深淵に潜む罪人
「まず自己紹介をさせてもらおうか。俺は近藤錬、黒獅子小隊16番隊の隊長をしている」
「僕は蓮見塔矢」
2人の魔法騎士は私たちへと軽く会釈した。
1人は礼儀正しく、もう1人は気安いノリで。
深災から人々を守る者同士の信頼を微かに感じた。
やっぱり魔法騎士と魔法少女の仲は悪くないんだよね、トップが険悪なだけで……
「えっと……私は……」
「知ってるさ!」
「はぇ?」
「ブラッディカメリアにファニーダチュラ・メテルだよね!」
蓮見と名乗った青年はにこやかな顔で私たちに手を差し出した。
あれ、ご存知?
もしかしてメテルのリスナーだったりするのかな。
「調子に乗るな」
「あて!痛ってぇ!!」
フレンドリーな蓮見くんの頭に近藤さんが拳骨を落とす。
「悪いな、お二人さん。こいつはどうにもミーハーでな」
「いえいえ〜知って頂けるなんて感激です」
流石にファンへのあしらい方は慣れているのか、メテルは無難な笑顔で会釈を返した。
私もそれに習って小さく頭を下げる。
「それで、お前らはこの深淵の浄化を命じられたのか?」
「もちろん、2人にはこの深淵の浄化が命じられているユ」
近藤さんの問いに私の肩から顔を出したパプラが答える。
小さな精霊は魔法少女と魔法騎士の間に浮かんだ。
彼が仲介役を買ってくれることにちょっとホッとする。
事情は詳しく知らないけど、こうやって魔法騎士と魔法少女が一堂に会すのは珍しいことだろうから緊張するよ。
「お前は……精霊か」
「え?ぁ、うん。パプラっていうんだ。私の契約精霊で……」
「ちっちゃ!これが!?」
魔法騎士の2人は私の横に浮くパプラを珍しそうに見つめた。
目の前に浮かぶ存在にあんまり馴染みがないみたいな様子だ。
黒い獅子って、パプラみたいな見た目とは違うのかな?
「そちらには何か事情があるみたいだユね」
「あぁ」
近藤さんは肩にかけた鞄からファイルを取り出すとパプラへと手渡した。
パプラが読む書類を私たちも覗き込む。
警察署の名前が書いてあるんだけど……
これ、一般人が見ても大丈夫な資料?
それは、パッと見た限りとある犯罪者の資料っぽかった。
「三ヶ野原柚夫、深利犯罪者だ。そいつがこの深淵内に潜んでいる」
深利犯罪者……?
うーん…………聞いたことのない単語だな。
語感的に深災を利用した犯罪者みたいだけど。
でも深災を犯罪に使うなんてそんなことがあるのだろうか?
「屑だよ、屑」
蓮見くんは先ほどのフレンドリーな顔から打って変わって嫌悪感に顔を歪め、吐き捨てる。
若者らしい真っ直ぐな罵倒、でも近藤さんはそれを否定しなかった。
そうまで言わせるなんてよっぽどだけど……この三ヶ野原とかいう男、どんな罪を犯したんだ。
資料を見ただけだとよく分からないけど。
「な、何したのこの人」
「強盗、誘拐、殺人、なんでもござれだよ」
「だがコイツが真に危険なのは潜伏先に深淵を用いていることだ」
物騒な言葉が蓮見くんから飛び出した。
だけどそれより気になるのは近藤さんの言葉。
潜伏作に…………深淵。
それって活動拠点を深淵内に置いているってことだろうか。
可能なのか?そんなことが。
「確かに深淵内は警察では手が届かない無法地帯カモね。だっけど〜……おかしくない?深淵は安全なトコロじゃないんだよ。入ったが最後脱出不可能な深淵だって沢山ある。手が出せないのはそもそも、その危険性からなんだけど」
訝しげなメテル。
彼女のいう通りだ。
深淵は独自のルールがあり現実は異なる異空間だ、人間の魂を糧にする怪物の棲家であり、狩場。
そんな場所で住居を構えるなんて不可能に思える。
たとえ安全な深淵があったとして、入るまでは全貌は分からないんだから流石にリスクとリターンが噛み合っていない。
「確かにルールを守り深獣に近づかなければ危険性を排除できる深淵も存在はするユ」
あるんだ!?
