27波_決闘の前提と注意と開始
これは、後から聞いた話なんだけど。
貫山さんは元々籠家さんの知り合いで、前からずっと『セーブライン』っていうクランに誘ってたらしい。けど籠家さんはそれを断り続けていて、最終手段として決闘を挑むけど惨敗。あの条件でもう誘えなくなった。
でも貫山さんは諦めきれず、知り合いや後輩に声をかけて、籠家さんに決闘を挑んでもらったらしい。ただ誰も勝てないし、その内挑める人がいなくなったんだって。籠家さん強い。
だけど、ここまで籠家さんの「対人戦」を見ていた貫山さん、籠家さんが、相手に合わせて戦い方を調節してる事に気付いたんだって。常に全力じゃなくて、相手がギリギリ勝てそうと思って勝てないぐらいの、「戦いになる」ぐらいの力で戦うのが分かったんだって。
元々貫山さんが『セーブライン』っていうクランに籠家さんを誘っていた理由っていうのが、初心者に対する指導役だったらしい。見守って助言して、必要なら手助けする、籠家さんはそういうのに絶対向いてるって思ってたみたい。
でも籠家さんはクランに所属してくれない。ならどうすればいいかって貫山さんは考えて……新しくクランに入った新人の、通過儀礼に籠家さんを巻き込む事を思いついたらしい。
つまり。『セーブライン』っていうクランに新しく探索者になったばかりの人が来たら、籠家さんについて悪口多めで教える。そして籠家さんに喧嘩を売らせて、それを収める名目で籠家さんと決闘してもらう。
決闘の条件については、「もしクランに入れられたら大出世だ」って言ってたみたい。もしうっかり勝ててしまえれば大歓迎、負けてしまっても、相手の肩書きや噂で舐めてかかる事がなくなるから、いい事しかない、って事だったらしい。
そうだね。すごいね。……籠家さんにとっては、どう頑張っても迷惑でしかないって事を除けば。
「あー……それでは双方、賭けるものの宣言が行われたところで、改めて確認だ。決闘用フィールドを張ってるから、探索者が死ぬことは無い。だが半端な怪我はするから、出血には注意するように!」
「そうなんですか?」
「そうだぞ。だから、いっそ跡形残さず吹っ飛ぶぐらいの攻撃の方がいいって言われるな」
「わぁ」
何故か籠家さんに心配そうな確認をしていた貫山さんだけど、籠家さんに論破? されて、続きをする事にしたらしい。
それにしても、出血には注意……死なないけど、血は無くなるって事かな。たくさん血が出ると、後が大変だよね。動けないし、考えられないし……。
なんかお腹痛くなってきた気がする。やめよう。
「召喚回数は1人につき1度まで! 敗北条件は召喚獣が倒されるか、探索者の降参の宣言があった場合! いいかお前ら、ダメだと思ったら潔く引くのも探索者に必要な素質だからな!?」
「「「はいっ!」」」
「よろしい! なお賭けるものの内容により、戦力倍率は5倍とする!」
「せんりょくばいりつ……?」
「大きいものをかけた方が不利になる仕組みだな。賭けたものの価値を比べて、それが低い方に戦力ブーストがかかる。……といっても、あんまり倍率が高すぎると制御が出来なくて自滅する事もあるんだが。この5倍っていうのは、新人が自滅しない上限だろう」
「えっ」
途中でなんか、明らかに、えーと、3人組の方への注意が混ざってたけど、それには同意しかないからそっと置いておくとして……戦力倍率、って、やっぱり僕が言ったことで、籠家さんが不利になってるって事!?
……気のせいかな。それぐらいじゃ、全然足りない気がするのは。
「あーっと、スキルについてだが! 使用はなし……」
「ちょっと待てよ貫山のおっさん!? 俺らはスキルありなら絶対勝てるんだ! 使わせろよ!?」
「いやいやいやお前らなぁ」
「いいじゃないか。使わせてやれよ。……私も使うけどな」
「籠家ぁ……」
スキル、って、籠家さんが説明してくれた、探索者が覚える事もあるっていうスキルの事かな。召喚獣が持ってる方じゃなくて。そもそも、この決闘っていうのも、そこから始まったっていう。
って事はあの……3人組の真ん中にいる、今反対した人がスキル持ちなのかな? 新人だって言ってたけど、もうスキルを持ってるんだ。すごいなぁ。
「……あの、今すっと流しましたけど、籠家さんもスキルを持ってるんですか?」
「持ってるぞ。私はもっと地味な奴で良かったんだが」
「わぁ……」
まぁ、そうだよね。だってその大きな杖、自分で使う為の杖なんだろうし。
「おっさん!!」
「あー、分かった分かった。使えって焚きつけたのは俺だよそうだよ。スキルの使用は自由! ただし! 良識の範囲内で使うように!」
「おう!」
「分かってる」
「いいな、くれぐれも良識の範囲内でだぞ! それでは、両者、構え!」
それにしても、おっさん呼びはどうなんだろう……と思っている間に、あっちの3人組はそれぞれ、杖と弓と剣を両手で構えていた。……弓と剣でも召喚はできるのかな?
籠家さんは、あ、うん。そのままだ。知ってた。
「始めっ!」
「【サモン――】」
早速召喚獣を呼ぼうとした3人組みたいだけど、それは籠家さんも同じだ。
そして慣れてる分だけ、籠家さんの方が早い。
「【サモン:パペット×1000】」
「さ……?」
っていうのは分かってたけど。
気のせいか、いつもより魔法陣が出るのも早く、僕の視界はパペットで埋め尽くされてた。
え? 籠家さん今なんて? 数字だよね? さうざんど……千!?
「あの、籠家さん。流石にちょっと相手が可哀想っていうか……」
「レベルが上限まで上がってるとはいえ、パペットだぞ? 百単位だと薙ぎ払われて終わると思うが」
「いやあの……それは、そうかも知れないんですけど……」
まぁ確かに、わたげならそれぐらいは出来そうだけど。
……でも、わたげみたいな召喚獣って、ほとんどいないんじゃなかったかなぁ。