新しい日常
大変、大変長い間お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。
悲しいこと(詳しくは活動報告)もありましたがそれはそれ。
連載再開します!
やかましい電子音が鳴り響く。
不快で鬱陶しい、だけど私はそれを無視することができない。
なぜなら今日は平日、つまり……学校に行かなきゃってことだから。
目を開く、見慣れた天井、視界の端に金魚鉢の中を泳ぐ赤いシルエットが見える。
視界を遮る寝癖だらけの長髪を揺らし布団から這い出る私は、さながらゾンビのように見えることだろう。
引きこもっていた頃は好きなだけ眠れてよかったなぁ。
虐められる前の優等生な私はどうやって毎日起きていたんだっけ?
遅刻ゼロの模範的優等生だったはずなのに……
もう…………よく思い出せなかった。
「おはよう日向」
「………………はょ」
階段を降りると出勤前の両親が朝食を食べていた。
顔を洗って私も食卓につく。
茶碗に少なめに盛られたご飯に味噌汁、納豆と卵焼き。
朝早いのによく準備すると毎日思う。
前世では朝食は菓子パンが多かったから、こういうキッチリした和食を出されるとなんだか背筋が伸びる思いがする。
「寝癖」
「ぁ……後で整えるから」
母さんに竜巻のようにうねった髪を指摘される。
前は寝癖なんて注意されなかったのに。
グシャグシャな髪に着崩したパジャマで過ごしていても何も言われなかった。
母さんは引きこもりの娘を無理やり矯正しようとはしなかったんだ、ありがたいことにね。
でも学校に通うようになってから、だらしない態度をよく叱られるようになってしまった。
きっとこの人は前の私に戻って欲しいのかもしれない。
覚えめでたい真面目な女学生に……
娘が虐めから立ち直った姿を見て安心したいのかもしれない。
でもそれは難しいんだ…………
かつて抱いていた胸を焼くほどの上昇志向は擦り切れてしまったから。
誰の前でも完璧な優等生を演じるなんて疲れること、もうできないんだ。
「最近は学校どうだ、テスト近いだろ」
父さんが当たり障りのない会話を繰り出してくる。
両親の視線を感じた。
また虐められていないか、そんな心配を感じる。
「大丈夫だよ」
そう答える。
そう、私は大丈夫。
以前の私に戻ることはもうできない。
だけど新しい私だってそんなに悪い子じゃないはずだ。
虐められてなんていないし、クラスで孤立もしていない。
少ないけど……ちゃんと友達もいるし、先生の評判も上々だ。
だから…………大丈夫。
もう……心配しなくていいよ。
私はちゃんと幸せだから。
……………………………
…………………
……
おはよう。
なんてことない言葉だけど、その言葉を発するのは私のような人間には難しい。
なぜって?返事が返ってこなかったら恥ずかしいじゃないか。
陰キャのチキンハートを舐めないで欲しい。
ただでさえ言葉を発するだけで勇気を振り絞らなきゃいけないのに、その勇気が無駄になる可能性があるなど理不尽だ。
だから私は誰よりも早く登校する。
そうして机につき、本を読むふりをするのだ。
こうすれば見てくれは読書に集中している文学少女だ。
私から挨拶しなくても気づかなかったと言い訳ができる。
挨拶をされた時だけ顔を上げ、おはようと返事を返せばいい。
我ながら最適な作戦である。
遅刻もしないで済むのだから一石二鳥だ。
「おはよう」
「あ、おはよう」
今日もそうやって本を読むふりに勤しんでいるとお馴染みの声が聞こえてきた。
眼鏡に朝日が反射してキラリと光る。
私のクラスメイト兼友人であり、尚且つ魔法少女としてのチームメイトでもある藤堂都さんだ。
私がこの学校に転校できたのは彼女という存在によるところが大きい。
知人ゼロの学校で新生活を迎えられるほど私は勇敢じゃない。
転校先に友人がいる、それは私に大いなる安堵をもたらした。
そう、大いなる安堵を。
おまけにお洒落でイケてる(陰キャ最大限の語彙)彼女はスクールカーストの上位に君臨しており、そんな人間の友人枠に収まれるというのは学園生活において安定した地位を獲得したも同然なのだ!(過言)
「ありがたや、ありがたや……」
「なにそれ?いきなりどうしたの」
日々の感謝も込めてここは彼女を拝んでおくとしよう。
怪訝な顔をされたが、ここは愛嬌ということで許していただきたい。
彼女に続いて早朝組がちらほらと姿を見せ始める。
私の友人と呼べそうな人物は藤堂さんの他に2人いる。
でも彼女たちはいつも予鈴ギリギリに登校してくるからまだ姿を見せないだろうな。
読みかけの本のページをめくる。
「なに読んでるの」
「さぁ」
「さぁって何よ、さぁって」
「本屋でおすすめされてたやつ」
「あーね」
藤堂さんは私の読んでいる本のカバーを勝手に外して1人納得している。
魔法少女のチームメイトとしてだけでなく、クラスメイトになってからなんだか遠慮がなくなった気がするなぁ。
前から明け透けな性格だったけど、最近はさらに一歩踏み込んでくるというか。
これが気を使わない関係というやつなのだろうか?