精霊として多くの深淵を見てきた彼が言うならば確かにそれは存在するのだろう。
だけど…………
「そんなのどうやって見つけんのよ!」
そうだ。
そんな深淵が数多の深淵の中に存在するとして、それを見つける難度は計り知れない。
いったい幾つ命を賭ければ、そこにたどり着けるというのだろう。
「それが奴の屑たる所以だ」
「?」
「奴はそれを猟犬と呼んでいたらしい」
「な、なんの話?」
猟犬?
彼は深淵の調査に犬を使ったのだろうか。
まぁ、自分で調査するよりかは危険性は少ないけど……
「とある深淵を浄化した時、奴が潜伏していたであろう証拠品が大量に発見された、その中には首輪に繋がれた人間も存在した」
「は、はぁ!?」
「ユ!?」
人!?
それも首輪に繋がれた?
ちょっと待って、さっき彼の罪状で誘拐とか言ってたよね。
私の嫌な予感を肯定するように近藤さんが頷く。
「三ヶ野原柚夫、奴は誘拐した人間を脅しつけ猟犬として多数の深淵に放ち、調査した。ただ自分が潜む安全な住居を探すためだけにだ。その過程で何人の市民が深淵に消えたかは…………調査中だ」
「………………嘘だろ」
「事実だ、奴はそれを楽しんですらいた。ゲームと称し芳しい情報を持ち帰った猟犬には褒美を与えていたらしい」
「おっと、流石にこれはオフレコだね……うん」
気まずい空気が私たちの中に流れる。
あまりにもグロすぎる罪状だった。
ただ犯罪するだけでは飽き足らず、その潜伏先の確保でさらに罪を重ねるなんて…………
「奴には絶対に捕まらない自信があるんだろうな…………実際深淵まで逃げ込まれれば確保は難しい」
「だからこそ僕ら魔法騎士に捜査が持ちかけられたんだ」
「あー……うん」
「なっるほど!」
確かにこれは魔法少女よりも魔法騎士の案件かもしれない。
願いを糧に戦う少女達にはあまりにも重すぎる話だ。
まぁ私と……メテルは魔法少女業に憧れを抱いてないらしいから問題ないかもしれないけど。
「今この深淵は警察が包囲している。俺たちは奴が深淵内に潜伏中か確認する手はずだった」
「でも、魔法少女がいるなら〜話が違う?」
「そういうことだ、戦力があるならば確保したい」
「ぁ、何か役にたてるのかな」
餅は餅屋に。
深淵には私たち魔法少女か魔法騎士の出番だ。
正直犯罪者を相手にしたことなんてないけど、役にたてるなら何かしたかった。
「ブラッディカメリア、お前は星付きだよな。封印都市を解放した魔法少女の英雄だ」
「ぁ、うん」
私が星付き魔法少女だって知っているんだ……
なんだ青年にミーハーだとか文句言っといて、近藤さんも魔法少女通じゃないか。
まぁ、知っているのは私の武器のせい、かもしれないけど。
「ひとまずお前たちには深獣を討伐するフリをして欲しい」
「フリ?」
「ふむふむ」
つまりは倒すなってこと?
「三ヶ野原は深獣討伐によって潜伏先を一度失っている。せっかく確保した安全地帯をもう一度失うのは御免なはずだ」
「だから……深獣を倒そうとすれば妨害する筈、ってこと?(疑)」
「少なくとも、何か動きがあるはずだ」
「深淵を包囲しているとはいえ、警察の動員数には不安があるんだよね」
「あぁ、できるなら奴を確保してから深淵を浄化したい」
深淵を浄化しても犯罪者を捕まえなければまた犠牲者が出る。
私たち魔法少女チームが陽動で、魔法騎士チームが潜伏後確保ってことね。
犯罪者確保に自分の出番がないのは逆に安心かもしれない、深獣の相手なら慣れっこだけど、人を相手にしたことはほとんどないし。
「問題ないか?」
「ぅ、うん」
「お願いするユ」
「メテル的にはー攫われた人、あと先行して行方不明中の魔法少女の安否の方が優先かな」
「もちろん要救助者を発見したならばそちらを優先して構わない」
「最悪深淵から脱出した彼を警察が確保する流れもあるかもだしね」
なんにせよ行動が読めない人間だからこそ、臨機応変な対応が求められるってことね。
背後に続く高速道を振り返る。
私にはそこで犯罪者を見張る警官達の姿を見つけることはできない。
でも多分こちらのことは見えてるんだろうな。
小さく、頭を下げた。
「んじゃ、いくよ〜カメリアちゃん」
「ぅ、うん…………あれ、そのドローン持ってくの?」
結局あの再変身はしなかったメテルだけど、彼女の後ろには撮影用のドローンが浮かんでいた。
点灯中の赤いランプ、撮影中だ。
今回は色々映ったらまずいものがある討伐になりそうだけど、撮影するの?
