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悪役令嬢 呂布  作者: サクラくだり
第一幕 覇者への道(学園編)1
10/12

方天画戟 1

(ここは誰の部屋だ?)

(入ってみれば分かりますわ)


 リーゼラーネはなにも言わずに扉を開ける。中にいた人物が飛び上がった。


「なななななんですか!?」

「こんにちは、レンネーア」


 レンネーアの部屋だった。リーゼラーネは、今日初めて会ったかのように挨拶した。

 室内は豪奢であり、リーゼラーネの居室より三倍は広い。隣室への扉もあって、そこにミレイユが控えていた。


「で、出ていってください!」

「頼みがあります」


 抗議するレンネーアのことは無視した。部屋の隅に置いてある。クッションを引っ張り、座る。


「武器の調達をお願いしますわ」

「……はい?」

「スケルトンと戦ったときの槍は壊れてしまいましたの。もっと頑丈なのがいいですわ」

「ど、どうして私に……」

「あなたのお母様は大商人でしょう。立派な武器を手に入れることもできるはずです」


 頭の中の呂布と会話をする。軽くうなずいてから言った。


「槍に似た頑丈な武器が必要です。戟というのですが、なければ製作をお願いします。穂先は鋼鉄にして摩耗しないように。それから穂先の下に三日月型の刃を二本、取りつけてください。柄の部分は分割可能にしてもらえるとありがたいですわ。自室に持ち込めませんから」


 もう一度、呂布と話をした。


「……これを方天画戟ほうてんがげきと名付けます。すぐの納品が必要です」

「わっ……私に召使いの買い出しをやれと言うの!?」

「それくらいできますわよね」


 じっと見つめる。

 当初は見つめ返していたレンネーアだったが、耐えられなくなったか目をそらした。


「分かりました……」

「ありがとうございます。素直なお姉様は大好きですわ」


 リーゼラーネは可愛らしく微笑んだ。


「本当なら馬も欲しいのですが」

「う、馬!?」

「そこまで贅沢は申しませんわ。いずれお姉様の手を借りるかもしれません」


 立ち上がる。クッションを元の場所に戻し、優雅に腰を折った。


「よろしくお願いいたします。ごきげんよう」


 有無を言わせないまま、リーゼラーネは立ち去った。


◇   ◇


 リーゼラーネが部屋を出て行っても、レンネーアはしばらくなにもできなかった。

 足音が十分遠ざかったころ、恐る恐る隣室の扉が開く。ミレイユが出てきた。


「レンネーア様……」

「ミレイユ、聞いてました!?」


 怒ったような口調なのは、恐怖心を隠すためだ。ミレイユも分かっているので首をすくめていた。


「私に武器を持ってこいと言いました! お母様に頼めと。この私に!」

「言うとおりになさるのですか……?」

「……仕方ありません。あの女の力を見たでしょう。普通の手段ではとても太刀打ちできません」


 悔しそうに顔を歪めている。どうにもできないもどかしさが、彼女を支配していた。


「せいぜい調達を送らせたいところですが……リーゼラーネは許しはしないでしょう。ああ、私はなんて不幸なのでしょう。私がなにをしたというのでしょうか」


 顔を覆って泣き崩れた。ミレイユは近づいたものの、なにかするでもなく、ただ眺めていた。


「……レンネーア様。お母上にはどのようにお知らせしましょうか」

「あなたが手紙を書いて」

「は? いえ、構いませんが」

「文面は任せます。先ほどリーゼラーネが言ってたとおりのものを取り寄せなさい」

「レンネーア様はどうなさいますか」

「私は二度と、あの女と顔を合わせたくありません……」


 彼女はそう言うと、ふらふらとベッドに倒れ込んだ。ミレイユはその様子を見た後、無言で部屋から出ていった。


 ミレイユは手に何も持っていなかった。レンネーアに命じられた手紙を書くこともせず、人目を避けるように宿舎を出ると、裏手の森へと歩いて行った。

 聖メイリナ学園の敷地内には森がある。下生えも手入れがされているため歩きやすい。それでも彼女は枝を踏んだりしないよう、慎重な足取りで進んで行く。

 ある程度森に入ると、足を止めて大木の陰に身を潜ませる。そして懐から、中指ほどの長さしかない細い木の枝を取り出した。

 摘まむと、空中を動かす。軌道が線となり、魔方陣を形成した。

 侍女は魔術が使えないことになっている。主人を上回る力は持てないのだ。だがミレイユは苦も無く魔術を使用していた。

 魔方陣に語りかける。


「リーゼラーネはレンネーアを通じて、武器を得ようとしています」


 自らの主人を呼び捨てにするなど、レンネーアが見たら目を剥くだろう。しかしミレイユはあたかも当然のような語り口だった。


「すでにレンネーアは心を折られており、役に立ちそうにありません。どのように処理しましょうか」


 魔方陣がたわむ。音声を発していた。


「かしこまりました。当面はこのままでよろしいのですね。武器の調達もおこないます」


 再び魔方陣がたわみ、なにごとかを告げた。

 ミレイユの頬がわずかに染まる。


「過分なお言葉、もったいなく存じます。全てはご主人様のご指示通りに」


 魔方陣が消える。ミレイユは木の枝を懐に隠し、今度は手紙を書くべく自室へ引き揚げていった。

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