逃亡犯
「ぁ…………」
藤堂さんとばったり会ってしまった。
学校へ登校する道すがら彼女は自動販売機で飲み物を買っていたのか、屈んで飲み物を取り出しているところだった。
彼女も私に気がついたのかバッチリと目があう。
こうなると気づかなかったふりは難しい。
「ぉ……はよ」
「おはよう日向」
藤堂さんはコヒーのペットボトルを手に私へ微笑みかける。
なんだか……気まずい。
それはきっと私が内心でチームの件を申し訳ないと思ってしまっているから。
チームの変更は私の意思ではないと向こうも分かってくれているはず、なのに気まずさは拭えない。
もう彼女はアコナイトのチームで戦ったのだろうか?
新しいチームには馴染めているのかな…………
「なに?元気ないわね」
「ぁ、いや……ちょっと、ね」
横に並んで歩く。
緊張で口が渇く。
ほんの少し前だったら、彼女が横にいてこんな思いなんてしなかったのに。
「最近、どう……?」
「プッ……なにそれ?毎日会ってるじゃない」
笑われちゃった。
まぁ、そうだよね。
藤堂さんとは学校で毎日のように顔を合わせている。
それなのにこんな質問、可笑しいよね。
でも…………
私は足を止めた。
止まる私と歩き続ける藤堂さん、距離が遠のいていく。
「新しいチーム…………どう?」
本当に聞きたかったことを、吐き出した。
ねぇ、チームリリィを離れても上手くやれてる?
私を恨んでいない?
知りたい。
藤堂さんも、足を止める。
「別に、アコナイトは私によくしてくれてるよ。クレスも色々教えてくれるし……」
藤堂さんは振り返らない。
彼女の表情は分からない。
だけど、思った通りアコナイトとの相性は悪くないみたい。
「それなら、よか……」
「でもッ!」
私の言葉を遮る。
彼女にしては珍しく、大きな声だった。
通行人たちの何人かが、振り返る。
「私って……弱いんだなって、思った」
「ッ……」
「ねぇ、私がもう少し強ければ……チームは瓦解しなかった、そうでしょ?」
違う。
メテルと一緒に戦う前だったら、そう大声で否定できたかもしれない。
だけど私は経験してしまった、実力者とのタッグを。
もし……私とハイドランシアとのタッグだったらどうだろうか?
深獣とやりあえるのかな?
戦える、とは思う。
でも、もっと苦戦するだろうな。
ハイドランシアが一角獣も認める強者であったならば、私たちはチームリリィのままでリリィを待てた。
それは……彼女の言う通りなのかもしれない。
「…………」
咄嗟に言葉が出てこなかった。
否定するのは簡単だ、綿菓子みたいな甘くて柔らかい言葉で擁護することなんていくらでもできる。
だけどそれは嘘だ。
チームメイトとして嘘はつきたくない。
でも、肯定して彼女に現実を突きつけるほど残酷にもなれなかった。
中途半端な私はかけるべき言葉を見つけられないまま。
その沈黙が答えになってしまった。
「やっぱり……そうなんだ」
以前として彼女は振り返らない。
だけどどんな表情をしているのか、分かってしまった。
その声が震えていたから。
「…………藤堂さんのせいじゃないよ、私。弱いのは私の方」
リリィを守れなかった、事の発端はそこにある。
だから、藤堂さんが無力感を抱く必要なんてないはずなのに。
「よく言うよ……」
汗が背中を伝う。
激情を隠しきれない低い声だった。
「私よりずっと強いくせに」
その言葉の重みを私は知っていた。
魔法少女ミスティハイドランシアの才能を私は知っていたから。
低い魔力量を願いの強さと経験で必死に補って戦う魔法少女。
その努力を知っている、共に戦ったチームメイトだからこそ。
だからこそ彼女が表に出さなかった嫉妬を、感じた。
だって私の強さは才能だから。
高い魔力量も吸魔の力も努力で得たものじゃない。
ただ一欠片でもいい、自分にも才能があれば……そんな感情が滲み出てしまっていた。
「ごめん」
表に出てしまった嫉妬を恥じるように、彼女は駆け出した。
謝罪だけを残して。
遠ざかっていく背中。