だとしたら嬉しいね。
「ね、ね、ね、これ見て」
今も本を読んでいる私に肩を寄せてスマホの画面を見せつけてくる。
そんなに接近しなくても見えてるよ。
彼女が2人っきりの時そうやって見せてくる内容は大抵魔法少女関連だ。
チームリリィかアコナイトの話だろうと目をやると、案の定先日のチームリリィの活躍を特集した記事だった。
私が星付きの魔法少女になってからこういう風に注目されることが増えた。
魔法騎士の武器を振るう星付きの魔法少女、話題性としては抜群だ。
魔法少女が自身の武具を使うことに関して、黒い獅子から何も声明は出されていない。
魔法騎士と魔法少女を繋ぐ者として、もしくは魔法騎士の武力を盗み取った者として、私の評価は賛否両論だ。
私としては……そっとしておいて欲しいのだけど。
「今最も注目すべきチームだって」
「えぇ……過大評価な気も…………」
私が第13封印都市を解放してから1年弱、魔法少女達の勢力図も変化していた。
ピュアアコナイトとレッドアイリスが最強と謳われた時代から、ピュアアコナイトが星を剥奪されレッドアイリス一強に…………とはならず、今魔法少女を牽引しているのはエヴァーローズという魔法少女だ。
えっと、誰?
正直詳しくは知らない。
ただ私やアイリスと同じく星付きで、アコナイトとアイリスの時代では3位に甘んじていた魔法少女らしい。
最強議論でアイリスがNo. 1なのは当然だけど、やっぱり彼女は醜聞が悪いからなぁ。
というわけで今はエヴァーローズを頂きに、次点でアイリス、その遥か下方……中堅よりちょい上ぐらいにチームリリィがいる。
星付きの魔法少女が在籍しているチームとしては随分低い評価かもしれないけど……私としてはそのくらいが過ごしやすくもあるんだよね。
注目されるのは、なんだか恥ずかしいし。
「そんなことないわよ、私たちはもっとやれるし。今の評価だって私には不服なんだから」
藤堂さんは私とは真逆だ。
憧れの魔法少女に近づきたいという夢を持つ彼女にとっては今の評価ではまだまだ不満なのだろう。
「だから日向も……」
言葉を続けようとしていた藤堂さんが不意に口を噤む。
なんだろうと彼女の視線の先を見ると、少女が2人こちらへ歩いてくるのが見えた。
「おっっっはよ〜〜〜〜!!」
「今日も〜早いねぇ〜お二人さん」
学校の指定を無視して短く改造されたスカート、控えめながらも見る人によっては気づかれるナチュラルなメイクに彩られた明るい顔。
明らかにスクールカースト上位の陽キャ2人組。
「おはよ、今日は珍しく早いじゃない」
「ぉ、おはよー……」
2人は三浦 有里彩さんと豊前 奏さん。
もともと藤堂さんと学友だったらしい。
私が転校する形で藤堂さんのグループに入ってきたわけだけど……藤堂さんは私を知っていても、2人と私は初対面だった。
グループの輪に入れる必要のない転校生。
慣れない環境におどおどするばかりだった私を優しく迎え入れてくれた人たち。
私の……新しい友達。
「当たり前じゃん、今日はヒナちゃんにメイクを教える約束なんだから」
そう言って豊前さんはメイク道具を机にずらりと並べる。
まるで当然のように三浦さんも椅子を移動させて私の左手に座った。
彼女の手にも化粧道具が握られている。
「ぇ、あ……約束なんてしてないよね?」
「なんで?」
いや、なんでって何さ。
「ヒナちゃんは下地がいいんだから、磨かないと損だよ、損!」
「そうそう!」
鼻息荒く主張する女子2人、私はそれに全くついていけない。
化粧って…………
私に?
