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陰キャに魔法少女は厳しいです!【第二部開始】  作者: 黒葉 傘
第二部:復讐の造花

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25/28

崩壊

「ね〜今日新しくできたカフェ行かない〜〜?」


「いいねぇ!」


「ぁ、ごめん今日先約があって……」


「ん?」


 放課後ウキウキ顔の豊前さん達からお誘いがあったけど、残念なことに予定が入っていた。

 学校近くに新しくできたカフェは気になっていたけど今回はお預けだ。


「先約って、遊びの?」


「え、うん」


 藤堂さん達が珍しい物を見るような目でみてくる、なんだよ。

 断られるとは思っていなかったらしい。


「私たち以外に友達いたんだ、ヒナちゃん」


「いるよぉ!??」


 何かと思ったらそういうことか。

 失礼な!

 私にだって学校外の友人くらいいるよ!

 まぁ…………神崎さんだけだけど。

 そう、今日の先約とは神崎さんだ。

 彼女から誘いがあったのだ。


「それで……なん、だけど」


「うん?」


 実は今日は私と神崎さんだけなのだ。

 いつもだったら藤堂さんも混ぜてチームリリィの面子で集まるのに……今日は2人。

 神崎さんに誘われているのは私だけだった。

 別に藤堂さんに予定があるわけじゃないのに。

 こんなこと初めてだ。

 藤堂さんをあえて仲間外れにする理由って何?

 なんだか最近距離が近くなってるし…………

 これは…………そういうことなのか?

 期待していいのか??


「この前のお化粧教えてもらっていい?」


「は?」


 服装は制服でいい、放課後だし。

 だけど少しでも見栄えをよくしておきたかった。

 絶対ないだろうけど、万が一の展開もあるかもだし……うん。


「男か!?男なのかぁ〜〜〜!?」


「ついにっヒナちゃんにも春が!?」


「違う!!!」



……………………………



…………………



……



「う〜ん…………」


 手鏡に映る自分の顔を睨む。

 なんか違和感。

 前回と違ってかなり気合をいれてメイクを施されたから、普段の顔との差異がひどい。

 これ自分?

 可愛さよりもまず初めに違和感がくる。

 見慣れなすぎて、似合っているのかも分かんないよ。

 とりあえず、豊前さんには感謝だけど……こんなばっちりメイク決めて神崎さんに驚かれないかな。


「はぁ〜…………」


 まぁ、悩んでも仕方がないか。

 手鏡を閉じて顔を上げた。

 集合場所に近い公園のベンチ、時計を見ると時間まではもう直ぐだ。

 といっても神崎さんは遅刻することが多いから焦る必要はないだろうけど。

 彼女とて時間は守りたいんだろうけど、すぐ厄介ごとに顔を突っ込むから遅れがちなんだよね。

 私と彼女の初対面、病院での深災だって彼女は担当の魔法少女じゃなかったらしいし。

 ただの通りすがりなのに私を助けにきてくれた。

 それが神崎さんの願いによる行動なのだとしても、やっぱり彼女はお人好しのトラブルメーカーだと思う。

 色々振り回されたけど……神崎さんがいなければ私は今も引きこもっていたままだと思うから、今は感謝している。

 逃げない魔法少女、その願いを彼女は後悔していた。

 言葉の節々からそれを感じさせる片鱗があった。

 だけど、私みたいにその願いによって助けられた人間だっている。

 だから自分の願いをもっと好きになっていいんだよって、伝えたかった。


「………………遅いな」


 時計を見る。

 集合時間から5分が経過してしまっていた。

 やっぱり遅刻したみたい、神崎さん。

 携帯をチェックする、連絡なし、メッセージを送信、未読。

 ふむ…………

 念の為魔法少女のデバイスも確認する。

 彼女がもし深淵関係の厄介ごとに踏み込んでいるのならチームメイトにはヘルプを出しているはずだから。

 うーん…………ここにも連絡なし。

 仕方がない、もう少し待ってみるかぁ……



……………………………



…………………



……



 1時間……待ちました。

 連絡なし、メッセージ未だ未読。

 おやぁ?

 藤堂さんにも確認してみたけど、どこにいるか分からないみたい。

 補習でも受けているのかな、学校まで迎えに行こうか?

