23波_強い理由と結果
わぁ。
「わぁ」
わたげは出来るだけ最短距離を探索した方がいいって事で、ボスモンスターがいる場所までは今まで通りパペットで探索した。結構戦闘とか罠があって、いつもよりずっと追加召喚する事になったんだけど。
それでも、魔力の上限が上がると回復速度も上がる、って前に聞いた。だから、またあの魔力を回復させるクッションを借りたとはいえ、何とかボスモンスターがいる場所までの道のりは分かった。
脇道の探索はそのまま続けていたけど、わたげが探索の様子を見ながら尻尾をぱたぱた振っていたから、探索に行ってもらったんだ。そしたら。
「無敵って、こういう……?」
「それ以外に言いようがないからな」
「わぁ」
うん。その。……相手に、ならなかったよね。道の途中でもう一回出てきたモンスターは当然、ボスモンスターも。そこまで手も足も出ないってあり得る? ぐらいに。もうこれ、戦闘じゃなくていじめか作業だよ……。
パペットだと10体がかりでどうにか、っていうモンスターが、わたげだと通りすがりに爪を引っかけただけでドロップアイテムになるのは、最初は何が起こってるのか分からなかった。
ボスモンスターは立派な鉄の鎧がそのまま動いてる、リビングアーマーってやつだったんだけど、わたげは周りを素早く飛び回って、ガンガン鎧を叩いて倒してしまった。ブレスすら使ってない。余裕過ぎる。
「だから言っただろ。大丈夫だって」
「あ、はい……わたげ、すごいなぁ」
で、そのわたげは今、奥の部屋にあったクリアストーンの上で器用にお座りして、周りをきょろきょろ見回してる。可愛い。
それにしても、珍しく籠家さんが断言すると思ったら、これは大丈夫だ。むしろ、負ける訳がない。バットと割りばしで戦うようなものじゃないか。もちろんバットがわたげ。
今回わたげはブレスを使わなかったけど、これは確かに、もっと簡単なダンジョンだと、クリアストーンまで攻撃が届きそうだなぁ……。
「とりあえず、クリアストーンは回収しないと……あっ。わたげー! 恰好良かったよ! すごい!」
『キュピッ!』
「もうちょっとでパペットが迎えに行くから、少しだけ待っててね!」
『キュッ!』
手が空いてるか、移動中のパペットは、と他の画面を探しかけたところで、ようやく僕はわたげが何を探しているのか気が付いた。召喚主である探索者から召喚獣へは、姿が見えていれば声を届けることが出来る。
そしてわたげは僕と一緒に、僕がパペットに指示を出してダンジョンを探索しているのを見ていた。って事は、今ダンジョンの中にいる自分も見えている筈、って思ったんだと思う。
だから、いつもみたいに全力で褒めた。それは合っていたみたいで、わたげは画面の向こうから元気な返事をしてくれた。……まだきょろきょろしているのは、僕がどこから見ているのか分からないからかな?
ドンドンドン!!
「わっ!?」
「ん?」
脇道の探索も大体終わったから、荷物を集めて戻るパペットと、わたげを迎えに行ってクリアストーンを持って帰るパペットに分かれて行動するように指示を出したところで、結構大きな音が攻略準備室に響いた。
後ろからだったから僕はびっくりしたんだけど、籠家さんは後ろを振り返っただけだった。けど、すぐにあんまり動かない表情が、見て分かるぐらい険しくなる。え?
「鈴木君、急いでわたげを呼び戻せ」
「えっ? でも……」
「クリアストーンはいい。あの距離ならパペットが間に合う。急げ」
「はっ、はい。わたげ! 戻っておいで!」
『キュッ?』
「その石はパペットに任せて、おいで!」
『キュッ!』
ボスモンスターがいた部屋にパペットの集団が辿り着いたところで、わたげはクリアストーンから飛び立った。他のパペットを移していた映像だと、緑の影しか残ってない速さで飛んで戻って来る。
ちなみに、その間もドンドンという大きな音は響いている。何だろう、この音。わたげを呼び戻すって事は、もしかして、扉が叩かれてるの?
「あ、あの、籠家さん……」
「戻って着次第送還だ。褒めるのは次のダンジョンで、今は素早く帰って貰え」
「……他の人、ですか?」
「あぁ。それも恐らく面倒なタイプのな」
「キュー!」
もしかして、を確認してる間に、わたげが帰って来た。早い。賢い。そして僕のお腹の所に飛び込んできてくるくる喉を鳴らしてる。可愛いなぁ。
「わたげ! よく頑張ったね! 今日も可愛いけど今日は恰好良かったよ!」
「キュッ!」
「でもごめんね、他の人が来てるみたいだから、ちょっと急いでもど――」
「おいこらぁ!? いつまで無視してんだ黒野郎!!」
「ひっ!?」
「ちっ」
わたげを送還しようとしたところで、怒鳴り声が聞こえた。籠家さんが舌打ちしてるって事は、これ、ダメな人なんじゃ……。
「ゥルルルル……」
「わ、わたげ、ごめん。威嚇してくれるのは嬉しいんだけど、今は君を見られる訳にはいかないから……!」
「キュー」
「ごめんね、ごめん。次、次召喚した時は、絶対に褒めて撫でてブラッシングもするから! 籠家さんに、魔力を込めた飴の作り方も習ったんだ。それを作って持ってくるから!」
「キュゥ……」
何とかわたげを宥めて、送還させてもらった。ほっとして息を吐いたところで、バァン! とまた大きな音が響く。何!?
かと思ったら、バヂンッ!! っていう、あんまり聞かない感じの音が響いた。何!??
「ぎゃぁああああっ!?」
「てめ、いきなり何をしやがる!?」
「私はいい。――私はいいが、私の弟子が怯えるだろうが」
その音に続いて悲鳴が聞こえて、また怒鳴り声が聞こえたけど。
……それに対して返された籠家さんの声で、絶対に振り返れなくなった。
「攻略中のダンジョンに押し入る時点で、ギルドの規約にも引っかかってるがな。つまり、押し入られた側には正当防衛の権利が発生する訳だが……」
召喚用の杖を両手で握って、魔力を回復するクッションの上に座ったまま、動けない。押し入った、って事は、誰か来てるみたいだけど、その人達の声も聞こえない。
もう一度、バチッ、と、何かが弾けるような……あ、あれだ。冬の寒い日の、静電気の音。あれの大きい音だ。……そう言えば、籠家さんに教えてもらってた。振って使える、アイテムとしての杖に、雷を飛ばすやつがあるって……。
ていう事は。もしかしなくても、籠家さん、その杖を、使った?
「……覚悟は、いいな?」
「すんまっせんしたーっ!」
「扉間違えただけなんです帰ります!」
「お邪魔しましたごめんなさーいっ!」
怒ったところを見た事なかったから、知らなかった。
籠家さん、滅多に怒らないけど、怒ったらめちゃくちゃ怖いタイプの人だった。