三浦さんと豊前さんは時々こうやって私に女らしさを求めてくる。
コスメとかファッションとか、恋愛とか。
2人のことは好きだけど、こういった話は苦手。
前世の記憶があるから、女らしく振る舞うのって気後れするんだよね。
まぁもう今世も長いし自分が女性であることは流石に自覚してるけど……
お化粧とかはまだハードルが高いというか…………
「校則違反だから……」
「控えめにすればバレないしー」
「みんなやってるしー」
確かに女子は少なからず化粧をしている。
ませてるなぁとも思うがそこは中学3年生、少女も着飾ることを覚える時期なのだ。
そういう意味では私はちょっと芋臭くて、浮いている。
スカートだって校則通りの丈だしね。
そんな私を仲間に引き入れたいのか。2人はグイグイ詰め寄ってくる。
「ぁ、あの……」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから」
「先っちょだけだから〜」
先っちょってなんだよ!?
三浦さんが私の頭を鷲掴み、豊前さんが化粧道具を私の顔へ接近させる。
もはや逃げ場はない。
私は助けを求めて藤堂さんの方へ目をむけた。
「………………!」
黙ってサムズアップされました……何でだよ!?
可愛い色のリップが私の唇へと押し当てられる。
退路は断たれた、もはや私の魔改造は避けられない運命のようだった。
ガッデム!!
「い・や・だぁぁッ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
私の悲鳴が虚しく校内にこだました。
「お!また出雲が奇声上げてるぞ」
「今日も元気だな〜」
おいクラスメイト、私がいつも奇声を上げているみたいな物言いはよせ。
……………………………
…………………
……
「カメリア」
「分かってる!」
放課後、私は街の上空を駆けていた。
空中に浮かせた金魚を足場に宙を疾走する。
その横には大きな黒い異形。
横目で空を滑空する禿鷲のような深獣を捉えつつ、私は転ばないように慎重に金魚で空の道を作りだしていく。
深獣の鉤爪には男の人がぶら下がっていた。
避難が間に合わなかったのか、私たちが現場に到着した時にはもう攫われていたのだ。
深獣は彼を深淵まで連れ込む気だ。
その魂を取り込み、深淵を成長させるつもりだろう。
そうはさせまいと金魚を放ち、深獣を追尾させる。
黒い化け物が小さな金魚たちに啄まれ煩わしそうに身を揺らした。
金魚たちの浮く速度では禿鷲形の深獣に追いつくことはできない。
すぐに深獣は金魚たちの包囲を離脱した。
だけど、それでいい。
「リリィ!そっち行くよ」
「任せて!」
私はあらかじめリリィが待機していたビルの屋上に深獣を誘導してたに過ぎないから。
白い魔法少女が飛び上がり、深獣の鉤爪を貫く。
甲高い鳴き声。
それをバックにリリィが鉤爪に掴まれていた人を解放する。
「シアちゃん!」
地上から水の鞭がしなり、リリィが救った彼を回収する。
獲物を盗み取られた獣の咆哮、怒り狂った深獣がハイドランシアめがけて急降下した。
鋭い嘴と鉤爪、だけどそれは変幻自在な水によって阻まれる。
防御、その一点においてはミスティハイドランシアに隙はない。
深獣に獲物を取り戻す隙なんてなかった。
そうしているうちに私とリリィが彼女の横に着地する。
深獣とチームリリィが睨み合った。
「カメリア、抜けそう?」
「まだ、足りない」
ハイドランシアが私の腰に下げられた刀を一瞥する。
鞘に収まった刀。
その刀身は黒く染まり、鞘からはその余波が漏れ出ていた。
だけど……まだ足りない。
「おっけ!それじゃいつも通りね」
市民を守るハイドランシアをその場に残し、私とリリィは深獣を取り囲むように散開する。
私たちの戦術は変わった。
昔はハイドランシアが守り、私が障壁を削り、リリィが貫くのが主な戦法だった。
