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14波_ダンジョンクリアと召喚

 ちょっとグロい事になる「真っ当じゃない倒し方」を使う事は無く、無事ダンジョンボスだった小柄な熊は討伐出来た。途中で指示を出し、左側の手足を切り落とした状態で下がらせたから、無事鈴木君のパペットにも経験値が入った筈だ。


「パペットもレベルが上がると、強くなるんですか?」

「いや、ほとんど強くならない。誤差だ」

「えっ」

「その代わり、召喚と運用に必要な魔力が少なくなる」

「……ど、どこまでも低コストが売りなんですね」


 そういう事だな。ある意味とても分かりやすい召喚獣だ。半強制で召喚させられるようになったから、ギリギリまで本命の召喚獣に魔力を使いたい探索者に配慮した結果ともいえる。

 ダンジョンボスである小柄な熊のトドメは鈴木君のパペットが刺したので、その場にドロップ品が転がっている。皮と爪か。使いやすくて需要の多い素材だな。当たりだ。

 そしてそこに紛れて、きらりと輝くものが転がっていた。3㎝四方ほどの虹色をした正十六面体のそれは、召喚石――パペット以外の召喚獣を持たない探索者が、初めてダンジョンボスを倒した時だけの限定ドロップ、通称「初心者石」だ。


「とりあえず、素材と「初心者石」と、クリアストーンの回収だ。他のパペットには、帰り道に湧いている可能性のある罠やモンスターの警戒をさせた方がいい」

「えっ、帰り道に罠とかモンスターが出てくるんですか!?」

「出てくるんだ、これが。ちなみにクリアストーンは落としたぐらいじゃ割れないが、全滅するとその場に「放置」した事になるから、急いで回収しないと大変な事になる」

「ひぇ……」


 小柄な熊を倒して喜んでいた鈴木君だが、むしろここからが本番だと伝えると、顔をちょっと青ざめさせていた。だが無事気は引き締まったようで、パペットに指示を出している。

 今回は1級のダンジョンだし、そもそも装備持ちでレベルもしっかり上げて、学習もしている私のパペットがついている。だからまず大丈夫なんだが、だからと言って気を抜いていい訳じゃないからな。

 ボス部屋、という名の広い場所の少し先まで草の無い場所が続いていて、その先にクリアストーンはあった。クリアストーンを抱えたパペットを中心として、素材を持ったパペットで挟み、その周りを普通のパペットが囲んで移動する形だ。


「あっ、ほんとに出た……」

「まぁ看板を持ったパペットがいるから、向こうから仕掛けてはこないんだけどな」

「……って事は、不意打ちとかしてくるんですか?」

「してくるな。クリアストーンを持ち出すのを全力で妨害してくる」

「うわぁ……」


 そして実際、分かれ道のいくつかにウィスプが待ち構えていたり、1体ずつしか通れない細い道に落とし穴が増えていたりした。看板を持ったパペットが先頭を歩いて知らせてくれるので、鈴木君も対処できたようだが。

 そして、無事パペット達はダンジョンを引き返し、攻略準備室に戻って来た。大人しく並んでいるのは鈴木君のパペットで、再びシャキーンと決めポーズを取ったり、看板に『初ダンジョンクリアおめでとー!!!』と大文字で書いている動作がうるさいのは私のパペットだ。……本当に、なんでこんなうるさいのばかりが来たんだ。


「後は戦利品の回収、分配、召喚獣の送還をやって終わりだ。といっても、今回私の分は無しでいい」

「えっ!? で、でも、ダンジョンボスも、ほとんど籠家さんが倒してくれましたし……」

「私のパペットがな。別にいい。というか、私だと役に立たないからな。鈴木君が使った方がいい」

「……あ」

「それに報酬なら、クリアストーンを持って帰ればその分は必ず頭割りだ。後はちゃんとアイテムを持って帰るだけだから、落とさないように気を付けた方がいい」

「は、はいっ!」


 普通はダンジョンドロップ品であるマジックバック、内容量がとても大きい鞄を用意したり、台車を持ってくるのだが、今回は特に何も用意してないからな。着替えを始めとした、個人の荷物が入った大きなリュックは端沼支部に置いてきたようだし。

