11波_ダンジョン探索と魔力
とりあえず一応そこからは周りにも注意を払えるようになったらしく、鈴木君は順調に行き止まりまでパペットを進ませることが出来た。
そこに待っていたのは生憎宝箱ではなく、ウィスプという火の玉みたいな相手だった。今はノンアクティブになっているからおどろおどろしい空気を纏って漂っているだけだが、アクティブだと死角から不意打ちで体当たりをしてくる、割と厄介な相手だ。
「え? 厄介なんですか?」
「レベルが上がったり進化済みだったりすると、火傷や呪いといった状態異常を乗せてくるからな。ものによっては体当たりと同時に自爆する。生きた爆弾だ」
「いきたばくだん」
「今はこいつだけに集中できてるからいいが、他の奴との戦闘中に不意打ちしてきたりするからな。それで後衛がやられて総崩れ、というのも割とよくある」
「うわぁ……」
そうは言ってもここは1級のダンジョンだ。ウィスプは鈴木君のパペットが近寄り、べしっと地面に叩き落しただけで倒されていた。ポン、と軽く煙を上げてウィスプが消えて、小さな小瓶が残る。
これがドロップアイテムなのだが、大物になると素材を拾い集めるのも大変だ。何せそこらに散らばるからな。複数体と戦っていると、戦ってる召喚獣や他のモンスターに踏まれたり、攻撃の余波に巻き込まれたりでダメになったりするし。
そういう事を解説しつつ、鈴木君にもう1体パペットを送り込んでアイテムを回収するように伝える。鞄か、せめて袋を持っていれば話は別だが、何も無いからな。
「……あれ。それなら、最初から一緒に行動させておいて、引き返させるだけにしておいた方が良かったんじゃ」
「気が付いたか」
「わざとだったんですか!?」
「当たり前だ。人間は失敗した方が良く学んで考えるようになる。それに、こういうのは自分で気付かないとどっかで大きな失敗をするもんだ」
「えぇ……」
鈴木君が何かすごい裏切られた感じの顔になっているが、事実だぞ。
そこから鈴木君はパペットを追加で10体召喚し、奥へと進ませた。……そして分かれ道で、半数の5体を右の分かれ道へ進ませる。飲み込みと応用が早いな。
「あ、これ、二手に分かれたら画面が分かれるんですね」
「複数人数で同時に探索する事もあるからな。20画面ぐらいまでは分かれてるのを見たことがある」
「うわぁ。1人だと絶対無理じゃないですか」
そこからも何度か落とし穴や、足首の高さでくくられた草といったトラップに引っかかったものの、出てくるのは全く育っていないパペットでも一撃で倒せるやつばかりだ。これは1級の中でも特に難易度の低いダンジョンだな。罠の難易度が高めだが、パペットで攻略する分にはモンスターが弱い方がいい。
主に落とし穴に落ちてパペットは減るが、追加召喚する鈴木君に異常は見られない。パペットと言えど、全くの素人だとその消費魔力はそこそこの負担になる筈なんだが……。
なお魔力の消費は、運動して体力を消費する事に近い。だから一気に使い過ぎると息切れするし、お風呂に入ったりマッサージを受ける事で回復が早まる。見えない筋肉を使ってるようなものだ。
「……調子よく追加召喚してるけど、自分の体調の変化には気を付けるように。息は上がってないか?」
「えっ? えっと……たぶん、大丈夫です?」
まぁ実際大丈夫そうだから、本当に大丈夫なんだろう。パペットへの指示出しにもだいぶ慣れてきたみたいだし、周りも見えてきた。それに夢中になって自分の事が疎かになってるって感じでもない。
となると、探索者としては将来有望って事だな。もしくは若さの勝利かも知れないけど。魔力も若い世代の方が伸びやすいっていうのは最近分かった事だからなー。だから「見えない筋肉」と例えられるようになったんだし。