だけどそれは私が刀を手に入れることで変化する。
かつて銀狼の振るった魔法騎士の刀。
それは深淵内においては吸魔の力による無限魔力を宿し、全てを切り裂く。
だが、深淵外ではそうはいかない。
私の魔力では足りず、深獣の魔力を取り込んでようやく一太刀放てる。
大魔力喰いなのだこの刀は。
平気な顔をしてこれを振り回していた銀狼がおかしいのか、それとも刀自体の使用用途が間違っているのか。
ともかく簡単に振れる武器じゃない。
だけど振れば、それは必殺たり得る。
チームリリィの戦術は自ずと私が魔力を吸収するために2人が深獣を足止めするものへと変化していった。
「やぁッ!!」
ハイドランシアが羽根に鞭を巻きつけ禿鷲を宙に縫い止める。
拘束された深獣へリリィの純白の槍が振るわれた。
わざと敵の攻撃範囲で槍を振るうリリィに心配が募る。
だけどこの作戦においてリリィは囮だ、私は黙って金魚を放ち続けるしかない。
金魚により剥がされていく障壁、槍が敵の肉を切り裂き黒い体液が飛び散る。
浅い…………
リリィのその攻撃は深獣をイラつかせるだけだった。
ずっとリリィの槍は鋭いと思っていた、その頼もしい一閃を信頼していた。
だけど私が星付きになりより強大な深獣の討伐を任されるようになってから、その決定力の低さに悩まされるようになった。
リリィの嘆いていたアタッカーとして不完全で、弱いという言葉…………それを思い知った。
チームリリィには圧倒的なパワーのアタッカーも、的確に弱点を貫くシューターもいない。
だからこそ私たちはこんな戦法をとっている、とらざるをえない。
「ッ!」
嘴がリリィの脇腹を掠め、その純白のドレスが裂ける。
すぐに水の鞭がサポートに回るが、背後に人を守っているから全てのリソースをリリィのサポートに回すことはできない。
必死の顔でリリィが槍を振るう。
だけど細い槍では敵の攻撃を捌ききれない。
私もリリィのサポートに回りたい……だけどそれはできない。
この作戦において私は切り札で、この段階で私の脅威を悟られる訳にはいかないから。
早く…………
はやく、はやく、はやくッ………………!!
私の中にゆっくりと吸収した魔力がめぐっていく。
私の思いに呼応するように金魚が激しく蠢いた。
禿鷲が赤い群れに覆われ、たまらず引き剥がそうと暴れ回る。
金魚はまるでピラニアのように獲物の魔力を喰い漁った。
その時。
私の中で何かが満ちた。
充実感。
全能感。
腰の刀の存在感が強く私に訴える。
己を解き放てと。
「……2人とも下がって」
その言葉にリリィとハイドランシアが飛び退く。
私の間合いから2人は瞬時に退避した。
刀を鞘から抜き放つ。
その刀身は黒く、濡れたように輝いていた。
ただ抜いただけなのに、空気が重く……沈んだ。
深獣も何かを感じたのか、水の拘束を無理やり引きちぎって空へと逃げだす。
ちょうどいい。
空に向けて振るう方が周りの被害を気にしなくていいから。
腕の中で暴力の化身が震えた。
じゃじゃ馬め……ッ。
「いくよ……銀狼」
振るうのはたった一太刀。
黒い刃を敵に向かって振り下ろす。
それで……全て終わり。
私の黒く長い髪が風圧によって巻き上がる。
刀を振るった音とは思えない稲妻のような轟音。
黒い斬撃が深獣を割く。
深獣は断末魔を上げる暇すらなく、二つの肉片へと千切れ飛んだ。
斬撃の余波で空に浮かんだ雲に一直線、青空の筋が出来上がる。
「ふぅ……」
視界の先で、黒いドーム状の深淵が主人を失って霧散していくのが見える。
私は息を吐き出すと刀を鞘に戻した。
腕が痺れる。
その破壊性を限界まで抑え込んでも、その刀は圧倒的だった。
やっぱり街中で振るうのは危険すぎる代物だよ……これ。
毎回振るうたび、その威力に震える。
そのくせ振るう前は全能感で危機感が薄れてしまう。
妖刀なんじゃないの……これ?
