13波_ボスと人形の戦い
鈴木君の魔力の底が見えないが、それは問題じゃない。むしろ探索者としては、魔力とは多ければ多い程優秀だ。いくらあっても困るものじゃない。今はパペットしか操れていないが、他の召喚獣を得たら一気に頭角を現すだろう。
そうなれば流石に私からも離れるだろうし、何より他の探索者が放っておかない。何の召喚獣を得るかは分からないが、召喚主である探索者の魔力が多ければ、それだけ多くの経験を短期間で詰むことが出来る。
そんな事を思いながら、門のようになっていた草をくぐった先の広場で待ち構えていた、小柄な熊と戦っているパペット達の様子を見ている。小柄といっても熊は熊だ。パペットよりは大きい。
「わ、わ、わぁ!? あわわ、う、動きが早、わっ!?」
武器を装備した私のパペットは後詰めとして様子を見ているが、本命として突入している鈴木君のパペットは、それこそ熊の方が主役なのでは、という勢いで蹴散らされていた。まぁ、そうなるだろうな。
ラリアットに薙ぎ払い、突進と、攻撃のことごとくをどれかのパペットが直撃で食らって吹き飛ばされ、倒されている。倒された召喚獣は強制送還されて、光の粒となって消える。そして、召喚されてからそこまでの記憶を失う訳だ。
とはいえ、パペットは複数召喚可能な召喚獣。他に1体でも残っていれば記憶は引き継がれるし、こうやっている間も学習している。……それを生かせるかどうかは別として。
「指示を出す探索者が慌てると、余計に被害が増えるぞ」
「そっ、それは、そうですけど……で、でも、こんなのどうすれば」
「確かにパペットとの相性は悪いな。こういうフィジカル特化の相手は」
「に、逃げても追いつかれるんですけどっ!」
「追いつかれるだろうな。熊は車ぐらいの速度は余裕で出せるし」
「そうなんですか!?」
だから逃げても無駄なんだよな。ちなみに鈴木君のパペットは、鈴木君のパニックがうつったようにわたわたと逃げ回っている。そんな事をしても各個撃破されるだけだぞ。
「こんなの、勝てませんよー!」
「やり方次第なんだが……まぁ、ちょっと厳しいか」
鈴木君のパペットは召喚したてで、レベルも1だからな。経験もほとんど積んでいないから、言っては悪いがほとんどカカシだ。それで熊の相手はちょっと厳しい、というのは確かだ。
仕方ない、と、杖を軽く振る。入口の所で待機していた装備持ちのパペット6体が反応して立ち上がった。看板を持っているパペットは『頑張れー!』とか『そこだー!』とか表示させた看板をぶんぶん振りながら、ボス部屋の中で観戦している。
「ま、今重要なのはパペットで戦って勝つ方法を学ぶ事じゃなくて、このダンジョンを突破して「初心者石」を手に入れる事だからな……」
「こ、籠家さんなら勝てるんですか?」
「レベル1のパペットでも、30体も居れば十分だ」
「えぇ……すごい……」
ボス部屋に入った6体の装備持ちパペットは、それこそゲームのキャラクターのように役割分担をして戦い始めた。流石に1級ダンジョンのボスに負けるような育成はしていない。後はもう放っておいても勝てる。
というか、特に学習していないパペットでも勝とうと思えば勝てる。
「パペットはそれなりに重みも力もあるだろう」
「えっ。あっ、はい」
「熊といっても小さいし、生き物を模しているならその動ける範囲には限界がある」
「えっと……そう、ですね?」
どうやってかと言えば。
数は力。何故こんな言葉があると思ってるんだ。
「だから四肢に組みつかせて、関節を固定するか、逆方向に力をかけてしまえばいい。あの大きさなら、手足の1本に3体もかかれば一切身動きできなくなる。後は頭を殴り続ければそうかからない」
「ひぇ……。えっ、でも、そこまでが大変なんじゃ……」
「攻撃の直後に隙が出来るのはどんな相手でも一緒だ。最初の数体を囮にして、攻撃してきたところを一斉に飛び掛かれば数体は通る。少しでも動きが鈍ったり振り払おうとしたら、その間にとりつく数を増やすだけだ」
「わぁ……」
「まぁパペット特有の戦術だから、他の召喚獣では使えないんだけどな」
犠牲前提のゴリ押しだから、パペットでしか出来ない。当たり前の話だが。逆に言えば、パペットで勝とうと思うとこれしかない。
もちろんパペット自体の学習や装備、その他諸々の要素で、今私がやって見せているように、普通の戦い方っていうのも出来なくはない。出来なくはないが、やっぱり効率は良くない。
「ちなみにこれはパペット専用戦術の中でも真っ当な方だ」
「えっ!?」
「真っ当じゃない方法なら、それこそ数体で倒せる」
「ええっ!?」
特殊能力も何もない人形でどうするのかって?
相手は生き物だぞ。喉が詰まれば、息が出来なくなるだろう? そしてその喉は、そこまで大きくない。それこそ……パペットの腕1本で塞げる。後は、分かるな?