31波_魔力の限界と最大値
どうやら籠家さんがパペットを召喚する時に付け加えていた「エクステンド」っていうのは、本来は複数の召喚獣を、同時に召喚する為のものだったらしい。コンビとかチームとか、そういう風に名前を付けて、その名前で召喚するんだって。
パペットの場合は色々特殊だ。複数体召喚出来たり、後から追加で召喚出来たり。だから何か、特殊な召喚の仕方があるんじゃないか、と考えて、実際特殊な召喚方法を見つけた人がいたらしい。
で、その発見された特殊な召喚方法……パペットを魔力の限り、一定数ずつ召喚し続ける、という方法で、100体ずつ召喚していった僕は。
「2万弱だな」
「へ?」
「だから言っただろ、100体ずつにしとけって」
「はい……」
ずっと立っているだけなのに、力いっぱい走った後みたいに苦しい。声がかすれてしまう程喉は乾いてるのに、全然空気を吸い込むのを止められない。ぜーはーぜーはー、パペットの召喚も止めたから、僕の呼吸の音だけが攻略準備室に響いてる気がする。
そこまで。と、籠家さんに言われて召喚を止めて、その直後は立っていられなくなって、その場に座り込んだ。ひとまず籠家さんにスポーツドリンクのペットボトルを貰って一気飲みしたけど、魔力が無くなるのってこんなに苦しいんだ。
そんな状態で聞いた、僕が召喚したパペットの数は……万の単位に届いていたらしい。たぶん途中で回復した分もあるだろうからもうちょっと少ないと思うんだけど、たぶんそれって、多いよね……?
「ちなみに、あのしつこく決闘を吹っかけてくる奴」
「は、はい……」
「あれでたぶん、召喚したのとその後のスキルの維持時間からして、パペットで3000体ぐらいだな」
「…………わぁ」
たぶん、その、三千体っていうのも、多いんだろうなぁ。なんか僕はその7倍ぐらいあるみたいだけど。
まぁ、でも、あの決闘からそれなりに時間が経ってるし、その間も僕は魔力を使っていたし、たぶんあの……棟方って人も、自分を鍛えてるだろうから、そこまで差はついてない、筈。
「ちなみにな、鈴木君」
「はい……?」
「宝石竜は、一番最初の状態で召喚するだけだったとしても、パペット5000体分ぐらいの魔力は必要だからな」
「えっ」
「そこからダンジョンを攻略できる程度に動けるとなると、その倍は軽く必要だからな?」
「えぇ……」
そうなんだ……知らなかった……。
あ。
「……だから、最初に……籠家さんが、魔力の残りを、心配してたんですね……」
「そうだな。普通はドラゴンを召喚したら、その場でぶっ倒れる。正直言って、鈴木君自身もわたげと同じくらい珍しい類だぞ」
「僕、珍しいんですか……?」
「珍しい」
僕は珍しいらしい。わたげとお揃いって事になるのかな。違うかな。たぶん違うな。僕は人間だし。
「……怖い話をするぞ」
「ひぇ」
「実はダンジョンドロップの中には魔力を蓄積して再分配することが出来る物もあってだな」
「ひぇぇ……」
あっ、これ違わないやつだ。僕もわたげと一緒で、ちゃんと強くならないと捕まえられちゃうやつだ。むしろわたげとセットなだけ更に狙われるかも知れない。本当に怖い話だった。
あれ、でもそれだと、たぶんというか絶対に僕より魔力が多くて、スキルも持ってる籠家さんは……と思ったところで、籠家さんが探索者ランクが詐欺にしか思えないくらい強い事を思い出した。そうだった。木透さんっていう強い味方もいるし。
……に、しても……。
「……あの」
「どうした、鈴木君」
「籠家さんって、なんか、ドラゴンについて、詳しいですね……?」
あの決闘からこっち、曜日の感覚が無くなるって事で、土曜日と日曜日は探索をお休みする事になった。その間に木透さんに相談して、召喚獣の図鑑を見せてもらったんだけど、ドラゴンの事についてはほとんど載ってなかった。
もちろん僕が、少なくとも見せている部分だと、パペットしか召喚できない新人だから、っていうのもあるのかも知れない。でも、それにしたって、ちょっと詳しすぎないかな? と、思ったんだ。
ようやく落ち着いて息が出来るようになった僕に対して、もう何体いるのか分からない数のパペットに指示を出しつつ、あぁ、と籠家さんは頷いた。
「探索者の中でも、特に有名なドラゴン使いが居るからな。おかげで一時、ドラゴンに関する情報が溢れてた時期があったんだ」
「ドラゴン使い……?」
「そう。どういう魔力と運をしてるんだか、たった1人で5体ものドラゴン系召喚獣を操る、現状最強の探索者だ」
「そんな人がいるんですか?」
「だいぶ有名な話の筈だが……流石に『グリッターズ』の名前は知ってるか?」
「……えっと」
聞いた事ないなぁ……?
そんな考えが顔に出てたのか、籠家さんは説明してくれた。
「クラン『グリッターズ』。押しも押されもされない最高ランクのクランで、入る基準は8級以上のダンジョンの単独踏破かつ探索者ランクがブロンズ以上である事。ほぼ育扉市の中心に常駐して、高難易度ダンジョンのクリアを担当してる他に、育扉市の宣伝もやってるな」
「育扉市の宣伝、ですか?」
「要は、育扉市で作った物の広告塔だよ。ダンジョンが出来て3年が経ったが、まだ大半の人にとっては訳の分からない存在だからな。それを、安全で便利で何も問題のないものですよー、って伝えてる訳だ」
「あー……」
「で、そこのリーダーをやってるのが、その現状最強の探索者。光武勇人っていうんだ。流石にこの名前ぐらいは聞き覚えが無いか?」
「みつ、みつたけ…………何か、CMとかで見た覚えがある、ような……?」
なんとなーく、格好いい名前だなぁ、って思ったことが、前にもあった気がする。籠家さんは声も顔も変わらないけど、気のせいかちょっと呆れてるような……。
「……自称光の勇者だが」
「あっ」
更に付け足された言葉で、ようやく具体的な見覚えが出てくる。そうだ。育扉市に来る前に、お店のテレビでやってたニュースのCMに出てた人だ。そっか。あの人、そんなにすごい人だったんだ。
「ドラゴン5体って、それは、色んな意味ですごいですね……」
「そうだな」
……?
なんだろう。今、本当に声も顔も変わらないんだけど。
籠家さん……怒ってた?