「もち!もしかしたら犯罪者逮捕に繋がる重要な証拠が撮れるかもでしょ!いいわよねレンたん?」
「れ、れんたんとは俺のことか?」
「他に誰がいんのよ〜(爆)」
「……警察に証拠品として提出するのであれば文句はない」
「OK!それじゃチームカメリア+α魔法騎士君ども、犯罪者逮捕劇をはっじめるよ〜〜!!」
メテルの信じられない陽キャ女子っぷりに近藤さんも少したじろいだ。
配信していなくても、メテルは相変わらず独特のテンションを維持しているなぁ。
ドローンに向けてカメラ目線のあざといポーズをとるのも忘れない。
本当に配信するつもりはないんだよね???
「おー!」
あ、そのノリに追従するんだ。
蓮見くんはノリいいね。
陽キャが2人、私は怖い。
……………………………
…………………
……
「ぁ、何ここヨーロッパ?」
「おしゃれな街並み〜」
深淵に突入した先に広がっていたのは煉瓦造りの建物が連なる異国の街並みだった。
高速道路とは全く違う世界観、相変わらず深淵内は異世界だ。
1回目の鎮圧作戦の報告では景色は高速道路と変わらなかったらしいから、深淵が成長して内部も変化があったのかもしれない。
困った、パプラから事前に聞いていた情報は役に立たなそうだ。
「やっぱり、簡単に深淵から外に出れるみたいだね」
蓮見くんが指を指す。
その先、深淵と現実の境界線からはうっすら外の景色が見える。
向こう側からパプラが手を振っていた。
「当然といえば当然か」
犯罪者が潜伏先に選んでいるんだ、出入り自由は最低条件だろう。
「ここからは別行動だ」
「よろしく頼むよ」
魔法騎士の2人は静かに路地裏の方に駆けていく。
魔法騎士チームは目立たないように隠れつつ犯罪者を探すんだろう。
「っじゃぁ、メテル達は深獣を探さなきゃだね!といっても…………」
「どう見ても……あれだよね」
私たちは空を見上げる。
真昼だった空は満天の星が輝く夜空に変貌していた。
その夜空の中に一際大きな浮遊物が1つ。
大きな大きな、お月さま。
そしてそのお月さまの上で横になる大きな黒い影。
「バク……?」
遠目で、しかも月が眩しいから見えにくいけど、動物の獏によく似たシルエットだった。
おそらくあれが深獣だろう。
もちろん、見掛け倒しの罠の可能性も大いにあり得るけど。
だけど、私たちの目的は陽動で本当に倒すのは犯罪者確保後だから、まずはあの獏を目指すのがいいのかもしれない。
そう思ってメテルの方を見たら、なんだか小難しい顔をして金魚を召喚していた。
「どうしたの?」
「あ〜〜……いや、ちょっと実験中カナ」
何?
見ると彼女の出した金魚がパクパクと口を動かしながら膨らんでいく。
え、何それ怖。
まるで風船のようにみるみる膨らんでいく金魚。
そして破裂音と共にそれは爆発した。
「うわっ!」
びっくりしたぁ。
やめてよ可哀想、私の能力で遊ばないでよ。
驚いたのもあって、私はメテルを睨みつける。
「あ、ごめん。まさか破裂しちゃうなんて思わなくて…………やっぱり私の再現度じゃ無理かー」
「?……何が」
「こっちの話。じゃぁバクちゃんをブチのめしに行ってみよ〜(猪突猛進)」
誤魔化すように明るい顔に戻ると彼女は壁を蹴って建物の屋根に登って行った。
そのまま空にいる深獣の元へ向かうつもりなんだろう。
何の実験だったんだろう……再現度?
首を傾げつつも、私も彼女を追って街の中を駆け出す。
街の中は獏の眠る月明かりでまるで真昼のように照らされていた。
くっきりと浮かび上がる陰影の中を駆ける。
頭の中に先ほど破裂した金魚が浮かび上がった。
パンパンのお腹、何が詰まっていたんだろう。
もしかして……魔力?