追いかけるべきだ、追いかけなくちゃいけない。
だけど、なぜだか私の足は鉛のように重かった。
傷つけてしまった。
彼女が傷ついていないか、確かめたかっただけなのに。
間違えて、しまった。
彼女が自分の弱さを憂ていることを知っていたくせに。
………………
結局教室についてからも私たちの空気は重苦しいままだった。
いつもなら、私の机に座ってたわいもない世間話をしていたはずなのに。
彼女は自分の席でじっと外を眺めていた。
2人の間には沈黙が重苦しく横たわっていた。
「ねぇ、まだ喧嘩してるの?」
「喧嘩じゃ……ないよ」
よそよそしい空気に豊前さんたちが心配そうに顔を合わせる。
側から見ても私たちの仲が拗れているのは丸わかりだった。
だけど喧嘩してるわけじゃない。
お互いのことが嫌いになったわけじゃないんだ。
チームメイトのことは大切だよ。
でも……だからこそ、弱い自分がどうしても許せないんだ。
きっと、お互いに。
……………………………
…………………
……
「おや、カメリアじゃないか」
放課後私はメテルに呼び出された。
どうやら集合場所はメテルの自宅みたい、何の用だろう?
まぁそんなわけでメテルと合流すべく花園を歩いていたら不意に声をかけられた。
誰だろうと思って見たら、パステルアカシアだった。
あれ、なんだか久しぶりだね。
私が星付きになった後も、ちょびちょび合同で深淵を鎮圧してんだけど……最近はご無沙汰していた。
「なんだか浮かない顔だね」
「あー……うん。色々あって……」
「大丈夫かい?」
歩く速度を合わせて、横に並んでくれる。
変わらぬ頼もしさと親しみやすさ。
私のよく知るパステルアカシアで、ちょっと安心した。
「聞いてるよ。新しいチームとは上手くいってないのかい」
「……ぇっと。そういうわけじゃないんだけど……」
メテルとは比較的平和な仲だ。
配信者特有のハイテンションにはついていけない時もあるけど、よきチームメイトになれるとは思う。
「色々あって自己嫌悪中なんだ」
結局原因はこれだ。
私はリリィを傷つけてしまった自分をいまだに許せていない。
だからこそ、世界は灰色だった。
「弱さを責めることは健全じゃないよ」
自己嫌悪としか言ってないのに、弱さを憂いていることを言い当てられた。
さすがは魔法少女歴が長いベテランというか……察しがいいというか。
「弱さは罪じゃない、恥じなくていいんだ。だけど弱さを隠して1人戦うのは恥ずべき行為だよ。隣に目を向けてみるといい、君に手を差しのべてくれる仲間は沢山いる。1人で勝つ必要なんてないんだ、私たちは魔法少女なんだから」
ニッコリ笑うアカシア。
その顔がいつでも助けになると言っていた。
1人で勝つ必要はない、それは本質をついた言葉だった。
本来魔障壁は1人じゃ破れない。
だから私たちはチームを組む。
それを忘れてはいけない。
「ハイドランシアにも、そう言えたらよかったのに……」
あの時の私がアカシアのように気の利いた言葉を選べていれば、2人の仲が拗れることもなかっただろうな。
アカシアの言葉に救われるからこそ、自分の不甲斐なさが色濃くなる。
「ははぁ、君たちの問題なんとなく予想がついたよ」
何が分かったのかアカシアが頷く。
「きっと心配しなくて大丈夫。あの子は努力家だから」
「そう……かな」
根拠なんてないはずなのにそう言われて少しだけ心が軽くなった。
私も彼女が努力家なのは知っているから。
「リリィが目を覚ました時、彼女が驚くくらい二人とも強くなってしまえばいい」
「…………確かに」
一度崩れてしまったものは戻らない。
ならばもう二度とチームリリィが瓦解しないよう、努力すればいい。
ハイドランシアならば、きっとそうする。
私もそうすべきなのかもしれない。
「目標ができたなら、下を向いている暇なんてないよ」
「うん」
「お互い、新しいチームで頑張ろう!」
「うん!……うん?ん???」
アカシアに背中を押され、私は前を向いた。
だけど、ちょっと聞き捨てならない単語に足が止まる。
お互い……?
