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28波_スキルと戦略と実力

 僕の視界は整然と並ぶパペットで遮られて、すっかり対戦相手である3人組の姿は見えなくなっていたんだけど、それはあっちも同じだと思う。

 それに、僕は籠家さんの召喚する声が聞こえていたから召喚されたパペットの数が分かったけど、あの3人からじゃ、ただただ数が多いって事しか分からないんじゃないかな。


「な、ん――っだぁああ! 数がどうした! そんなん頭数が多いだけだろ、敵じゃねぇ! 【サモン:ハイウルフ】!」

「そうかなぁ~。【サモン:コンドル】」

「どうかしら……。【サモン:ピンキーモンキー】」

「あれ、声が聞こえる?」

「一応は模擬戦の為だからな。距離があってもお互いの声は聞こえるようになってるんだ」

「なるほど……」

「おいこら無視すんなっ!」


 というか、この数だと一斉に突撃しただけで勝てるんじゃないかなぁ……。なんて思っている間に、3人組の召喚する声が聞こえた。たぶん、1人だけブルーだった人の声以外も聞こえたから首を傾げたら、まだパペットを待機状態のままにしている籠家さんが説明してくれた。

 一緒に来ていた2人はまだ冷静だけど、ハイウルフを召喚した……名前、何だっけ。たぶん中心にいた、リーダー的な人はすっかり熱くなってる。大丈夫かなぁ。武器を持ってるならともかく、素のパペットだと、出来て関節技だと思うんだけど……。

 第一、まだパペットが大人しく待ってる時点で籠家さんの手加減だよね。だって、たぶん、自信満々だったスキルって、これから使うんだろうし。モンスターなら、この間にもう攻撃されてると思うから。


「行くぞっ! スキル、ヒーローメイクっ!!」

「あー……」


 うーん? と首を傾げている間に、ぶわっ! と光の柱みたいなのが見えた。派手だなぁ。と思ったんだけど、籠家さんが納得した感じの声を零してる。……もしかして、知ってるスキルだったのかな?


「なるほど、それで3人組だった訳か……」

「知ってるんですか?」

「割と有名な探索者がいるスキルだ。条件を揃える事で、召喚獣か探索者1人を大幅に強化できる。今回は、犬、鳥、猿で、本人対象の桃太郎をモデルにした強化だろう。まぁ、普通に3級ぐらいまでなら敵なしだな。強い奴を相手にした時程、強化が大きくなるし」

「そんなスキルが……あれ? でも今相手はパペットですよね?」

「戦闘倍率5倍がかかってるからな。普通のボス戦ぐらいの性能にはなってる筈だ。――遅滞戦闘開始」


 僕への説明のついでのように指示を出した籠家さんだけど、そのタイミングで光の柱が消えていった。そして、すぐにパペットの群れの向こう側で、すごい音が聞こえてくる。って、うわ。今パペットが空を飛んだんだけど。


「とはいえ。燃費はそんなに良くないし、このまま時間切れまで粘っても、もしくは押し潰してしまってもいいんだが……」

「押し潰せるんですね……」

「はあ!? ふっざけんな!?」

「ま、怒ってる事を見せる必要があるからな、今回は。私もスキルを使ってやろう」


 そう言って、籠家さんは右手で持ってまっすぐついていた杖を、左前に傾けた。持ち手を持っている右手に左手を重ねて、両腕をまっすぐ伸ばす。杖の先が、パペットの群れ――その向こうの、3人組の方を向いた。


「出来るだけ威力は加減するが……死ぬなよ? 新人」

「待て籠家、良識の範囲でだぞ!?」

「やれるもんならやってみろ!!」

「棟方、熱くなり過ぎだ! 竹浦、道脇!」

「いやー、無理っしょー」

「無理でーす」


 貫山さんが焦ってるけど、元々は貫山さんのせいだよね?

 っていうのはともかく、3人組、というか、そう、棟方さん。彼は止まるつもりがなさそうだし、あとの2人、竹浦さんと道脇さんは、止めるのをすっかり諦めている。

 まぁ、止まらないよね……。と、またパペットが空を飛んでいるのを見ながら思っていたら、たぶん、籠家さんがスキルを使い始めた。


「[真冬の早朝][冷房の送風口][ダイヤモンドダスト][冷凍食品売り場]」


 ……使い始めた、ん、だと思う。

 一見訳の分からない言葉の羅列が増えるたびに、大きな杖の先端、粗く削った水晶みたいなものの中に、ふわふわ光が灯っていく。雪みたいに白くて綺麗だな。


「[霜柱の上][わかさぎ釣り会場][凍った窓] [天体観測の夜] [滝の氷結][北国の停電]……まぁこの辺にしておくか」


 それにしても……と、その言葉の並びから連想したイメージから腕をこすっていると、籠家さんが言葉を止めた。杖の水晶みたいなものの中には、言葉の数と同じ10個の光がふわふわと浮いている。


「そら、行くぞ。構えろよ。範囲設定前方5mから領域端まで、地上0mから領域上限まで。――[凍てつく領域(フリーズエリア)]」


 そして、たぶん棟方さんと、もしかしなくても後ろの2人にも声を掛けてから、魔法みたいに宣言した。途端にふわふわしていた光が結晶の中心に集まって、そのまま前へと飛び出していく。

 その光はしばらくまっすぐ飛んで行って……カッ! とすごく光った。僕は思わず目を庇ったんだけど、それはあっちの3人も同じだったみたいだ。


「うっわ、さぶっ!?」

「むっ、むりむりむり! 私、寒いのムリ!」

「え、ちょ、ま、何で足、はぁ!? 何でこんな動いてんのに凍るんだよ!? しかも剥がれねぇ!?」

「やり過ぎだ籠家! 俺も凍ってる!!」

「十分加減したぞ? 一瞬で体の芯まで氷漬けにしても良かったんだが?」

「止めろ!?」


 俺も凍ってる、の言葉に貫山さんの方を見たら、鎧の金属の部分が白くなってた。っていうかあれ、もしかして、霜なんじゃ……? あ、それで凍ってるっていう。

 ちょっと行儀は悪いかなと思ったんだけど、荷車の上に登って、パペットの向こうを見てみる。そしたら……その向こうが、パペットごと真っ白になってた。うわ、息が白くなってるし、剣にも霜が降りてる。寒そう。

 ただ、えっと……棟方さんと、その周りにいた召喚獣は足が地面に張り付いて動けなくなってるみたいだったけど、パペットは普通に動いてた。まぁ、そうだよね。痛みとか無いもんね。そりゃ地面から足を引き剥がして普通に動くよ。


「……籠家さん、これ、まだ威力上げられるんですか?」

「上げられるぞ。ちなみにここから取れる戦略はとりあえず2つ」

「ふたつ」

「1つ。あのめちゃくちゃに冷える範囲の温度をまだまだ下げる。2つ。パペットに寒さ耐性を付与する。……まぁどっちをするまでもなく、動けなくなってる以上はこのまま囲んで叩けば終わるだろうが」

「ぐっ!?」

「無理! 降参します!」

「はぁ!? ちょ、道脇!?」

「いやーこれは無理っしょ。って事で、こうさーん」

「竹浦っ!?」


 荷車から降りて籠家さんに確認したら、やっぱりさっきの貫山さんとの会話は気のせいじゃなかったみたいだ。

 僕らの声は普通に聞こえるから、籠家さんの提案というか脅しを聞いて、後ろにいた2人が先に降参した。……貫山さんが降参をすすめる筈だよね。

 これで十分手加減してるんだから、籠家さんは。


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