メテルは吸魔の力の再現をしようとしていた?のかもしれない。
深淵内の魔力を無限に吸い込み、自分のものとして扱う。
私を星付きにした由縁でもある能力だ。
だけど……もしかして再現できなかった?
メテルの能力は魔法少女の能力を完全に模倣するわけじゃないのかもしれない。
だとすると、私が想像していたよりかは彼女は万能ではないのかもしれない。
横目で屋根の上を跳ねるように深獣へ向かっていくチームメイトを見る。
まぁ……それでも強いのは確かだけど。
「あれ?」
屋根の上を駆ける彼女に何か違和感を感じる。
なにか……うん?
遠近感かな……いや、でも。
なんか…………
「ぇ、んん?ちょっと……メテル!」
「な〜に〜」
屋根上に駆け上がり私も彼女の横に並ぶ。
そうすると違和感がはっきりと顕著になった。
「……小さくない?」
「は?」
横にいるメテル、私よりちょっと背が高い認識だったんだけど……
今の彼女は私よりも頭一つ分背が低い。
彼女も私を見上げている、という状況に気がついたのか足が止まる。
「………………マ?」
幼くなったとかではない、そのままスケールダウンしたかのように彼女は小さくなっていた。
着てる服含めてだと思う、だって服はダボついていないし。
「ちょ〜っっとカメリアちゃん。こっちきてー」
「うわっと」
彼女に首根っこ掴まれて、屋根の上から下ろされた。
メテルは建物の前に立つとその扉と私たちの背を比べる。
「これ、カメリアちゃんも小さくなってるよ。それとも建物が大きくなってるのかな?いや、それだとカメリアちゃんとメテルの差が説明つかないか……」
メテルの言う通り、扉と比べると私の背も確実に小さくなっていた。
これでは子供の背丈だ(元々子供並の背丈というツッコミは受付けない)。
何らかの深淵ルールが私たちのサイズを小さくしていた。
「な、なんで私とメテルに差異があるのかな?」
「それがこの深淵の鍵ね」
メテルは私より速いスピードで縮んでいってる。
つまりメテルの方がこの深淵のルールに抵触したってことだ。
私とメテル、何が違っていたんだろう?
「ぁ、メテルが屋根上を走って、私はちゃんと道を走った。その違いかな?」
「となるとマナーとか?いや、高さかも(疑)」
「いや、それよりも分かりやすいのは…………」
私たちが深淵のルールについて考察していたその時。
「たすけてーッッッ!!」
「え」
「あや!?」
突然遠方から聞こえてくる女性の声。
助けを求めるその声は悲壮感に溢れていた……けど。
「これ、どっちだろ?」
深淵内の創造物の叫びなのか、助けるべき人間の叫びなのか。
深淵の異変に気付いたタイミングで助けを求めるのはなんだか不穏だった。
まるで私たちが深淵の謎を解くのを妨害してるみたいだ。
「た、多分罠だよ」
「そうだとしても〜見捨てる選択肢はないんだけど。助けを求めてる人がいるかもしれないんだから」
想定通り、深獣を討伐しに来た私たちへの妨害だろうか。
犯罪者が……この深淵にいる?
確かにメテルの言う通り罠だとしてもここは乗るべきかもしれない。
まだ、魔法騎士の存在に気づいていないのならば私たちが奴の思惑通りに動くことで油断させられるかもしれない。
「カメリアちゃん、この深淵のルール何か思い当たることある?」
小声で耳打ちされたその問いに私は頷く。
何となく予想はつく……確信ではないんだけど。
「OK!じゃぁ追いかけながら検証しといて」
そう言うと彼女は声の聞こえてきた方向に駆け出した。
「ぇあ!?」
慌てて彼女を追いかける。
検証しろって…………
メテルは小さくなるのが怖くないとでも言うようにどんどん先へ進んでいく。
一方私は彼女に言われた通り、深淵のルールを模索しながら彼女を追いかけた。
何の差が、私とメテルの大きさの差を生んだのか。
その答えを探して。
「多分ー……ここら辺だと思うんだけど」
深淵を進んで数分。
前方に走るメテルが速度を緩めた。
一回だけの声で大まかな場所把握できたの?耳いいね。
「あ」
辺りを探る彼女の視線が一点で止まる。
街並みの中にポッカリと空いた空間。
噴水を囲む小さな広場。
そこに人影があった。
「第一村人発見!」
「だ、誰?」
三ヶ野原柚夫だろうか。
この深淵内に存在する無事な人間なんてそれ以外考えられないけど。
その男は真っ黒なスーツにシルクハットを被っていた。
噴水のへりに腰掛けるその出立は街並みに馴染んでいる。
だからこそ、それは深淵の創造物なのでは無いだろうか、そういった懸念が頭をよぎる。
その時、メテルが何かに気付いたのか隣で息を呑む音がした。
「ねぇ、それ人形遊びのつもり?」
「え」
メテルの声音がいつもと違った。
あまりにも低い声で、それがメテルの発した声だとは一瞬気が付かなかった。
配信者として、ハイテンションで明るく二次元じみた言動を繰り返す彼女にしては、あまりにも低い声だった。
嫌悪感を隠しもしないメテルが睨みつける先、男は膝上に2体の人形を乗せていた。
いや、人形じゃ…………無い。
可愛いドレスを着て、手のひらサイズだからそれは人形に見えただけだ。
動いている……嘘でしょ……ひ……と?