「え?サイプラス……は?」
アカシアのチームメイトといえば我が陰キャ仲間であるノイズィサイプラスだったはずだ。
新しいチームって何?
「あぁ、彼女は近いうちに引退することになったんだ。だから僕は新しいチームメイトを探してる真っ最中さ」
「はえ?」
今なんと?
サイプラスが……引退?
衝撃の事実、だけどそれを告げる彼女はどこか嬉しげだった。
悲しいことじゃ……ないの?
「おっと、僕はこの門だから。じゃ!この話はまたどこかで」
私が疑問で頭をいっぱいにしている間にアカシアは目的の門の前に辿り着いたのか、私へ手を振る。
最後に爆弾を投下しないでよ!
詳細聞きたいんだけど!?
私の驚愕を他所にアカシアは光と共に門の中に消えていった。
「えぇぇ…………」
あのノイズィサイプラスが、引退?
衝撃的すぎる。
あんなに強い魔法少女だったのに。
「う〜ん…………」
…………ただよく考えてみると、確かに喜ぶべき観点もある。
彼女は自分の負傷を顧みない戦闘狂だったし、その願いはある意味では破滅的だった。
そんな戦い方をアカシアは悲しんでいたし、心配もしていた。
彼女が自らを傷つける理由を失ったのなら…………それは喜ぶべきこと、なのか?
詳細がよく分からないから憶測することしかできない。
アカシアが嬉しそうなので、そんな悲しい話でもないのかもしれない、多分……きっとメイビー……。
こんどサイプラスからも話を聞かなきゃな…………
……………………………
…………………
……
「お!カメリアっち!いらっしゃ〜〜い」
「ぉ、お邪魔しまーす……」
都内に建てられた大きなマンション、その最上階の一室に足を踏み入れる。
とても広く、モダンな室内…………をぶち壊すかのように所狭しと陳列された魔法少女グッズ。
あそこに置かれているのはトロフィーだろうか、配信者としての登録者数が刻まれている。
すごい、0が沢山ならんでるよ。
「誰もが夢見るメテルハウスにお邪魔してるのにテンション低いな〜〜(怒)」
「ぁ、ははは…………」
そう、私はチームメイトであるファニーダチュラ・メテルの家にお邪魔していた。
女の子らしい可愛い私服に包まれた少女が私の手を引く。
「ぁ、この姿だと初めましてだよね。私……出雲日向」
「え〜そういうの興味ないかな。メテルにとって大事なのはブラッディカメリアちゃんで、日向ちゃんは関係のない一般人だから」
おや?
お互い魔法少女でない状態で初めて会ったのだから自己紹介をと思ったのだけど……なぜか不機嫌そうな顔をされた。
「配信者として線引きはしっかりしてるの(諫)分かる?私たちは魔法少女同士のビジネスでプライベートは不可侵」
つまり自宅に招いたもビジネスのお話しであって、親睦を深めたいわけじゃないってこと?
それは……どうなんだろう。
リリィみたいにお友達として距離を詰めるのが普通だと思っていたから、良し悪しの判断がつけずらいな。
魔法少女として共に戦うんだから仲を深めるのは大事だと思うけど……
まぁ魔法少女をビジネス?と捉えるならそれも一つの正解ではあると思う。
ただどうしても壁を造られたとは感じてしまうけど。
「前回のお牛さんと戦ったじゃろ、今日はその映像チェックして欲しいんだ〜〜」
「えっと……?」
前回のというと、この前の深災鎮圧のことだと思うんだけど、映像チェックってなんだろう。
不思議そうな顔をしている私にメテルはややドヤ顔でため息を吐く。
「過度なグロ!個人情報に繋がる発言!いけてない顔面カット!つまらない間!パンチラ!!リスナー君に見せられないもんは沢山あるぞぉ〜(恐)それらをカット編集し、エンタメに昇華する!大事な作業だよ」
「ぁ、いや。それはなんとなく分かるけど……もうリアルタイムで配信してたんじゃないの?」
私の発言に今度はメテルの方が不思議そうな顔をした。
え、なに?違うの?
