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悪役令嬢 呂布  作者: サクラくだり
第一幕 覇者への道(学園編)1
9/12

月次試験 3

 リーゼラーネは学園の広場に戻された。他には誰もいない。一番乗りだった。

 いつの間にか、広場には大きな看板が立てられている。そこに月次試験の成功者を順番に張り出していくのだ。今は誰の名も掲示されていない。

 その隣にいた試験監督官のノルベックは、彼女を見て怪訝な顔つきをした。そして驚愕のものに変化する。


「リ、リーゼラーネ、戻ってきたのか!?」

「はい。ご覧の通り、青ですわ」


 宝石は青く光っている。課題を成功させたとの証だ。


「いや、だが、あの課題をこなすのはかなりの難度のはず」

「さすが監督官様。試験内容はご存じだったのですね」

「信じられん。ルドガランに聞いたときは……」

「ルドガラン先生がどうかなさいまして?」


 ノルベックは急いで口をつぐんだ。


「なんでもない。で、ではリーゼラーネに月次試験の成功を告げる。一学年の一位だ」


 掲示板にリーゼラーネの名前が張り出された。

 しばらくして、散発的に生徒たちが戻ってきた。青い宝石を首から提げた生徒たちは、自分が一番だと誇らしげだったが、掲示板の名を見て口をあけ、ついで目を見開いていた。


「リーゼラーネが一番!?」

「信じられない……」


 試験を終らせたものたちが、次から次へと掲示板を見ては驚いている。リーゼラーネは王女とはいえ八番目。上には七人もの姉がいる。どうあっても将来の目はないと思われていた。

 しかも魔術の成績が悪い。連合王国では魔術の技量、力に優れたものが高い地位を得る。これは男女問わない。なので聖メイリナ学園の試験は魔術を主軸としているのだ。

 その試験で、リーゼラーネが最速だったのである。生徒も教師も、今日が行く以外のなにものでもなかった。

 クイラリーとヒルドラックも帰ってくる。生徒たちは二人に群がった。


「おい知ってるか、今回の試験、リーゼラーネが一番だぞ!」


 男子生徒が早口で言う。当り前だがヒルドラックは驚いていなかった。


「当然だろうな」

「もしかして見ていたのか!?」

「まあな」

「知っていたよ。あの娘優秀だからね」


 ヒルドラックとクイラリーはうなずく。生徒たちは口々に、どんなやり方で課題をこなしていたのか教えて欲しいと言っていたが、二人は答えなかった。

 そこにリーゼラーネが近づく。


「秘密にしていただいて、ありがとうございます」


 ヒルドラックは素っ気ない返事をする。


「喋っても信用されないからだ」

「通訳すると、さっきの約束は守るってこと。特に女の子の秘密はね」


 横から口を出したクイラリーを、ヒルドラックはひと睨みする。それから言った。


「この時期にあのような対戦型の試験は早すぎる。やはりレンネーアがルドガラン先生に圧力をかけたか」

「そういうのは得意ですからね、あの娘は」

「学園に相応しくない。生徒会で取り上げる」

「お待ちください」


 リーゼラーネは制した。


「どうやらルドガラン先生だけではなく、ノルベック先生にも手を回していたみたいです。これではどれだけの先生方がわたくしを害そうとしているのか分かりません」

「我々生徒会は圧力とは無縁だ」

「先生方と対立することになるかもしれません。まだこの件はご内密にお願いしますわ」

「リーゼラーネが言うのなら構わないが」


 ヒルドラックは一瞬不満そうな素振りを見せたが、すぐ心の奥底に隠した。一学年の学年長だけあって、自制心も人並み以上のものがあった。

 クイラリーは「生徒会全員で力を合わせてなんとかしよう」と言っていたが、ヒルドラックになだめられる。さすがにリーゼラーネも申し訳ない気分になった。


「お二人にはご迷惑をおかけしています。その、いずれの話ですが……」


 リーゼラーネは視線を宙に彷徨わせる。二人は分からなかったが、頭の中と会話していた。


「……お礼としてわたくしの臣下にいたします。優秀なお二人なら張遼、高順がごとく我が両翼として……ちょっと呂布様、勝手なことを言わないで下さいまし……あの、お二人とも、これは将来のことで……えっ、いますぐ!? それはあまりにも急な……」


 二人は顔を見合わせていた。クイラリーが怪訝そうになる。


「やっぱりあれだけの戦いをする王女は、ちょっと変なんだ」

「失礼だぞ」

「僕も見えない誰かと会話すれば、スケルトンの大軍に勝てるようになるかも」

「失礼だと言ってるだろう」


 たしなめるヒルドラック。リーゼラーネは「呂布様、お静かに!」と言い、作り笑いをした。


「どうぞお気になさらないで。わたくし、お先に失礼いたしますわ」


 なにか言われるまえに、二人の前を辞した。

 月次試験は日の入りが課題終了時刻だが、それまでに終えたものは自室に戻っていいことになっている。リーゼラーネは目的のところへと早足で歩いた。

 広場から十分離れてから、呂布と会話を再開する。


(あまり口出しなさらないでください。お二人に変に思われましたわ)

(おれの臣下には、これくらいで動揺しない胆力が必要だ)

(もう……。それで、どんな用があるのですか)

(武器が必要だ。スケルトンと戦ったときに槍が壊れた。もっと丈夫なのがいる)

(学園に魔術以外の武器となるものはほとんどありませんわ)

(なにかあるだろう。およそ軍の存在しない国はない。軍なら武器がある)

(と言われましても……あ)


 リーゼラーネの頭に閃くものがあった。


(心当たりがごさいますわ)


 彼女は呂布に聞き返される前に、宿舎の中へ入っていった。

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