2波_クエスト発生のサイン
ダンジョンを攻略すると、キラキラ光る石が手に入る。これはダンジョンを攻略したご褒美のような物で、加工次第でなんにでもなる万能素材……の素だ。もちろん加工しなければただキラキラ光るだけの固い石。
これを集めて部屋に並べてる人もいるらしいけど、私にはちょっと分からない趣味だ。ダンジョンの中にある分には目立つからいいとしても、綺麗というより眩しいだし。
しかも何かに入れたり包んだり出来ず、召喚獣……ダンジョンの中でだけ召喚できる攻略のメイン戦力だ……も召喚主の人間も関係なく、手に持って運ばないといけない。
「あっ、籠家さん! 今日はやる気ですね!」
「部屋の扉がダンジョンになってただけ」
「あらら、結界石が切れてたんですね。報告と一緒に注文を出しておきますか?」
「お願い」
そしてそれを、このダンジョンが出現する地域に、交番ぐらいの間隔で点在するギルド支部に持って行けば、引き取って換金してくれる。これがダンジョン探索をしている人間の、一番目玉となる収入源だ。
ちなみに結界石というのは、その名の通り、その石を設置する事で、一定範囲内にダンジョンが出現しなくなる不思議な石だ。本来の目的はダンジョンの出現場所をこの地域に限定する為のものなので、その内部で安全を確保しようとすると、どうしても消耗が早くなる。
とはいえ、私が住んでる一戸建てとは名ばかりの小屋なら、維持費も含めてそうはかからない。それこそ、1週間に1個、キラキラ光る石、もとい、クリアストーンを納品すれば生活費も込みでまかなえる。
「ところで難易度の高いダンジョンの目撃情報が相次いでいるんですが、どれか挑んでみませんか籠家さん!」
「やだ。というか、ブラック相手に7級以上の案件持ってこないで」
「籠家さんがブラックなのは試験を受けていないってだけじゃないですかー。知ってるんですよ、やる気にさえなればここに並んでるダンジョンを端から全部攻略出来るって事!」
「やだ。そもそもパープル試験落ちたって実績があって悪い意味で有名な筈なのに、何その巨大すぎる期待は」
「知ってますけど明らかに手を抜いてた上に試験官が負けそうになって自分から降参してたじゃないですか! あの時の試験官、オレンジまでの試験は出来る人だったんですよ!?」
……これもいつもの事なので、適当に受け流す。私の家から一番近いギルド支部の担当者は、彼女、木透さんとなっている。こうやって話をしながらでも仕事を進められる有能な人ではあるんだが、謎の期待が大きすぎるのでちょっと苦手だ。
クリアストーンを家に放置しておくのも邪魔だし、と、頑張って歩いてきたが、帰りたい。今すぐに帰りたい。結界石さえ壊れてなければ、途中で話を打ち切って(半分無視するとも言う)帰ってるのに。
まぁそれでも、手続きとしては5分もかからないのでその間の我慢……と思っていると、扉が開く音がした。
「?」
「あ、あの……攻略者ギルド、端沼支部って、ここですか?」
「はい! そして私は端沼支部担当の木透です!」
「あっ、えっと、あの、よ、よろしく、おねがいします……?」
ギルド支部(端沼支部)の扉から入って来たのは、白くシンプルな、丈夫さだけを追求した感じの服を着た小学生ぐらいの少年だった。背中にはランドセルではなく、大きなリュックを背負っている。
おろ、と、落ち着きなく周囲を見ている様子に嫌な予感がしたので、すっと受付カウンターから離れた。
「それじゃ、注文したやつは配送で、入金は振込。よろしく」
「まーまーまー待ってくださいよ籠家さんそうもうちょっとだけ迷える新人くんじゃないですかほらほらほら」
「だから帰りたいって言ってるんだけど」
「ははははまたまたー面倒見の良い籠家さんが新人くんを見捨てるって事は無いんですしとりあえず話だけでも聞いてあげて下さいよー!」
「嫌だ、もうやる事はやった、帰る……!」
正確には、離れようとした、だけど。素早く木透さんに腕を掴まれてしまった。本当に、この人時々どこからそんな力が出てるのか分からない程の怪力を発揮するんだよな。