 いや……待てよ。

 ある可能性に思い至って私はデバイスを手に取った。


「もしもしパプラー」


「ユ?」


 連絡を取ったのは私の契約精霊パプラだ。

 あの小さなユニコーンに自分から電話をかけるのってそういえば珍しいかも。


「パプラってさ自分の角の位置が分かるんでしょ。今リリィがどこにいるか分かる?」


「え?なんとなくなら分かるけど……それプライバシーの侵害だユ」


「いや、私の家リリィに教えてたじゃん、そんな言い訳通じないから」


「ユユ!??」


 以前私を魔法少女にしようと説得しに来た時、勝手に角の位置を探知して私の家まで来たよね。

 忘れてないぞ。

 リリィは私と同じくパプラと契約した魔法少女だ、おおまかでも現在位置は把握できるはず。

 パプラに神崎さんのいるところまで案内してもらおう。

 出来ないとは言わせないよ。


「いいから来てよ。もしかしたらまたトラブルに巻き込まれてるかもしれないから」


「……わかったユ」


 来てくれるみたい、優しい。

 我ながら結構無茶苦茶な要求した自覚はあるけど、意外とすんなりいった。

 まぁ、リリィの普段の素行も踏まえてだろうけど。

 とはいえパプラは優しい、魔法少女になって色々な優しさに触れてきたけど……やっぱり一番私を甘やかしてくれるのはパプラだと思う。

 パプラはいつだって自身の契約した少女のために奔走している。

 苦労人だよね、あの子。


「お、早い」


「変な用事で呼び出さないで欲しいユ!」


 パプラはすぐに来てくれた。

 小さなマスコットは私を睨みつけるけど……その愛くるしさでは迫力は全くない。


「それで、リリィはどこにいるの?」


「ん〜あれ?意外とここから近いユ」


 あれ、そうなんだ。

 ということは神崎さんもこっちに向かって来ているのかな。

 じゃぁ、時間も時間だし迎えに行ってあげよう。

 カバンと刀の入った竹刀袋を肩にかけて立ち上がる。

 私はパプラに道案内をお願いして歩き出した。


「あ、おめかししてるユ?似合ってるユよ!」


 おや、メイクを褒められた。

 変な感じじゃないみたいで一安心。

 というか彼はいわゆる人外なわけだけど、その美的感覚は人と同じなのだろうか?


 公園から街中へ、パプラの感知する角の位置を頼りに進んでいく。

 …………?

 大通りから逸れるけど、こっちで合ってる?

 駅から公園へ向かうなら大通りから行った方が近いと思うんだけど。

 どんどん大通りから外れて、住宅街へと進んで行く。

 本当にこの方角に彼女がいるの?


「変だユ」


 私の抱く違和感に呼応するようにパプラが呟く。


「リリィ……変華してるユ」


 え…………?

 魔法少女になってるってこと?

 それって確実に深災関連の厄介ごとに首突っ込んでるじゃん!


「もうッ変華!」


 何やってるんだよリリィ。

 状況は分からないけど私もブラッディカメリアへと変華する。


「肩乗って!」


「ユ!」


 金魚を呼び出し、空への道を作る。

 パプラの道案内とか悠長なことをやっている場合じゃないのかもしれない。

 今までの道案内から大まかな方向を予想して空から彼女を探す。


「ぉ、おーい、リリィー!!」


 大声で彼女を呼ぶ。

 戦っているの?

 もしそうなら。今すぐ私も…………


「リ…………」


 視界の端。

 白を見つける。

 魔法少女ホワイトリリィの純白。

 なんだそこにい…………た。


「ッ!!?」


 そして、それを貫く黒。

 赤。

 血の赤。

 思考が一瞬止まる。

 瞳孔が収縮し事態を観測する。

 前方の上空、白と黒が火花を散らしていた。

 真っ二つに折れるリリィの槍。

 黒いナニカがリリィの胸を貫く。

 リリィの目が見開かれた。

 胸を貫いた黒が乱暴に引き抜かれ、赤が吹き出す。


「おい」


 気づけば、私は刀を抜いていた。

 普段なら抜けもしない刀が私の願いに黒く濡れる。


「何してんだッッ!!!」


 怒りのままに刀を振り抜く。

 轟音と共に、ビルの屋上の給水タンクが真っ二つに弾け飛んだ。


「外した!?」


 黒いナニカは私の斬撃が放たれる瞬間、影のように姿を消した。

 刀を構え、視界を左右に振る。

 いた。

 そいつは私の背後、アパートの屋根の上に立っていた。

 …………?