 熊の爪は皮で包み、私が持っていたロープでくくって腰の後ろに下げた。他の細かい素材は、同じく私が持っていた布袋を渡して、皮の上に乗せるように背負わせる。後は召喚石をポケットにでもいれて、クリアストーンを抱えればいい。

 のだが。


「……あ、あの、籠家さん」

「何だ」

「召喚、って、ここでしてもいいんですか?」


 そわそわと召喚石……「初心者石」を手にして聞いてくる鈴木君。あー……待ちきれないか。そうか。


「…………問題は無いが、どっちにしろ支部の召喚部屋でも召喚する事になるぞ? あそこで召喚獣を見せて、初めて登録されるからな」

「魔力が足りたらいいんですよね」

「まぁ、それはそうだが」

「僕、まだまだ元気なので、召喚してもいいですか?」


 ……。確かに、魔力切れには程遠い感じだな。これなら確かに、よほどの大物を引き当てなければ大丈夫か。

 目をキラキラさせてこちらを見上げる鈴木君に頷いて見せる。ぱぁ、と顔を輝かせた鈴木君は、「初心者石」を持って攻略準備室の中央へと歩いて行った。

 そして――。






 黒いマント、つばの広い、黒い三角帽子。黒いワンピース。黒くて長い靴。色々な杖が差さっている太いベルトだけが、黒に銀色の模様。絵本に出てくる魔女みたいな籠家さんは、冷たい無表情と睨んでいるような細い目っていう見た目とは違って、ずっとずっと優しい人だった。

 その籠家さんに、召喚していい、と許可を貰って、一応部屋の中央へ行く。初めて……ではないけど、僕だけの召喚獣。

 パペットも、籠家さんのパペットぐらい動いてくれるようになったら、きっと楽しいだろうけど……それよりも、目の前の召喚が楽しみで仕方ない。キラキラ光る召喚石を持った右手を前に出して、教わった通りに声を出す。


「[なんじは我が手足にして我が友

 声にこたえて姿をあらわせ

 苦しみも楽しみも、これよりは共に

 長らく続くこの先を、となりに並び歩く為に

 ことわりを違えし場所より、ここに来たれ]!」


 カシャン、と召喚石が手の上で砕けて消えた。そして、ぶわっと強い風が吹いてきた。驚いて転びそうになる。

 けど、僕の背中を支えてくれる手があった。振り返ると、籠家さんがいつの間にかすぐ後ろにいる。……もしかして、僕が転ぶのが分かってたのかな。


「ほら、見るなら前だ」

「あっ、はい!」


 まだ強い風は吹いているけど、支えてもらっているなら転ばない。だから慌てて風が吹いてくる方を見たら、ちょうど、すごく大きな魔法陣が出てきたところだった。

 パペットの時は白かった。けど今度は一旦黒になって、そこからどんどん色が変わっていった。紫、青、緑、黄色、オレンジ、赤――まだ止まらず、今度はどんどんキラキラしていく。

 赤いキラキラから銀色、そして金色。もう一度、銀色みたいな色。そして、召喚石みたいな虹色になった。すごいきれい。


「……?」


 けど何故か、虹色になったところで、背中を支えてくれてる籠家さんの手に力が入った気がした。だから顔を見上げたんだけど、籠家さんの顔を見る前に僕の目が覆われる。何で、と思っていたら……カッッ!! と、何かがすごく強く光った。


「わぁっ!?」


 籠家さんの手で目を塞がれてなかったら、きっと大変な事になってた。塞がれていても声が出ちゃったけど。

 すぐ目を塞いでいた籠家さんの手はどかされて、けどそれと同時に、そっと背中が押された。前を見なさい、というようなその手に、上じゃなくて前を見る。

 そこには、さっきの強い光の残りみたいな光と一緒に、子犬ぐらいの大きさの生き物が浮かんでいた。



 つやつやとした、綺麗な黄緑色の鱗。それより少し濃い色の目。後ろ向きの、短くて太い2本の角。丸い手足と、その先の爪。ぱたぱたと羽ばたいている、小さくて丸い爪の付いた翼。体と同じくらい長い、でも細い尻尾。

 僕でも知ってる。とても、とても有名な生き物。


「……ドラゴン……!」


 僕の召喚獣は……思ったより、すごい子が来たみたいだ。


※ここまでがプロローグです

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