「やった〜〜〜ッ!」
鞘の中の刀を見下ろして思案していたら、リリィに飛びつかれた。
「今回もカメリアちゃん大活躍、だね!」
「リリィ……傷は大丈夫なの」
チームの勝利に大喜びなのはいいけど、深獣に裂かれた脇腹が心配だった。
裂かれたのはドレスだけじゃなく、その下の肌にも傷がつき、血が滲んでいる。
白いドレスにその赤はひどく目を引いた。
「このくらい大丈夫だよ」
「だ、だ、だ、大丈夫じゃないよ!跡が残っちゃうかもだし……」
慌てふためく私を見てリリィはなんだか嬉しそうだ。
なに笑ってるんだよ…………
「ほら、大丈夫だよーギュー」
「は!????」
なぜかリリィに抱きしめられた。
なんで???
先程とは別の意味で慌てふためく。
私を安心させるようにリリィは私の背中をポンポンと叩く。
ナニコレ?
怪我してるのはリリィのほうなんだけど……
ハイドランシアも助けた人に肩貸してないでちょっとタスケテ。
「いや〜今回も見事な討伐でしたね〜」
そんな私たちを避難していたテレビ局のカメラマンとレポーターが取り囲む。
きっと私たちの戦闘の一部始終もカメラに収めていたのだろう。
だけど今リリィは私を抱きしめていて……ちょっとタイミングを考えて欲しいというか…………
「相変わらず仲がいいですね、その仲の良さも連携力の秘訣でしょうか?」
「その通り、ブイ!」
リリィはノリノリでVサインを作って微笑む。
私はというと彼女の腕の中で茹蛸になったいた。
だって…………これ全国に放映されるんでしょ。
「ぁ……あばぶえぅばばb」
「あ!またバグってる」
終わりです。
私の黒歴史がまた量産されました。
……………………………
…………………
……
「ただいまー……」
結局あの後報道陣の相手をしていたらすっかり暗くなってしまった。
今回は犠牲者がいなかったみたいで良かったけど……人助けしただけでチヤホヤしすぎだとは思う。
世間での魔法少女の見方はちょっと変わったけど……アイドルみたいな扱いは相変わらずだ。
私みたいな人間は自分の様子がテレビで放映されるのはすこぶる苦手なのになぁ。
特に最近頭を悩ますのがリリィのことだった。
魔法少女ホワイトリリィであり私の友達の神崎美佳さん。
最近……彼女との距離がやたらと近くなってしまっている気がする。
スキンシップは当たり前だし、私の方が小さいのをいいことに今日のよう抱きしめられることもある。
私は愛玩動物じゃないのだけど…………
仲のいい女性同士ってこんなにべたべたするものなの?
わ、わかんない。
藤堂さんはあれでパーソナルスペースがしっかりある人だから参考にならないし。
普通ならいいけど今日みたいな場面を報道されてブラッディカメリアとホワイトリリィが特別な関係だって勘違いされたら困るんだよなぁ。
というかもう既に一部界隈では私たち白黒カップリングは人気があるらしいし…………
このままでは神崎さんに迷惑がかかるのでは?
神崎さんに。
神崎さんにッッッ!
そう………………
私自身はそう勘違いされても別に迷惑じゃないんだよね…………
だって私が好きなのは女性だし。
神崎さんはチームメイトとしても、友達としても、いつだって優しくて、明るくて……いつも私に元気をくれる。
だから彼女とそういう関係になっても私としては満更でもないんだよ。
ないんだけど…………
えっと…………
彼女との関係どうしよう?
踏み込むべき?それとも引くべき?
あれは親愛なの……それとも…………
「なにニヤニヤしてるの」
「ぴぎゃぁ!!」
1人悶々としていた私は突然声をかけられ飛び上がる。
声の方を向くと母さんが笑っていた。
「おかえり、日向」
「ぁ、うん……」
いたの。
考えに夢中で母さんがいたのに気づかなかった。
私は赤くなった顔を隠すように長い髪を撫でつける。
だけど母さんはさらに笑みを深めるだけだった。
「な……なに?」
ニヤニヤしないでよね。
「いや、日向が楽しそうで良かったと思ってね」
そう言う母さんの顔は娘の幸せを心から喜ぶ母親の顔だった。
思えば、こんなふうに笑顔で帰宅する娘を見ることができる日常は、この人にとってかけがえのない宝物なのかもしれない。
ようやく取り戻したごく平凡な日常。
「……うん!」
星付きの魔法少女になった、学業も大変で受験勉強も控えている。
大変なことは沢山ある。
だけど今、私は充実した新しい日常を過ごしていた。




