表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢 呂布  作者: サクラくだり
第一幕 覇者への道(学園編)1
8/12

月次試験 2

7/20に内容を大幅に変更しました。以前の内容をご覧になった方は、「第4部分 王女と貴族騎士」から読み直してくれるようお願いいたします。

 三国志演義における呂布の見せ場の一つに、劉備、関羽、張飛を向こうに回して一歩も引かなかったというのがある。武勇の高さを表わすのにふさわしいエピソードだ。

 この世界の呂布は少女の姿を借りている。だが力は以前より勝るとも劣らなかった。

 膨大な数のスケルトンのが押し寄せてくる。だが呂布が槍を薙ぐたびに、粉々になって散っていった。


「どうした! この程度では気晴らしにもならんぞ!」


 目は輝き、振るえば振るうほど槍の穂先は鋭さを増す。簡素でどこにでもある一般的な武器だが、呂布が使うことによって名刀にも勝る破壊力を得ていた。


 レンネーアは当初、余裕の表情で戦いを見つめていた。だが召喚した多くのスケルトンが砕けていくにつれ、顔は青ざめ、身体には震えが生じはじめた。


「かかりなさい、かかりなさい!」


 スケルトンに命じる。恐怖を知らない存在は、武器を手に躍りかかる。それでも呂布がひと薙ぎするたびに敗北していった。盾を持っているが、何の役にもたっていない。

 レンネーアは二千体という膨大な数を召喚していたが、見る見るうちに数を減らしていった。

 前方に出ていた彼女だったが、スケルトンを盾にしつつ足を滑らせながら後ろに下がっていく。

 何度もワンドを振るが、十数体のスケルトンが出現したが、それで終わりだった。魔術は使えば使うほど精神力を消耗する。これ以上の召喚はしたくてもできなかった。


「ミ、ミレイユ……!」


 声が上ずっている。


「私を救いなさい! あなたも召喚するのです!」

「む、無理ですレンネーア様! 私のような身分のものは魔術を学ぶことを許されてなくて……!」

「それでも私の侍女なの!」


 理不尽極まりないが、それだけ彼女は恐怖していた。

 呂布の力を得たリーゼラーネの目は爛々と輝き、槍の威力はさらに増している。すでに千体以上のスケルトンを倒していた。槍はついに折れたものの、スケルトンの手から奪い、また攻撃する。

 彼女は疲れを見せなかった。そして全身は歓喜に包まれていた。


「この程度か! 烏桓の方がよほど歯ごたえがあったぞ!」


 バラバラになった骨が宙を飛び、消えていく。レンネーアは自分を中心に何体ものスケルトンを盾代わりにしていたが、呂布の穂先はあっという間に迫った。


「そこか!」


 槍の穂先が右から左、左から右へと薙ぐ。スケルトン最後の一体が粉々になった。

 そしてレンネーアとミレイユだけが残された。


「あ……あ……」


 レンネーアは恐怖で身体が動かない。槍が喉元に突きつけられる。


「ゴールドとやらも大したことないな。所詮、魔術などというのはお遊びだ」

「そん……な……」

「その首を切り落として城門に掲げてもいいが、訊きたいことがある」


 呂布は槍の穂先をレンネーアの喉元に食い込ませた。


「おれ……リーゼラーネをさらい、ならず者に殺させようとしたのは誰だ」

「え……ええ……?」

「おれを害そうとしているのは誰かと聞いている」


 呂布は手加減をしない。死ななければいいのだとばかり、喉の皮膚を傷つけた。

 レンネーアが悲鳴を上げる。


「やめて、やめて!」

「早く答えろ」

「知りません、本当です!」

「知らないのなら生かしておくことはないな」

「私に袋が届いたのです! 中の手紙をリーゼラーネの部屋に置くだけで、将来の栄光が約束されると! 第六王女ではなく、第一王女になることも夢ではなくなると書いてありました!」

「おれは第八王女だ。わざわざ手出しするまでもないだろう」

「それはそうなのですが……理由はは知りません……」

「その手紙はどうした」

「燃やせと書いてあったから燃やしました……」


 呂布は「ふん」と言うと、少しだけ力を緩めた。


「つまりお前も誰かに操られていたということか。ならば命じよう。またお前に誰かが接触してきたのなら、すぐおれに知らせろ。いっさいのつまらん謀はなしだ。ただおれにのみ従え」

「第六王女の私が……」

「元第六王女にしてもいいぞ」

「……わ、分かりました!」


 槍を引く。極度の緊張から解放され、レンネーアが地面に倒れた。リーゼラーネは隣のミレイユに目をやる。


「この女を連れて行け。今日のことは他言無用だ」


 ミレイユは無言で、何度もうなずいた。

 二人の元から離れる。クイラリーとヒルドラックがぽかんとしていた。


「いや……君ってずいぶん強いんだね」


 クイラリーが呆れたように言う。


「魔術を使わないのにこんなに戦えるなんて、はじめて見た」

「黄巾の大軍に比べれば、あんなのは雑魚だ」

「なんだか声も態度も男らしいし、君本当に王女なの? 別人じゃなくて」


 無邪気な質問だったが、リーゼラーネが慌てた。


(ちょっと呂布様、わたくしに代わってくださいませ)

(なにを急いでいる)

(疑われたら大変ですわ)

(今さらいいだろう。なんならこいつらの口も封じるか)

(代わってください!)


 数回まばたきをする。リーゼラーネに戻った。

 彼女は男子生徒二人に微笑んだ。


「お見苦しいところをお目にかけましたわ」

「レンネーア嬢となにか話していたみたいだが……」


 ヒルドラックの疑問ににこりとする。


「ただの会話です。わたくしの姉ですから」

「仲が悪いのではないのか」

「姉妹はそういうものですわ」


 強引に話を終らせる。すると胸元の宝石が青に変化し、足元の地面が輝いた。


「あら……課題を終らせたので学園に戻るみたいですわね」

「僕とヒルドラックはまだみたいだ。もっと周囲を探索してみるよ」


 クイラリーの言葉も遠くからのように聞こえる。リーゼラーネはスカートを摘まんで頭を下げた。


「ごきげんよう。ここであったことはどうぞご内密に」

「スケルトンの大軍を槍一本で殲滅したなんて、誰も信じないよ」

「忘れてくださいまし」


 リーゼラーネは荒野から消え、次の瞬間には聖メイリナ学園に戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