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22波_地道な成長と初陣

 籠家さんは、意外にって言ったら失礼かも知れないけど、料理が上手だった。出てくるご飯が全部美味しい。すごく美味しい。ベッドと一緒に買ってた食器が来るまでは、お鍋のままラーメンを出されたりもしたけど。

 それに、ベッドが来るまでは寝袋だったけど、籠家さんが部屋を開ける時に、すっごくふかふかなカーペットを見つけて僕にくれたから、養護院のベッドよりずっとふわふわで良く寝れた。

 普段から使えばいいのに、と思ったんだけど、「毛足が長すぎて好みじゃない」って言ってた。……何で好みじゃない物があったんだろう? 買い物は大体全部通販だったみたいだから、思ったのと違ったのかな。


「……あの、籠家さん」

「どうした?」

「この辺で、お店って、一番近くだと、どの辺にあるんですか?」

「端沼支部だな」

「えっ」

「その次が、反対側で倍ぐらいの距離があるコンビニ」

「えっ?」

「その更に倍ぐらいの距離に、セーブラインっていうクランの拠点があって、その近くに個人経営の店が何軒かある」

「えー……」

「鈴木君がお察しの通り、ここらは車移動前提の距離感覚だから、通販以外に選択肢はほぼ無いぞ」

「わぁ」


 そういう事らしかった。ついでに、電車の最寄り駅はもっと遠い場所だし、そこまでのバスも1日に10本もないらしい。……養護院の方がお買い物は便利だったんだなぁ。平屋でそんなに大きくないけど、僕でも歩いて行ける距離にスーパーマーケットがあったから。バスももうちょっと走ってたし。

 それでも暮らしてみたら意外と何とかなるし、扉広場はそれよりももっとたくさんあったから、探索者として経験を積むのは何も問題なかったんだけど。配達のお兄さん達、本当にありがとう。


「……あの、籠家さん」

「どうした?」

「こう……何となく人の気配がある場所、とか……」

「何となく言いたい事は分かるが、歩いて行ける範囲だと扉広場ぐらいだな」

「あそこ、探索者の人しかいないじゃないですか……」

「手作りお菓子でも木透さんに差し入れれば何週間分でも喋ってくれるぞ」

「いくら木透さんでも、そんなには……」

「たまに本人的に大きなニュースがあったら何人でも捕まえて喋り続けるぞ?」

「えっ」


 まぁそんな毎日だったけど、パペットの動きがだんだん良くなっていくのは嬉しかったし、わたげが寝てばっかりだったのは僕の魔力が少なかったからっていうのも分かった。

 そしてわたげが、僕のパペットに混ざってランニングをするのにも慣れてきた頃には、僕が籠家さんの弟子になって1ヵ月が経っていた。……時間の流れって早いなぁ。


「さて。それじゃそろそろ鈴木君も、3級のダンジョンを1人で攻略してみようか」

「えっ?」


 なんて思っていたら、籠家さんからなんか、すごい言葉が飛び出したような。

 3級? いや、うん。うん? た、確かに1級は僕が攻略していたし、2級も何とか、ボス戦以外はどうにかなるようになってきたけど、3級? なんで?

 だって3級って言ったら、一人前の目安になる難易度、だよね? えっ、無理。無理むりムリ、僕まだ2級も1人で攻略できないのに!


「大丈夫だ。行ける」

「行けませんって!?」

「問題ない。ちょうどここも3級のダンジョンだから」

「無理です!?」

「私も後ろで見てるから、3級の中でも難しそうだったら手伝うし」

「いやいやいやいや、だってまだ僕2級も1人ではクリアできませんよ!?」

「大丈夫大丈夫」


 3級だからトレーニングだな、と思ってわたげを呼び出したところでそんな事を言われて、思わず全力で首を横に振る。というか、どうして籠家さんはそんな自信満々なんだろう。珍しい。って、そうじゃなくて。


「わたげなら、レベル1でも3級ダンジョンのボスモンスターぐらい、ブレス一発で吹き飛ばせる」

「…………えっ?」

「うん?」

「えっ? あの、えっ?」


 わたげ? え、なん、あれ?


「わたげも普通に探索するぐらいの時間を動けるぐらい鈴木君の魔力も増えてきたし、そろそろ初陣でもいいんじゃないかと思ったんだが」

「……えっ」

「2級以下だと宝石竜は過剰火力過ぎて周りに被害が出るから、どっちにしろ探索には出せなかったからな」

「えっ」

「流石に、ボスモンスター諸共クリアストーンが木っ端みじん、っていうのは困るからな。メイン収入があれだから」

「そんなに強いんですかわたげって」

「強いぞ?」


 そうだったの?


「ただのドラゴンでも3級ダンジョン程度なら慣らしにすらならないのに、宝石の名前が付いたドラゴンはそれより上なんだ。めちゃくちゃ強いぞ?」

「そうなんですか!?」

「モンスター図鑑に載って……あー、そうか。敵として出てきた時は絶望でしかないから、初心者向けの資料には載ってないのか」


 そうだったの!?


「しかもわたげの場合、飛行スキルがあるな?」

「あります。……というか、今も走るより飛んでますし」

「対空攻撃、もしくは飛行能力を持つ敵が出てくるのは、4級以上だ」

「あ、それで僕は戦ったことないんですね。籠家さんは時々遭遇してましたし、それは見てましたけど」


 そうなんだ。と納得して、首を傾げる。あれ? って事は?


「つまりな。……3級以下のダンジョンだと、わたげは、無敵だ」

「むてき」

「天井がある場所ならまだしも、開放型、天井が無いタイプだと、どう頑張ってもかすり傷すら食らわない」

「かすりきずすら」


 わたげを振り返る。僕が軽く走るぐらいの速さで、僕の肩ぐらいの高さのまま、攻略準備室をぐるぐる回るように飛んでる。

 でも、高く飛ぶことも出来るのは知ってる。攻略準備室は天井も高いけど、そこまで飛び上がるのに1秒もかからなかったし。


「だから、攻略に必要な魔力が最後まで持つんなら、今のわたげだけでも攻略は出来る。……私が珍しく、大丈夫だと言い切った理由は分かったか?」

「あ、はい……」


 そっかぁ……。わたげ、強いと思ってたけど、僕が思ってるよりもっとずっと強かったんだなぁ……。


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