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悪役令嬢 呂布  作者: サクラくだり
第一幕 覇者への道(学園編)1
6/12

契約魔術の儀

7/20に内容を大幅に変更しました。以前の内容をご覧になった方は、「第4部分 王女と貴族騎士」から読み直してくれるようお願いいたします。

 午後になり、一学年の生徒たちは全員広場に集合した。

 聖メイリナ学園の敷地中央には、石畳の大きな広場がある。学園創始者の東王ネーランクは、自らの手で広間中央に杭を打ったという。

 その中央部にはルドガランが立ち、後方に槍を持った兵士たちが並ぶ。これには儀式的以上の意味はないため、兵たちは退屈そうにしていた。

 ルドガランから少し離れた場所には生徒たちが整列していた。


「これより契約魔術の儀をとりおこなう」


 ルドガランは一学年の生徒たちを見回しながら言った。


「魔術は連合王国の基礎であり全てである。強力な魔術を我がものとし、生涯両王に尽くすよう努力せよ」


 生徒たちは背筋を伸ばしたまま聞いている。さすがに緊張感が漂っていた。

 ルドガランは広間の中央に円を描いた。さらに複雑な文様を描き入れる。魔方陣だと生徒の一人が呟いた。


「でははじめよう。ヒルドラック・ファルケンハイン」

「はい」


 ヒルドラックが進み出る。魔方陣の中央に立った。片腕を天に掲げた。


「天界の神々よ、現世を律する偉大なる精霊よ、我が手に魔術と、強大なるワンドをこの手に授けたまえ」


 魔方陣が光る。同時に空から一条の輝きが降りてきて、ヒルドラックを包み込んだ。あまりの眩しさに全員眼をつむる。

 輝きはほんの一瞬で終わる。皆が目を開けたとき、ヒルドラックの手にはワンドが握られていた。

 ワンドは腕の長さよりやや短く、先端には親指ほどの鉱物が嵌め込まれていた。


「おおっ」


 鉱物を見たルドガランの顔が驚愕に満ちた。


「これは白金プラチナ! 精霊たちはヒルドラックにプラチナ級の魔術を授けられた!」


 生徒たちもざわめいている。先ほどの緊張を忘れたかのように、目の前の出来事に目を奪われていた。

 リーゼラーネの頭の中では、呂布が不思議そうにしていた。


(プラチナ……?)

(魔術はワンドの先端にある鉱物によって威力が決まります。プラチナは最大級の魔術で、学園でも数名しかいません)

(他にもあるのか)

(上からプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズとなっています。大半がシルバーとブロンズですわね)


 ルドガランは静まるようにと手を振る。次の生徒を呼び出した。


「クイラリー・フランベルク」


 ヒルドラックが列に戻り、クイラリーが中央に進み出る。やはり腕を天に掲げ、口上を述べた。

 魔方陣が光、天空から光が注がれる。

 クイラリーの手にもワンドが出現する。その先端も、やはの白金プラチナが埋め込まれていた。


「また一人、プラチナ級の魔術が授けられた! 一学年に二人とは、学園はじまって以来のことだ!」


 先ほどよりも大きなざわめきがあたりを包んだ。退屈そうにしていた兵士たちも目を剥き、騒ぎをたしなめるものはいない。

 クイラリーは満足そうにプラチナを撫でると、サーベルとは反対側の腰にワンドを差した。


(ほう。あの二人の自信は嘘ではなかったのだな)

(一学年でもっとも成績がいいのはお二人だと、皆分かっておりましたから)


 ルドガランはざわめきを静めることを諦め、生徒を矢継ぎ早に呼び出した。全員同じように魔方陣の中央に立ち、口上を述べる。

 そのたびに光が注がれた。さすがに白金プラチナはもう出現しなかったが、ゴールドは数名いた。

 レンネーアも契約魔術の儀をおこなう。彼女は薄く笑うと、リーゼラーネにワンドを見せびらかす。先端にはゴールドがついていた。


(あの女は魔術の実力があるのか)

(そろそろわたくしの番ですわ。たいした魔術は得られないでしょう)

(なにも拘る必要は無かろう。身体を借りるぞ)


 リーゼラーネが聞き返す間もなく、呂布は身体を操って前に進み出た。

 ルドガランがちらりと目を向ける。期待感のない視線だった。そもそもリーゼラーネはこれまで魔術の成績が良くなく、基礎すらおぼつかないと見られていた。


「リーゼラーネ。天空に言を述べよ」

「いらん」


 呂布は少女の声で言った。

 あり得ない台詞に、広場にいる全員が、ぽかんと口を開ける。しばらくの沈黙の後、ようやくルドガランが喋る。


「……なんと申した」

「そのようなものにおれは頼らない」

「魔術でなければ、どのようにして月次試験をこなそうというのだ」

「必要なのは己自身。そして武器だ」


 後方の兵のところへ向かった。一人の手から槍を奪う。


「もらうぞ」


 二、三度振った。風邪を切る音が響く。


「これでいい。魔術の代わりに使うとしよう。名のある武器ではないが、十分使える」

「な、な、な、なにをしている!」


 我に返ったルドガランが叫んだ。


「契約魔術の儀をなんと心得る!」

「残念ながらおれは出来が悪い」


 リーゼラーネが頭の中で「余計なことを言わないで下さいまし」と文句を言った。


「だが武器ならいささかの覚えがある。魔術などには頼らない。月次試験とやらもこれを使う」

「愚かなことを。槍で月次試験をこなせると思うか」

「思う」


 呂布はあっさりと言い返す。


「聞く限り、月次試験はたいしたものではなさそうだからな」

「第八王女とあろうものが侮辱するのか」

「第一王女だろうと同じことを言った」


 生徒たちは仰天して声も出ない。食堂での一件にも驚かされたが、今度は学年主任のルドガランに逆らったのである。

 リーゼラーネの態度は不遜であり、明らかにルドガランを下に見ている。少女の姿なのに歴戦の武将のような雰囲気を醸し出していた。今は呂布が操っているのだから当り前で、血の匂いすら感じさせた。


「……な、ならば、その槍のみで月次試験を受けてみよ」


 ルドガランが怒りと恐怖を押し殺しながら告げる。


「今後、第八王女リーゼラーネはいっさいの魔術使用を禁じる。全ての魔術資格も得ることはできない。授業の出席は認めるが、実技は見学のみとする」

「かまわん」


 槍の柄で肩をとんとん叩く。


「そうでないと歯ごたえがない」

「今さら撤回も謝罪も聞かんぞ」

「どちらもおれには縁のない詞だ」


 顔を真っ赤にしたルドガランが二、三度口をぱくぱくさせた。それから「契約魔術の儀はこれで終了!」と絶叫する。聞いた生徒たちはしばらくどうしたものかと佇んでいたが、やがて三々五々散っていった。

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