それはこの深淵のルールによって小さくされた……魔法少女だった。
「やぁ、ようこそ魔法少女」
男は手に持った魔法少女にお辞儀をさせる。
暴れる彼女を無理やり力尽くで。
おままごとのように見えてそれは残酷な行使だった。
少女たちの首には枷がはめられており、その鎖を持って男は得意げに笑っていた。
いくら魔法少女といえど手のひらサイズになれば無力だった。
きっと先ほどの悲鳴は彼女たちのものだ。
いや、男が彼女たちに上げさせたもの……か。
「私の庭は気に入ってくれたかい。驚いたろう深淵に人がいて」
「あー……、深淵のルールを把握して王様気取りか、この男は。悪いけど私たちはお前を知っている、その罪状もね」
メテルは地の底に堕ちた声音でつぶやいた。
彼女は武器を展開し、臨戦体制に入る。
赤黒い刺又、見たことのない武器だ……誰のだろう。
「おっと、そうか……落ち着きたまえ。人質をとっているのが分からないのか?」
男は鎖を持ち上げる。
首の枷によって持ち上げられた魔法少女たちが無力に吊るされる。
首が締まったのか苦しそうな呻き声が聞こえた。
「人質?命綱の間違いじゃないのか?彼女たちがいなければ叩き切られて終わりだろ」
私も刀を抜いた。
深淵の魔力を吸ってそれはいとも容易く解き放たれた。
男は何かすれば彼女たちを害すると脅しているつもりだろうが、逆だ。
彼女たちに何かすれば、私たちもただで済ますつもりはない。
「おいおい物騒だな。魔法少女ってやつは純粋無垢な少女じゃないのか?」
殺気を感じたのか、男は焦ったように跳びのいた。
「高!?」
たった一飛び、それだけで男は二階建ての屋根の上まで飛んだ。
「な、なにあれ。すごいジャンプ力」
「才能持ちかー……」
才能持ちって銀狼みたいな?
確かに彼も生身なのに魔法少女並みの動きをしてたみたいだけど。
道理で今まで警察の手を逃れ続けてきたわけだ。
深淵だけがカラクリじゃなかったのか。
「魔法少女が警察の差金かね?それで?小さくなり続けるその体で私を捕まえられるのかなぁ?」
「ふふん!ルールなら把握してるよ。ね、カメリアちゃん」
おい!
なんで私が謎を解いている前提なんだよ。
まぁ…………だいたい分かってるけど。
メテルと私の身長差はさらに開いていた。
検証結果は確実な差を示している。
「月光だ!深獣の眠るあの月の光を浴びなければ縮まない!!」
私はあえて大声を出した。
物陰に潜んで様子を伺っているであろう魔法騎士にも聞こえるように。
そう、鍵はお月様だ。
街の道を走っていた私はたびたび建物が月光を遮り、屋根の上を走ったメテルにはそれがなかった。
私たちの大きな違いはそれだ。
ここまで来るまでに私は影の中を走ることを意識した、その結果背はほとんど縮まなかった。
「ほほう!」
私の推理があっていたのか間違っていたのか、男は愉快そうに笑った。
「なかなかいい観察眼だ。しかしだね、では……なぜ私は縮んでいないのかね?」
男は得意そうに胸を張った。
屋根の上で、煌々と照る月光を浴びながら。
男の背は…………全く縮んでなどいない。
それだった。
彼は私の推察したルールから逸脱していた。
噴水にいた最初の瞬間から男は月光を浴び続けていたのにも関わらず、だ。
もしかして……まだ解けていないルールが存在する?




