33波_中心となる街にして会場
僕の実年齢と見た目についてちょっとその場でもめたけど、結局は断れないって事で、木透さんの押しに対して籠家さんが折れるという形で、育扉市中央の街、門環町へと向かう事になった。
僕が籠家さんと出会ったのは、8月の始め。そこから2ヵ月ちょっと経ってるから、今は10月だ。ここから年末までだから、御前試合っていうのは2ヵ月もかかるらしい。
予選はもう始まっていて、それは育扉市の各地で行われているらしい。各地の支部ごとに出場枠があって、その数を決めるのは、その地区で1年の間に攻略されたダンジョンの合計レベルなんだって。
「だから今年の端沼支部は結構枠がたくさんもらえた筈ですよ! えぇ、どこかの師弟の活躍で!」
「だから招待状を送る余裕があったのか……」
…………。
あっ、もしかして僕と籠家さん!? だから籠家さんぐったりしてるんだ!? あ、あぁ、それは、その……じごうじとく、って言うんだっけ、こういうの……。
けど、籠家さんはぐったりしちゃってるけど、門環町にいくのは、ちょっと楽しみだったりする。ダンジョンのアイテムとか、モンスターの素材で出来たものも普通に売られてて、すっごい賑やかだって話だけは聞いてたから。
「鈴木君は初めてでしたっけ?」
「はい。初めてです」
「そうですか! ならそのままわくわくドキドキ楽しみにしててください!」
「えっ」
「……ものすごく顔と態度に出てるぞ。楽しみそうな空気が」
「えっ」
……ちょっと落ち着こう。うん。
木透さんに送ってもらえるって事で、僕はいつもと違う、余所行き、みたいな服を着てる。それは籠家さんも一緒で、あの魔女みたいな恰好じゃない、んだけど。
こう……布が分厚くて、まっすぐで、ゆったりしてる服に、前につばのついた帽子をかぶってるんだよね。その上からもこもこでつるつるした……コート? を着てるから、パッと見ると男の人にも見える。女の人なんだけど。
「それにしても籠家さん、それはどうかと思うんですよ……!」
「動きやすくて丈夫で軽くて暖かいが?」
「そうなんですが! そうなんですけどそうじゃないと言いますか! 探索者ギルド公式探索服とか、実質ジャージじゃないですか! そのコートも公式ウィンドブレーカーですし! 帽子も公式グッズですし!」
「衣服に求める要素としては完璧だろ」
「それは流石に無いと思います!!」
「公式グッズに暴言を吐いていいのか、正規職員」
「今は知り合いの送迎をしている親切なお姉さんですし、そもそも公式も認めるダサさだからいいんです!」
「ダサいって認めてたのか」
運転席と助手席でいつもみたいな話をしてるけど、運転は大丈夫なのかな? そろそろ他の車も増えてきたし、ぶつかったりしないよね……?
なんてちょっと不安になったけど、木透さんはびっくりするぐらい丁寧に運転してくれた。急ブレーキも急ハンドルもなくて、時々乗ってたバスより揺れなかった。
だんだん高いビルが増えていく風景にわくわくしていると、空の方が狭く見えるくらいビルが増えてきた。ここで一旦木透さんは大きな道を逸れて細い道に入って、どこかの駐車場に車を止める。
「出来ればこのまま一緒に居たいところですが、私もお仕事がありますので……!」
「そうだな。というか、端沼支部は本当に回ってるのか?」
「籠家さんの気配を感じ次第私が出ているだけで、他にも職員はいますからね! 有休をかき集めても1ヵ月が限界でした。無念……!」
「気配って……は? いやちょっと待て、1ヵ月?」
「という事で籠家さん鈴木君、また1ヵ月後に!」
「おいちょっと待て、年末年始は探索者ギルドも忙しいのにそんな有給申請通る訳が……っ!?」
駐車場に止まったところで籠家さんが降りたから僕も車を降りて、荷物を持った。2ヵ月分で僕の物も増えたから、結構な量がある。
……で。僕が荷物を背負ってバランスをとって、周りを見回してる間に、そんな事を言い残して木透さんは車を発進させた。とても鮮やかに駐車場を出て行った木透さんの車に、籠家さんが小さく「逃げやがった」って呟いてる。
「……1ヵ月もお休みって、夏休みですか?」
「社会人には夏休みどころか、3週間を超える休みは無い筈なんだがな……」
ものすごく深々と息を吐いている籠家さん。あ、うん。普通は無理なんだね。
……夏休みで気付いたけど、籠家さん17歳って事は、普通ならまだ高校生なんじゃないのかな。僕が言えた事じゃないんだけど。