 なんだ、あれ。

 それは完全な人型の黒いナニカだった。

 女性のようなシルエット、だけど真っ黒に塗りつぶされていて影にしか見えない。

 深獣……なのか…………?

 だけど私の視界内に深淵はない。


「カメリアッ!リリィが!」


 肩に乗せたパプラの絶叫。

 見ると空中から落下したリリィが地面に激突するところだった。

 やばいッ!

 咄嗟に金魚を放つ。

 彼女を掴めと。

 だけど金魚はあまりにも遅くて。

 数匹、金魚は彼女の靴に噛みついて空中に止めようとした。

 それが……限界だった。


 耳を覆いたくなるような音がした。


 白い魔法少女は頭から地面に激突した。

 私はそれを止めれなかった。


「ヒュッ……」


 変な息が漏れる。

 黒いナニカなどもう視界に入らなかった。

 私の友達が地面に転がる。

 ぶわりと汗が全身から吹き出した。


「り、リリ……ィ?」


 落下するように、私も地面に降り立つ。

 敵に背を向けていることなど全く気にならない。

 視界の中でリリィはぴくりとも動かなかった。

 いつものように笑って起き上がって、私を安心させてはくれない。

 俯けで倒れた彼女の表情は伺えない。

 震える手で、彼女の肩に手をかけて、ゆっくりと抱き起こす。


「ぁ」

 

 ドロリと零れ落ちる赤。

 いつも笑顔でいっぱいだった彼女の顔は赤く染まっていた。


「ぅぁ…………ぁ……」


 うまく、息ができない。

 なんで……こんな……

 いきなり…………

 どうして……


「死んだの?」


 煤けた声。

 振り返る、私の真後ろに黒が佇んでいた。

 リリィを傷つけた黒いナニカ。


「おま…………えが」


 お前が傷つけたんだろ。


「さようなら」


 怒りが爆発する、そう確信した瞬間、それは消えた。

 あまりにもあっさりと、あまりにも無情にも。

 私たちを置いてけぼりにして……


 それは消えた。


 残された私は怒りのやりどころを失い、唇を噛み締める。

 冷静になんてできなかった。

 地面を殴りつけ、荒い呼吸を繰り返す。

 なんだ……あれ。

 どうしてリリィが…………


「カメリア……」


 肩の上のパプラと目が合った。

 心配そうな小さな瞳。

 今、私はどんな顔をしていたんだろう?


「きゅぅ、急車を……」


 喘ぐように言葉を紡ぐ。

 手の中のリリィはまだ暖かい。

 胸に穴が空き、頭からは絶え間なく血が流れている。

 だけど……死んでなんていない。

 まだ息をしてる。

 だから、助けを呼ばなきゃ…………

 携帯を取り出そうとして、それを地面に落とす。

 間抜けな音を立てて携帯は地面を転がった。

 手が震えて、それを握れもしなかった。

 手を見下ろす、それが震えるのは怒りからか、それとも友を失う恐怖からか。

 分からない……

 分からなかった。



……………………………



…………………



……



 結局、救急車はパプラが呼んでくれた。

 手が震えて、私は満足に番号を入力することもできなかった。

 救急車が到着して医者に事態を聞かれても私は何も答えることはできなかった。

 ただ震えて泣く私は……役立たずだった。


 そしてその役立たずは今病院の椅子で座るだけの置物だ。

 置物の前を、人々が慌ただしく通り過ぎていく。

 病院のスタッフ…………そして神崎さんの家族。

 彼女と血のつながりもない私は現状を知る資格さえない。

 ただ事態を知る第一人者としてここにいるだけ。

 今この廊下の先でどんな処置がなされていて、神崎さんの傷がどれほど深刻なものなのか、私には見当もつかない。

 ただ、黙って願うだけ。


「日向!」


 そんな置物に声が投げかけられる。

 顔を上げると、藤堂さんが息を切らして私を見下ろしていた。

 パプラから連絡を受けて慌ててここまで来たのだろう。


「何があったの?」


 聞かないで欲しい。

 私の口から説明しなきゃだめ?

