25波_決闘というものの由来
「鈴木君」
「はい」
「これは前提となる話なんだが、前にちょっと言った通り、探索者もスキルを獲得する事がある」
「あ、はい」
「あの時話に出た感じの、主に周りに迷惑をかけるから取得方法が調べられて「取るなよ」と周知されている一部例外を除くと、獲得できるスキルっていうのは基本的にランダムだ」
どうやら「決闘」っていうのをする事になったらしく、僕達は扉広場から少し離れた、広いだけの空地へと移動していた。籠家さんの家を始めてみた時も思ったけど、何でこの辺ってこんなに空き地が多いんだろう?
「本人に一番合ったスキルが選ばれるとかいう噂もあるが、初心者石で召喚される召喚獣と同レベルだな。気にしなくていい」
「あー……」
「ただ、明確な非日常だからな……。「魔力増強」とか、召喚獣のステータスを上げるとかいうスキルならともかく、探索者が戦闘力を持つことが出来るスキルが手に入ったら、まぁ、使いたくなる訳だ」
「……ちょっと分かります」
「……。まぁ、それに対する感想は個人の自由だが」
ゲームの技とか魔法とか、自分で使えるようになったら、使いたい。っていうのは、ちょっと分かる。わたげが来てくれた時、ドラゴンらしいドラゴンですっごく嬉しかったし。いや、来てくれた子なら兎でも鼠でも鶏でも可愛いって思ったと思うけど。
「戦闘力を持つスキルを使うとすればまずダンジョンが上がる訳だが、これは召喚獣による攻略が推奨されている。敵は待ってくれないし、命を落とす可能性も高いからな」
「あ、はい……」
「実際攻略の役に立つとしても、使う側の人間がそのスキルに慣れてないとどうしたって事故は起こる。となると、ダンジョンより安全な場所で、出来れば命の危険とかやり過ぎが無い状態で、練習ができるといいな?」
「はい」
「だから、練習できる場所を作ろう……という事になったんだ。その原型が実は探索者ギルドの召喚部屋だったりする」
「あっ、そうだったんですか!?」
「そうだぞ。あそこはダンジョンじゃないのに召喚が出来るだろ」
そうだったんだ。知らなかった。
確かに攻略準備室を見て、こんなに広い場所があるのに何でわざわざギルドに召喚する為の部屋があるんだろう? って思ったけど。
そっか。最初は探索者がスキルを試す為の場所だったんだ。それなら、攻略準備室より狭くても十分なのかな。
「ここまでが前提として」
「ここまでが前提」
「ダンジョンの外でスキルを使えるようにしたのは、それがどんなスキルかを確認して、その使い方に慣れる為だ。もっと言うなら、戦うための、戦って生き残るための練習だな」
「は、はい」
「となると……素振りだけよりは、実際に戦ってみた方が早くて確実だ。スポーツだって、走り込みやペア練習だけでなく、練習試合も取り入れてるだろう?」
「……あ。確かに、相手がいた方が、ちゃんと練習できますね」
「つまりはな。それが「決闘」の原型なんだ」
「なるほど!」
そっか! それでこの広い空き地に来て、そこに結構広い範囲で杭みたいなものを地面に打ち込んでるんだ。あれで範囲を決めたりするのかな。僕と籠家さんと、「決闘」する事になった人達以外はその外にいるし。
……ん? あれ?
今籠家さん、「原型」って言ったような?
「……の、原型?」
「原型。スキルが派手になって屋内だと無理があるようになったから屋外でダンジョンと同じ、けど傷や痛みが衝撃波に変換されるバリアが展開できるようになったり、召喚獣と一緒に戦う練習の為に召喚も出来るようになったり、そこまでは良かったんだが」
「そこまでは」
「ファンタジーな戦いだからか、いつの間にか探索者同士のスキル召喚獣ありの戦いは「決闘」と呼ばれて、何かを賭ける事が通例になったんだよな……」
「かけ」
「そう。賭け。ギャンブルには手を出さない方がいいぞ。それで破産して、最後の手段で「決闘」を挑んでぼこぼこにされる人間を何人も見てきたから」
「ひぇ……」
籠家さん、今まで聞いたことが無いぐらい実感の籠った声なんだけど。もしかしてぼこぼこにされる人間って、籠家さんが……いや、止めとこう。それに籠家さんは挑まれた側で、吹っ掛けた側じゃないだろうし。