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16波_命名と育成方針

「わたげ」

「ピ?」

「わたげ?」

「ピッ」

「わーたーげー」

「ピィッ」

「……現実逃避はその辺にしといた方がいいぞ、鈴木君」


 籠家さんの言葉に、大人しくドラゴン……わたげを抱え直した。うん。もしかしなくても、あの時籠家さんが僕の口を塞ごうとしたのは、あんな形でも名前がついちゃうのが分かってたからかな。

 黒い手袋をしてるから別に嫌とかではないんだけど、びっくりするから止めてほしい……。その、うっかり名前になっちゃう形で喋ってたのは僕なんだけど。


「……あの、籠家さん」

「なんだ」

「どう、すれば、いいでしょうか……?」


 ドラゴンは狙われる。嘘とか脅かしでそんな事は言わない、と思う。って事は、本当だって事。その対策が、長い名前だったんだろうけど……。


「わたげ、っていうのは……よ、予想はほんとに出来ないと思いますけど……」

「ピ?」

「まぁドラゴンにわたげは無いな」

「うっ」

「想像し辛くて覚えやすい、って意味だと十分なんだが……とりあえず、普段は……その子、性別は? というか、詳細は?」

「あっ」


 召喚主は、召喚獣のステータスを見ることが出来る。僕の腕の中でふすふすと鼻を鳴らしているわたげの頭を撫でて、ステータス、と呟いた。

 ふぉん、という感じで、目の前に半透明な画面が出てくる。えーと。


「プレーナイトドラゴン、レベル1。性別……男の子です。スキルは、パッシブが飛行、アクティブがブレス。能力値は、大体全部30くらいです」

「まぁ順当にドラゴンだな。初手飛行持ちって事は、風属性か」

「属性、属性……」

「耐性の所を見ればいい」

「あっ。……あれ、風属性のところ、数字が無い……?」

「……ドラゴンの中でも輪をかけて酷い……手がつけられない……すごい奴だな」

「あの、籠家さん、今何て」

「とりあえず、外では基本的に「わーくん」とでも呼んだ方がいい」

「籠家さん、あの」

「いやまぁ、呼ばない方がいいんだが……というか、存在を隠す必要があるか……」

「あの、今のはどういう」

「と言っても普通に攻略するなら召喚しないって訳にはいかないし、そもそも召喚獣はギルドに登録しないといけないしな……」

「籠家さん?」


 どういう事? 数字が無くて横棒しかないんだけど、どういう事? なんで2回も言い直したの?

 たぶんわたげと僕の事を考えてくれてるんだろうけど、さっきの言い直しが気になって何も頭に入ってこない。でも、顔の方に回り込んでも目を合わせてくれないし。


「あの、籠家さん」

「……」

「なんなんですか、この、属性のところに数字がないのって」

「……」

「籠家さん。あの、黙られると怖くなってくるんですけど」

「…………強いのは間違いない」

「どんどん怖くなってくるんですけど!?」


 僕から目を逸らし続けていた籠家さんだけど、ようやく目を合わせてくれた。と思ったら、すぐ逸らした。怖い。なにこの表示。


「……無効だ」

「えっ」

「その属性のダメージは一切通らない。無効化される。そういう意味だ」

「え、えぇー……」


 と思ったら、籠家さんから答えが来た。あ、あー、効かないんだ……そっかぁ……。


「しかも、最初からだからな……」

「え?」

「進化の先で獲得するならまだしも、最初から無効だと……進化先で、吸収スキルを覚える可能性が高いんだよな……」

「えっ。……あの、効かないどころか、回復する、んですか?」

「そうなるな。たぶん」


 わたげは何かのボスかな? ドラゴンだった。


「ところで、鈴木君」

「はい?」


 こんなに可愛いのになぁ。とまた寝息を立て始めたわたげの頭を撫でていると、また息を吐いた籠家さんが改めて僕の方を向いた。……顔も声も特に変わらないんだけど、何となく、真剣な話の気がする。たぶん。