 しなきゃ…………だめなんだろうな、私はその場にいたんだから。


「ぁ、リリィが…………戦ってて、ぇと……わた、私……守れなくて、リ、リリィがね………………その」


「怪我しちゃったのね」


「ぅ…………ん」


 目を合わせないで欲しい。

 すごく……気まずい。

 何を言えばいいのか分からず、私は口をもごもごさせた。

 藤堂さんが私の隣に腰掛ける。

 お互いの温度が感じられるくらい、すぐ近くに。


「また、美佳のやつに振り回されちゃったんだ」


 呆れたような笑み。

 なんで……笑ってるの?


「責任感じなくていいよ、日向。あの子はいつもそうだから」


 私を安心させたいのか、藤堂さんは笑いかけてくる。

 その表情に視界がぐらりと揺れた。


「自分から危険に飛び込んじゃうんだから、きっと今回だってごめーんって舌出してピンピンしてるわよ」


「なんで?」


「え?」


 なんで、そんなこと……言えるの?

 神崎さんの傷、見たの?

 真っ赤に染まった顔見たの?

 見てないよね。

 見てたらそんな風に笑って大丈夫だって、そんなこと言えないよ。

 そんな無責任に私を安心させれないよ。


「なんで?」


「日向……大丈夫?」


 藤堂さんの目が訝しげに細められる。

 その心配を安心させてあげることはできない。

 私にそんな余裕はなかった。

 自分を慰めにきた友人にあたってる、それを自覚しながら不安定な自分を抑えることができなかった。


 黒いナニカに怒りのままに切り掛かった。

 もし…………

 もしあの時怒りを抑えて冷静に落下するリリィを受け止めていれば。

 少なくとも、彼女が頭に傷を負うことはなかった。


 ねぇ、リリィを傷つけたのは私なんだよ。


 そんな最低の一言が口から漏れ出ようとした瞬間、扉が開いた。

 疲れた顔をした神崎さんの両親が出てくる。

 私は何も言えず、口を噤んだ。

 出しかけた言葉を飲み込んで。


「美佳、大丈夫ですよね?」


 おかしくなってしまった私の様子を見て嫌な予感を感じたのか、焦ったように藤堂さんが両親に質問する。


「えぇ、一命は取り留めたわ」


 その一言に、私も藤堂さんも息を吐き出した。

 最悪の事態にはならなかったみたい。

 そうだよね……だって魔法少女だもん、普通の人よりは頑丈なはずだしあんな怪我で死ぬわけ……


「でも……」


 でも?


「頭部の損傷がひどくて……もしかしたらあの子は……」


 やめろ。

 その先は言うな。


「目覚めないかもしれないって」


 地面が遠くなった気がした。

 耳鳴りがして周りの音が鈍る。

 目覚めないかも?

 頭部の怪我って…………それ、やっぱり私のせいじゃないか。

 あの時手を伸ばさなかった私のせいじゃん。


「おい、そんなことまで言う必要ないじゃないか」


 神崎さんのお父さんがお母さんを嗜める。

 確かにそれはただの友人でしかない私たちには重すぎる情報だった。

 一命は取り留めた、それだけだったら安心して帰ることができたのに。


「そんなことないわ、だってこの子達は多分……」


 その言葉に神崎さんのお父さんはハッとしたように目を見開いた。


「魔法少女……か……」


 ただの娘の友人ではないと気づいて彼の目つきが変わる。

 その目つきの意味するところは?

 私にはよく分からなかった。

 ただ自分の中で膨れ上がる感情に耐えていた。


「ぁっ……そうです、私たち美佳とチームを組ませてもらっていて……」


 珍しくたどたどしく答える藤堂さん。

 神崎さんの両親の表情が少し柔らかくなる。


「そうか娘がいつも世話になってるね。今日はもう遅いから帰りなさい」


「あの子の様子は私たちが見ておくから」


 そう言われれば私たちは退散するしかない。

 私たちは彼女に肉親でもなければ医者でもない。

 ここにいてできることなど何もない。


「…………」


 私は何も喋らなかった。

 神崎さんの両親を前にして、言葉を発することができなかった。

 感情を吐き出してしまいそうになる衝動を、ただ耐えていた。

 責められるのが怖かった。

 責められるはずなんてないって分かるはずなのに。

 2人からは神崎さんと同じ優しい人柄を感じたのに。

 それでも怖かった。



……………………………



…………………



……



「ねぇ、大丈夫?日向」


 分かれ道、藤堂さんの視線を感じた。

 心配そうな目だった。

 それとも、この重苦しい雰囲気に耐えられなかった?


