34波_到着と他の用事
木透さんに送ってもらった僕と籠家さんは、そのまましばらく移動して、ちょっと路地裏にあるビルへと移動した。看板とかが何も出て無かったから不安になったけど、ここがホテルだったみたいだ。
籠家さんは帽子のつばを引き下げて顔を隠していたけど、泊まる為の手続きは普通に出来たみたい。僕らの部屋は5階で、一番上の階の部屋だからちょっと上り下りは大変だけど、頑張ろう。
「いや、普通にエレベーターがあるからな?」
「あっ」
そうだった。エレベーターがあったんだった。体力づくりもしたいけど、疲れてる時は使わせてもらおう。
部屋は1人1つずつだったけど、隣り合う部屋だったから安心だ。自分の部屋に入って、備え付けの家具に持ってきた荷物を入れていく。……部屋は1つだけどお風呂とトイレが別だし、結構いいホテルなのかな?
最後にお財布と探索者証が入った鞄と杖をベルトにしっかりと固定して、これでオッケーだ。
「……そう言えば籠家さん、報酬の振り込みはちゃんと確認させてくれてたけど、実際のお金はお小遣いみたいにしかくれなかったな……」
あれ? 結局はぐらかされたけど、もしかして僕ってかなり子供に見えてた……? 確かに、身長は全然伸びないし、筋肉もそんなについてないけど……。
い、いや、うん。僕の成長期はここからだ。籠家さんの弟子になってからは3食おなかいっぱい食べられてるし。ここからぐんぐん伸びて、きっと籠家さんより背が高くなる筈。きっとそう。
やっぱり基本的に階段を使おう。と決めながら部屋を出て、鍵をかける。隣の部屋の扉をしばらく見てみるけど、籠家さんが出てくる気配は無さそうだ。確かに、まだ予選が終わってないのに、結構な人が通りを歩いてたから、人は多そうだけど……。
「籠家さん、籠家さーん」
「……分かってる。今行く」
実は今回、門環町に来た目的は、籠家さんの御前試合への出場だけじゃない。……正しくは、どうせ御前試合には出場しないと行けないなら、他の用事も出来るだけまとめて済ませておこう、って事なんだけど。
その1つが、籠家さん行きつけの魔道具屋さんで、僕専用の杖を作る事だった。籠家さんが決闘で使ってたあの大きな杖を作った人で、他にも色々作ってくれている、とっても腕の良い人らしい。
ただ、すごい人なんですね! って言ったら、何故か籠家さんは目を逸らしてしまったんだけど。どうしてだろう? すごい人には違いないって言ってたから、すごい人で間違ってない筈なんだけどなぁ。
「待たせた」
そんな事を思い出している間に、籠家さんが出てきた。……何故かいつもの魔女みたいな恰好じゃなくて、もこもこしてる男の人みたいな恰好だけど。というか、着替えとかしてない感じだ。
いや、うん。籠家さんの持ってるマジックバックは、正直底が見えないぐらいにものすごく容量がある。とりあえず全部入れちゃえばいい分だけ中に入ってるものを探して取り出すのがちょっと面倒そうだったから、着替えを探して出すっていう時点で大変なんだろうなっていうのは分かるんだけど。
……どっちかっていうと、籠家さんが片付け下手なんじゃないかな。っていう気が、ちょっと。あと、割と面倒くさがり。流石に2ヵ月も一緒に暮らしてたら、うん。
「どうした?」
「いえっ。僕専用の杖、楽しみです!」
「そうか」
部屋の鍵をかけて、鍵をポケットに入れた籠家さんにはそう答える。口に出さなければセーフ。楽しみなのも本当だし。僕も部屋の掃除はそこまでこまめにはやらないから、あんまり籠家さんの事は言えない。
ただその直後に籠家さんがエレベーターに向かってたから、僕は慌てて階段を使いたいって事を伝えて、籠家さんを説得する事になったんだけど。た、たぶん大丈夫。たぶん。途中で倒れるとか、そんな格好悪い事にはならない、筈……!