「わたげは軽く解説するだけで色々ととびっきりなのが分かってしまう召喚獣な訳だ」

「あ、はい。それはもう……」

「さっき私は、ドラゴンというだけでまず狙われる、と言ったが、その危険性は他の召喚獣の比じゃないっていうのも分かると思う」

「……それは、そうだと、思います」


 再び話に出てきた「召喚獣がとられる」という事。絶対に許される事ではない筈なんだけど、籠家さんは「ある」事を前提に話してる。この人は、何の根拠もない嘘は言わない。それは、分かる。

 だから、わたげを抱える腕に力が入る。いやだ。わたげがすごいからじゃなくて……たとえわたげが、ただの小鳥や、それこそ兎だって僕はいやだって思う。顔を伏せると、ピィ? と、起きたらしいわたげと目が合った。


「――それが嫌なら、方法は2つだ」

「えっ」


 続けられた言葉に、顔を上げる。

 籠家さんは僕に見せるようにして手を持ち上げて、指を2本立てた。


「1つは簡単。どこか大きい探索者の集団に合流して、一気に強くなってしまう方法。探索者として実力と名声を手に入れれば、そう簡単に手は出せなくなる」

「!」

「ただし、強くなり切ってしまうまでにとられる可能性はある。人数が多いっていう事は色んな人間がいるって事だから、気の抜けない日々が続くだろう。そして、強くなって有名になったとしても、警戒は続けなきゃいけない」

「……」


 そして、1本を倒した。それは……きっと、すごく忙しい毎日だ。探索者として、有名になりたいとか、贅沢な暮らしがしたいとかなら、むしろ望むところなんだろうけど。


「もう1つは、徹底的にわたげの存在を隠す事。絶対に人の目がある場所ではわたげを召喚せず、名前も呼ばず、他の召喚獣で戦い続ける。それこそ、わたげがしっかり育ち切って、召喚主である鈴木君以外の干渉を全部弾いてしまえるまで」

「他の、召喚獣……ですか?」

「そう。まぁこっちも茨の道ではあるな。隠し事をするのは探索者の常とはいえ、ドラゴンを秘密にするのは相当に大変だ。ギルドにも隠し事をするんだから、若干とはいえペナルティもある」


 そして、もう1本を倒す。それは……わたげに活躍させてあげられないって事だ。それこそ、僕が1人だけで探索できるようになるまで、わたげを召喚する事も出来ない。

 それは。それは寂しい。それに、ギルドにも隠さなきゃいけない、っていうのは、ダメな気がする。

 どっちも、大変なのは変わらない。その大変さが違うだけで。ただ……。


「……有名になる方だと、籠家さんは……?」

「少なくとも私が信頼できるところに紹介して、それまでだな」

「えっと……隠す方、だと?」

「……。他の召喚獣なんてパペットぐらいしかいないだろう。召喚も見てしまったし、私が師匠続投だ」

「パペット……」

「いなくはないんだ。「初心者石」でパペットを引き当てる探索者っていうのも」

「あー……」


 そうか……と、まだぼーっと立ったままのパペットを振り返る。

 ん? という事は?


「もしかして、籠家さんも他に隠してる召喚獣が」

「いないぞ」

「……ほ、他の召喚獣が」

「召喚石を手に入れる運が根本的になくて、パペット一択だ」


 そ、そうなんだ。

 ただ、でも……。


「……あの」

「なんだ」

「……僕は、あんまり、その、有名になるつもりはなくって。独り立ちしなさい、と言われて、行く当てが無くなっただけで……」


 ぜいたくな暮らしとか、想像できない。

 ただ、普通に暮らせればそれでいいだけで。養護院に、寄付とかでお礼が出来れば十分で。養護院育ちだから、外には出れないだろうし。

 何より……お世話になるなら、他の誰かより、籠家さんがいい。


「……だから、その。わたげは、隠す方で、いきたい、です」


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