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26波_使い込まれた決闘条件

 籠家さんに「決闘」についての説明を聞いてる間に準備が終わったみたいで、ふわっと薄い青色の光が空を覆ったのが見えた。

 ……そう言えば、僕はドロップアイテムが乗った荷車と一緒に中にいるんだけど、これは大丈夫なのかな。


「大丈夫だ。私1人で十分すぎる」

「……あの、籠家さん。それってもしかして、僕も参加者扱いされてます……?」

「されてるが、今に限ると外の方が危険だからな」


 何でだろう、と思ったけど、境界線になる杭の外をぐるっと囲んでいる探索者の人達を見て、わたげの事だ、と思い出した。そっか。確かに、籠家さんが戦ってる間に、あのぱっと見怖い人達にあれこれ聞かれたら、ぽろっとわたげの事を喋ってしまうかも知れない。

 それなら戦いに巻き込まれても、籠家さんの近くにいた方が安全なのかな……いや、そもそも戦いに巻き込まれてるっていうのがダメじゃない?


「よぉし! それではこれより! 無所属ブラック籠家とその弟子壁丘! 対! クラン『セーブライン』所属ブルー棟方、パープル竹浦、パープル道脇の「決闘」を開始する!」


 そう思っている間に、すごく迫力のある人が声を張り上げた。声の方を振り返ったら、境界線のすぐ内側で、拡声器を持ってる迫力のある人がギリギリ見えた。あの拡声器、すごいなぁ。元々の声も大きいんだろうけど。


「見届け人はクラン『セーブライン』所属、ブロンズ貫山が務める! それでは双方、「決闘」に賭すものは何か!」

「ブロンズ……って、レッドの上の!?」

「まぁ、その辺りは終わってから説明する。鈴木君、なんか欲しい物あるか?」

「え。いえ、僕は特に……」

「「「ブラック籠家の『セーブライン』への所属を!」」」

「えっ?」


 籠家さんに聞かれて困っている間に、仲良く揃えた3人分の声が聞こえた。正面を振り返ったら、そこには、怒鳴り込んできた時や言い訳をしていた時と違って、しっかりこっちを睨んでいる3人がいる。

 あんまりにも空気が違うから、訳が分からなくて籠家さんを見上げたんだけど、その籠家さんは長い息を1つ吐いて、こう声を出した。


「敗者から以後の「決闘」を含むクラン勧誘を拒否する」

「え」

「なおこの権利は探索者ギルドの規約に則り、過去の分も含めて独り立ちするまでは弟子にも適用されるものとする」

「えっ」


 ……気のせいかな。何だか、籠家さんに慣れが見える気がするんだけど。

 いや、気のせいじゃないな。たぶんだけど、気のせいじゃない。籠家さんの諦めと、周りを囲んでる人たちの気楽さ。これを、これとよく似た空気を、僕は知ってる。

 たぶんだけど。たぶんだけど……。


「あの、籠家さん」

「ん?」

「この「決闘」の賭けって、何を賭けてもいいんですか?」

「いいぞ。色々細かいルールはあるが、何を賭けても私が何とかしてやる」

「分かりました」


 たぶんだけど、これは……迷惑な事を、迷惑だと思ってない人達の空気だ。

 違う。それは迷惑をかけられている人が「許してあげている」だけで、やっていい事じゃない。許されてるからやっていい、って事じゃない。

 大人なら。少なくとも、15歳の僕より年上なら、それぐらいは分かっておいた方がいいと思うし、分かってなきゃいけない、よね。


「クラン『セーブライン』からの、過去から今までの師匠に対する全ての迷惑行為に対する、最大上限額の弁償を求めます!」

「は?」

「ほう!」


 僕が言った内容か、使った言葉か、その両方が予想外だったのか、籠家さんが珍しく目を丸くして驚いていた。迫力ある人……ブロンズの貫山さんは面白そうな声を上げてるけど、周りの人と、正面の人達は、ぽかんとしている。


「籠家さん。その……この一回じゃ、ないんですよね。たぶんあの、クラン? っていうのに、新しい人が来るたびに、こうやって「決闘」してるん、ですよね?」

「……まぁ、してるな」

「じゃ、ダメです。養護院で習いました。許されてる事と、やっていい事は違うんだって。……許されてても、やっちゃいけない事は、やっちゃダメだって。それでもやるなら、先生は許してた分だけ、いつもより怒ってました」

「それで、過去から今まで……。ところで鈴木君」

「な、なんですか?」

「最大上限額の弁償、っていうのは誰に習ったんだ?」

「あ、それは先生です。養護院に時々、子供を預けに来る人が居るんですけど、その人達が許されてる事をやっていい事だって勘違いした時に、先生がそう言って怒ってました」

「なるほど」


 く、くくく、と聞いた事のない音が聞こえるな、と思ったら、籠家さんが笑っていたらしい。左手で口元を押さえて肩を震わせている。あれ、もしかして僕、籠家さんが笑うの初めて見るんじゃ。


「なるほど、なるほど。私に、この調子のり達をちゃんと怒れと」

「えっ、あっ!? いやあのそのえっと」

「いやいい。いい加減私も、あの脳筋の学習しなささが嫌になって来てたんだ」


 はー、と息を吐いて、籠家さんは左手を下ろした。同時に右手で、絶対にマントの中に入る訳が無い、籠家さんと同じくらい長い杖を引き抜いた。たぶん、マジックバックから。

 え、何それ格好いい。初めて見る。黒いけど、たぶん木で出来てるよね? 蔦が絡まったみたいな形だけど。くるくる捻じれてお互いに絡まったみたいな形で、上が太くて下が細い。その一番太い、一番上に、大きな氷みたいなものが絡まってる。

 光が透けると虹色に見えたから、水晶とかなんだろうけど、綺麗だなぁ。


「……あー、なぁ、籠家。俺が悪かったから、加減はしてくれよ……? マジの新人なんだ。先輩の言う事をよく聞く可愛い後輩なんだが」

「倍率考えろ。そもそも、そっちが仕掛けて来た「決闘」だろうが? というか、逃げんなよ、見届け人」


 いつもと比べれば、気持ち口の端が持ち上がってる笑顔の籠家さんだけど、貫山さんは何故か心配そうな声を掛けていた。あっさり籠家さんに反撃されて、言葉に詰まってたけど。

 ……それにしても、倍率ってなんだろう。やっぱり、今までの分全部、っていうのはやり過ぎだったかな……?


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