいの広さだった。
何で? と思ったんだけど、門崎さんのお店は魔法装備道具店。装備だけではなくて、道具の買取と鑑定、販売もしてるらしい。そして効果が分からない道具や、新しく作った武器の試し撃ちをする為に、これだけ大きな部屋が必要だったみたい。
「超大型の召喚獣もいるし、そんな召喚獣用の装備も作ってるからな」
「最近で一番大型だったのはキメラね。尻尾の蛇にも兜を作ってと言われた時はどうしようかと思ったけど、何とかしたわ!」
で、その部屋で僕はパペットの召喚をしてみたんだけど……すごい。一気に千体召喚してみたけど、余裕だ。流石に4桁になったら僕もそこそこしんどいんだけど、まだまだいけそう。すごい。
それに、結構分厚い服の筈なのに、全然重くないし、暑くない。むしろ、動きやすい。服を着る前より動けてるかもしれない。……いや、それは流石に気のせいかな。
それは良かった。すごく良かった。……ん、だけど。
「へ!? 地下にダンジョンが出てくるんですか!?」
「そうよ~。ちょっとしたコツってやつでね。結界石を置く場所を工夫すると、地下だけを効果範囲から外せるの」
「まぁ普通の家でそれをしても、クリアストーンが邪魔になるだけなんだけどな」
「そこはちゃんと抜かりないわ! クリアストーンの買取許可は貰っているから大丈夫よ!」
何故か、お店の地下室に案内されて。その先に、扉の枠がたくさんあって……ずらっと、ダンジョンが並んでた。
そうやって話をしてる間も、何人かの人が扉を出入りしているし、1組だけどクリアストーンを持って出てきた人達がいたから、ダンジョンで間違いないみたいだ。
……クリアストーンの買取許可を、ギルドから貰ってるんだ。そういうのって大丈夫なんだ。すごいなぁ……。
「結局ギルドには報告してないから、攻略実績にはカウントされないんだけどな」
「え? え? えっと……?」
「お金を稼ぐだけならここで十分って事だ。どうせ実績なんていくらでも積める」
「それを言い切れるのが鈴ちゃんよね。そのお弟子の鈴木君もそうなんだろうけど」
「えっ」
と思ったら、そこまで全部何もかもが良い話じゃなかったみたいなんだけど……下手に実績を積むと、厄介事を押し付けられるぞ、って籠家さんは言ってた。あ、うん。そうか。籠家さんが、絶対そんな訳がないのにブラックのままでいるのと同じ理由かな。
でも僕、まだわたげ抜きだと2級のダンジョンまでしか攻略出来ないんだけど。今並んでるダンジョンの扉、周りの話を聞く限り、最低でも4級からみたいなんだけど……?
……そう言えば、育扉市は中央に行くほど、ダンジョンの発生率と難易度が上がっていくんだっけ。端沼地区にいた時は、5級以上なんてめったに見かけなかったけど、門環町ではそれが普通なんだなぁ……。
「あぁそうだ」
確かに大きいお金が出て行って、ちょっと不安なのは確かだけど……これは、僕が攻略できるダンジョンは無いんじゃないかな……? なんて思ってると、ふとした感じで籠家さんがこう言った。
「シエルには諸々細かい事まで説明したし、その辺ちゃんと黙っておく事が出来るのは間違いないから、話すかどうかは自由にしていいぞ」
……。
…………。
うん?
「え?」
「もちろん他の人がいない状態での方がいいだろうけどな。あとシエルも召喚獣をかなり鍛えてる方だから、普通に6級のダンジョンぐらいなら単独踏破できるぞ」
「ぅえ?」
「装備を痛める事になるけど、もうちょっと頑張ったら7級の単独踏破も余裕をもって出来るわよー」
「え???」
話すかどうかは自由にしていい。
何を?
ダンジョン攻略。難易度が高い。でもそれは、パペットだけの話であって……。
「えっ!?」
「鈴ちゃん、お弟子さんの育成について色々お話ししたいのだけど」
「情報はいくら隠してもバレる時はバレるからな。何よりあの木透さん相手だぞ」
「……怒らなきゃいけないのに納得しかないわね」
それはたぶん、わたげの事を、だ。
えっ!? いいの!?