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100波_そして続きは始まる

 それから。

 門崎さんは「シエルズメイド」への就職を「ほとぼりが冷めるまで」って言ってたけど。宝石竜を召喚できる、フリーの探索者で、師弟。そんな僕らを自分の所のクランに入れようとする人は、まぁ、いなくならなかった。

 それはそう。だって籠家さんが「緋薔薇の魔女」だっていうのもバレたし、籠家さん(と門崎さん)が、『カラーズ』っていう人達の生き残り……? だっていうのもバレたし、『カラーズ』だった、宝石竜を召喚出来てた人達。あの人たちがいなくなった理由が、光武さんのせいだっていうのも、だいぶ分かってきたからね。あれから調査が進んで。

 だから、まぁ、夜逃げ、みたいになるのかな。1ヵ月しても全然、ほとぼりが冷める様子が無い、って事で。僕と籠家さんは、門崎さんに逃がしてもらう事で、端沼の家に戻って来た。


「……正月も何も無かったな」

「あっ」


 そういえば、そうだった。年が変わってたんだった。御前試合と、その決勝戦で分かったあれこれと、何よりオーバーフロウでばたばたしてたけど……そもそも、御前試合が年末に決着がついて、そのまま新年のお祝いに入る予定だったんだっけ。

 まぁ、家に入ってすぐの部屋のソファーにぐったり倒れた籠家さんに言われるまで、忘れてた僕も僕だけど。……流石に、1ヵ月経ってるしなぁ。

 とはいえ、壁丘養護院にいた間は、あんまりお正月とか、それこそクリスマスとか、そういうのをお祝いした覚えは、無いんだけど。……ちょっとご飯の量が多かった、かな? 全体の量とか、おかずの量か種類って意味じゃなくて、白いご飯が。


「せっかくちょっと良いお正月グルメを予約してたのに……」

「そうだったんですか!?」

「そうだったんだよ。あの騒ぎでキャンセルせざるを得なくなったけどな」

「……ご、ご馳走、でしたか?」

「来年の分は予約したから、楽しみにしておくといい」

「はいっ!」


 ご馳走だったんだ……でも、来年のお正月はご馳走なんだ。もう、今から楽しみ。ご馳走って何だろう。確か前に籠家さんがご馳走って言ってたのは、あっ、あれだ。秋の味覚セットみたいなやつ。さつまいもと、かぼちゃと、柿と……確か、お米を1年分買ったおまけみたいな形で付いてきてた。

 あのさつまいもの焼き芋、美味しかったな……かぼちゃも、ベーコンと一緒に焼いたやつも、甘く煮たのも美味しかったし……そっか、あれぐらい美味しいご馳走が、来年のお正月には待ってるんだ。

 って、思い出して口の中が美味しくなってたら、気付いた。来年のお正月。予約。楽しみにする。って事は。


「……えへへ」

「どうした?」

「いえ、その……僕、まだ籠家さんの弟子でいいんだなって」


 来年も、僕がここにいる。籠家さんは、そう考えてる。そういう事だ。

 ただ、それを口に出したら、籠家さんは何故かため息を吐いた。


「そりゃ、あんな大泣きされたらな」

「うっ」

「あれをされた上で追い出したら、そいつは人の心が無いだろ」

「うぅ……」


 そ、うだった……今思い出しても、恥ずかしい……。籠家さんからすれば、ひ、独り立ちしてもいいんじゃないか? ってだけの話、だったのに……。


「ま、いたいんなら好きなだけいればいい。私から追い出す事は無い」

「……え」


 けど、籠家さんが起き上がりながら続けた言葉には、ちょっとびっくりした。だって籠家さんは、人と関わる事があんまり好きじゃない。そして、その人との関わり、の中には、弟子である僕も入ってる。筈。

 だから、弟子をとる、ってなった時も、今から思うと、本当にしぶしぶどうしようもないから、だったし。だからあっさり、独り立ちの話も振って来たんだろうし。

 分かってる。僕は迷惑しかかけてない。籠家さんは、それこそ1人でのんびり、神様にも他の人にももう関わらず暮らしていきたいんだって。


「どうした?」

「いえ、あの……い、いいん、ですか?」

「あれだけ大泣きしておいて今更だろう」

「あぅ」


 あぁぁそれを言われると、籠家さんがちゃんと優しいのも分かってるからには反論できないというか、言い方があれになっちゃうけど優しさにつけ込んだって事にもなるような、何ならこれから一生ずっと言われるやつ……っ!


「――私は、放り出されたからな」


 でも。

 当たり前だけど、そこにはちゃんと、理由があった。


「シエルを頼る、っていう事を思いつくまでも、だいぶ時間がかかったし。ローズがとにかく突っ込む事しかしないから、主にアイテムを集める為にパペットを育ててたのもあって、一応生活は出来たが」

「あ……」


 そう、だった。籠家さんも誘拐組で。保護してくれた大人の人達が、突然いなくなったんだった。光武さんのせいで。それも、今の僕より年下の時に。


「保護者が突然いなくなるのが辛いのは、よく知ってる。だから迷惑なんて全く思ってないし、まだ1人前の建前で1人になるだけの勇気が無いなら、私の弟子でいればいい」

「……はい」


 その優しさに、甘えてる、って自覚はある。

 でも、もう少しだけ。あとちょっと、甘えさせてもらおう。

 出来れば、籠家さんに頼ってもらえるようになる事が、最終目標だけど。その前には、まず、僕が僕を、頼りになるって思えるようにならないと、いけないだろうから。



 だって僕が。世界は、優しいのかも知れない。そう思えたのは。

 誰より、何より。籠家さんのお陰、だからね。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 そうかこっちも年の瀬でしたかぁ・・・。 鈴木君や、安心しな、死ぬ間際まで言われ続ける奴やから(あかん 穏やかな最終回堪能しました。 カクヨムのほうがメインになりつつあるようで 色…
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