「…………」


 私のせいだ。

 その言葉を喉元で飲み込んだ。

 もう二度と出てこないように、深く自分の奥底に閉じ込める。

 気づいたから。

 そう言って自分の失敗から解放されたいだけなんだって。

 慰めてもらって責任から逃げ出したいだけだって。


「ごめん。神崎さんが心配で」


 だから、私はもっと別の当たり障りのない言葉を吐き出した。

 自責の念を飲み込んで。


「そう……だよね、私も心配」


 ドロリとした感情を飲み込めば、なんだかいつもの私に戻れたみたいな気がした。

 色々と心配かけちゃったみたいだし、ひとまず安心させなくちゃ。


「でも、神崎さんのことだから明日にはケロって目を覚ますよ」


「…………だね、元気が取り柄みたいなやつだし」


 その言葉は正解だったみたいで、ホッとしたように藤堂さんの頬が緩む。

 私までおかしくなってしまえば、彼女の心労が大きすぎるから、これでいい。

 無理に友達を心配させる必要なんてない。

 きっと明日になれば全部よくなる。

 神崎さんは何事もないように目を覚ます。

 自分でも信じてないそんな薄っぺらい希望を吐き出した。


「じゃあ、また明日」


 そう言って手を振る。

 空元気なのは多分気づかれてる、それでも辛そうな顔するよりきっとまし。


「うん、また明日」


 藤堂さんもそう言って手を振り返してくれた。

 あっちも空元気、笑顔が全然自然じゃない。

 それに気づかないふりして彼女と別れる。


「………………」


 そうして帰り道、1人になった。

 その途端、飲み込んだはずの黒い感情が溢れそうになる。

 なんで…………私は間違えてしまったのだろう。

 大事なものは何か、分かっていたはずなのに。


「……………………」


 歩く速度がどんどん緩やかになって。

 私は信号でもないのに足を止めた。

 醜いナニカが溢れそうで、押しつぶされそうで、進めなかった。

 ただ影を睨みつける。

 私の大事なものを傷つけて、忽然と消えた影。

 自分の影を睨みつければ、あれを呪い殺せるのではという馬鹿みたいな妄想が頭によぎった。


「よぉ」


 私の小さな影に大きな影が被さる。


「……アイリス?」


 私の背後に立ったのはレッドアイリスだった。

 リリィとハイドランシアの師匠、今会いたい顔ではなかった。

 どうしたの?

 なんでここにいるの?


「ひっでぇ顔だな。泣いたのか?メイクが崩れてるぞ」


 空気を読んで藤堂さんも指摘してこなかったのに……この人はずけずけ言うなぁ。

 それが……なんだか嬉しかった。


「リリィなら病院だよ……」


 この人はリリィのことを知っているのかな?

 いや、知らなくてもいずれ知ることだ。

 この人のチームには藤堂さんの妹がいるんだから。


「リリィのことなら聞いてる。だが用があるのはお前だ」


「私……?」


「そうだ、お前だ。星付き魔法少女ブラッディカメリア」


 わざわざ星付きの称号をつけてアイリスは私を呼ぶ。

 彼女の指が私へ突きつけられた。


「白き一角獣がお呼びだ」


 星付きになった日以来、顔を合わせることのなかった精霊。

 私たち魔法少女の力の根源。

 それが、友を傷つけられたその日に私を呼び出す。

 なんの、用だよ。

 ほっといてよ、そっとしておいてよ。


 だけど事態は待ってくれない。

 ようやく幸せだって思えた日常にヒビが入ったって、誰も止めてはくれない。

 前みたいにただ布団にこもって耐えしのぶことは、もう許されない。

 だって私は星を持った魔法少女だから。




 その日……私の幸せだった日常は、儚くも崩壊した。

幸せのままではいられない運命。

第二部「復讐の造花」開幕です。

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