じゃぁなんであんな大型のドローン飛ばしてたわけ?
「君ねぇ……深災鎮圧は録画に決まってるじゃないか。ファンが現地に凸してきたらどうするのさ」
「あ!」
言われてみればそうだ。
彼女は言うなればアイドルのような存在なのだ。
そんな彼女のリアルタイムの配信、おまけに分かる人間には場所を特定可能。
そんなのファンならメテルの活躍を一目見ようと押しかけるに決まっている。
「リスナーどもの安全を守るため、リアルタイム配信には細心の注意を払わなきゃならないのであーる」
「な、なるほどぉ」
だからこの前の私の反応を撮った配信は花園で撮影したのか。
花園であれば魔法少女しか入ることが許されていないから凸の心配はない。
一概にリアルタイムであればいいというワケじゃないんだ。
「それに……人死にが映ったらどうすんのよ…………」
「ぬぁ!?」
ボソッとメテルが小さな声で怖いことを呟いた。
「深災は何があるか分かんないからね〜メテルこわ〜い(恐)」
大袈裟に怖がったふりの後にウィンクで茶化された。
いや、可愛く笑っても誤魔化せないよ!?
考えれば、メテルも熟練の魔法少女なんだよな……仲間の悲劇的な引退を何度も見たのかもしれない。
可愛さだけでは魔法少女アイドルは続けられない。
その闇の面を感じざるをえない呟きだった。
「それじゃ、メテルの配信ルームへようこそ!」
メテルの先導のもと小ぢんまりとした部屋へ案内される。
大きなPCにモニターが沢山並んだ、いかにも配信部屋って感じの空間だった。
「何これ?壁が凸凹してる」
「防音材だよ〜学校の音楽室にも貼ってあったでしょ」
いや、それとはだいぶ見た目が違うような……
ドローンといい彼女の配信機材はどれも本格的だった。
一体どれほどの価格がするのか私には検討もつかない。
もしかして……大金持ちの娘だったりする?
でも…………この家に私とメテル以外、人の気配がないんだよな。
ううん、違う。
正しくはメテル以外の人間が住んでいた形跡がない。
玄関の靴、置いてあるマグカップ、家具の配置……そのどれもに両親の存在を感じさせるものがない。
一人暮らし……なのかな?
私とそう歳が変わらないように見えるのに……
なんで一人暮らしなんてしてるの?
聞きたい、でもそれは難しい。
彼女に壁を作られてしまったから。
彼女の本名さえ知らない私にプライベートを詮索する資格はない。
でも…………
せめて本名くらいはいつか知りたいな。
友達に……なりたいから。
「んじゃ、映像確認して欲しんだけど……何かカットして欲しいシーンあるカナ?」
「私の映ってるシーン全部」
「ナンセンスーッッッ!!!!」
断られた、というか怒られた。
やっぱだめかぁ…………
……………………………
…………………
……
「おぉ〜おっきぃ〜!!」
前方に聳える巨大な深淵。
不気味に脈打ち、徐々にその領域を増していく。
翌朝、私たちは高速道路の陸橋を飲み込んだそれの前にいた。
「今回の任務はこの深淵の鎮圧だユ。深獣はもう深淵内に篭ってしまったから、深淵に侵入することになるユ!」
「深獣が出てこないってことは……もう十分に魂を取り込んだんだね。なんで封印しないの?」
任務の概要を説明してくれるパプラに尋ねる。
深淵は現在進行形で成長していた。
封印しないとこのままでは被害が拡大してしまうのに止めないんだ。
「封印都市に指定しちゃうと〜色々手続きが大変なんだよ」
メテルがドローンの調整をしながら言う。
これから深淵に入るわけだけど、機材は故障しないのかな?
「封印するってことはー鎮圧不可と判断したってこと。しばらく対応は難しくなるし、一帯は避難地区に指定しなくちゃダメ。でもこんな交通の要所でそれは困るでしょ〜〜。お分かり?」
確かに、高速道路がこんな風に閉鎖されてしまえば流通などに影響が出てしまう。
直ちに鎮圧が望まれる深淵。
だからこの深淵はこんなに大きくなっても封印されていないのか。
「今回は3回目の鎮圧作戦になるユ」
「それってメテルたちの前に2組鎮圧失敗チームがあるってこと?やばぁ!」
ちょっと不穏だな。
直ちに鎮圧しなきゃいけない場所なのになんでこんなに大きくなるまで放置していたのかと思ったけど……すでに鎮圧作戦は実行されていたみたい。
そしてその作戦は失敗した。
確かにやばぁ……
「1回目は危険を察知して早めに退避したから犠牲者はいないユ!」
「2回目のヤツらは〜???」
「音信不通だユ……今回の任務は行方不明になった魔法少女3人の救出も兼ねてるユ」
「ぇ、ええ!?早く助けに行かなきゃ」
聞けば聞くほどまずい状況だ、急いで深獣を無力化しないと!
メテルの手を引いて深淵に向かう。
犠牲者がいるなら早くしないと……魂を喰い尽くされて死人が出る。
「ちょっと!待ってよ!まだ変身してない」
「うん?毎回あれやるの?」
「もちのろん!」
「ぇぇー…………」
ファンサービスの変身シーン。
あれ、またやるの……?
やる?しょうがないなぁ…………
私は仕方なく彼女の手を離す。
手早く済ませてよね。
メテルは浮かび上がったドローンの前でポーズを取った。
「みんな〜〜〜ッッッ Let's funny time!!」
「あの」
「今日も皆んなに元気届ける魔法少女ファニーダチュラ・メテルちゃん、デス(爆!!)」
「あの〜……」
「本日は〜なんと巨大な深淵の鎮圧に来ています!きゃぁ〜こわこわ!!」
「あの!!」
「「何!今撮影中なんだけどっっ!!」」
撮影中に声をかけられ、私たちは大声をハモらせた。
さっさと撮って深淵を鎮圧しに行かなきゃなんですけど!
私たちが振り返ると、大柄な男の人と青年がいた。
もう!なんでこんな深淵間際に人がいるの?
あれ…………でもあの黒いジャケット、見覚えがある。
「魔法少女……で合ってるか」
「そういう貴方はぁ〜魔法騎士さん?」
そうだ!あの黄金の獅子が描かれた黒いジャケット、この人たち魔法騎士だ。
でも、なんで魔法騎士が来てるの?
もしかして、鎮圧依頼がダブルブッキングしちゃった?
「あ!?」
私が首を傾げていると青年の方の魔法騎士が声を上げた。
「お前!あの時の黒い魔法少女!!」
「ぇ?ぇっとぉー…………」
誰、だっけ……?
魔法騎士に知り合いはいなかったような気がするんだけど。
まずい覚えてない、き、気まずいよぉ……
「近藤さん、彼女ブラッディカメリアです。ほら随分前に僕が助けてもらった」
「誰であるかは関係ない」
嬉しそうな青年にぶっきらぼうな男。
前に助けた?
それならなんとなく心当たりがある。
というと……猿型の淫魔と戦った時かな。
分からないわけだ、青年……随分背が伸びたね。
「この深淵の鎮圧、少しだけ待って頂きたい」
「へぇ……どゆこと?」
私たちの任務に待ったをかける魔法騎士。
私たちよりも随分背が高い二人組みなせいでなんとなく威圧感がある。
それにしても鎮圧を待てって……なんでだろう?
もう犠牲者は出ている、一刻の猶予も残されていないのに。
メテルが警戒するように目を細める。
別に敵じゃないことは分かっている。
私たちは敵を同じくする仲間だ。
だけどなんだか険悪な雰囲気だった。
「指定犯罪者がこの深淵内に逃亡したことが確認された、俺たちは警察の要請によりこれより逃亡犯を確保する」
「え?」
「わぉ!」
犯罪者が……深淵に!??




