方天画戟 1
(ここは誰の部屋だ?)
(入ってみれば分かりますわ)
リーゼラーネはなにも言わずに扉を開ける。中にいた人物が飛び上がった。
「なななななんですか!?」
「こんにちは、レンネーア」
レンネーアの部屋だった。リーゼラーネは、今日初めて会ったかのように挨拶した。
室内は豪奢であり、リーゼラーネの居室より三倍は広い。隣室への扉もあって、そこにミレイユが控えていた。
「で、出ていってください!」
「頼みがあります」
抗議するレンネーアのことは無視した。部屋の隅に置いてある。クッションを引っ張り、座る。
「武器の調達をお願いしますわ」
「……はい?」
「スケルトンと戦ったときの槍は壊れてしまいましたの。もっと頑丈なのがいいですわ」
「ど、どうして私に……」
「あなたのお母様は大商人でしょう。立派な武器を手に入れることもできるはずです」
頭の中の呂布と会話をする。軽くうなずいてから言った。
「槍に似た頑丈な武器が必要です。戟というのですが、なければ製作をお願いします。穂先は鋼鉄にして摩耗しないように。それから穂先の下に三日月型の刃を二本、取りつけてください。柄の部分は分割可能にしてもらえるとありがたいですわ。自室に持ち込めませんから」
もう一度、呂布と話をした。
「……これを方天画戟と名付けます。すぐの納品が必要です」
「わっ……私に召使いの買い出しをやれと言うの!?」
「それくらいできますわよね」
じっと見つめる。
当初は見つめ返していたレンネーアだったが、耐えられなくなったか目をそらした。
「分かりました……」
「ありがとうございます。素直なお姉様は大好きですわ」
リーゼラーネは可愛らしく微笑んだ。
「本当なら馬も欲しいのですが」
「う、馬!?」
「そこまで贅沢は申しませんわ。いずれお姉様の手を借りるかもしれません」
立ち上がる。クッションを元の場所に戻し、優雅に腰を折った。
「よろしくお願いいたします。ごきげんよう」
有無を言わせないまま、リーゼラーネは立ち去った。
◇ ◇
リーゼラーネが部屋を出て行っても、レンネーアはしばらくなにもできなかった。
足音が十分遠ざかったころ、恐る恐る隣室の扉が開く。ミレイユが出てきた。
「レンネーア様……」
「ミレイユ、聞いてました!?」
怒ったような口調なのは、恐怖心を隠すためだ。ミレイユも分かっているので首をすくめていた。
「私に武器を持ってこいと言いました! お母様に頼めと。この私に!」
「言うとおりになさるのですか……?」
「……仕方ありません。あの女の力を見たでしょう。普通の手段ではとても太刀打ちできません」
悔しそうに顔を歪めている。どうにもできないもどかしさが、彼女を支配していた。
「せいぜい調達を送らせたいところですが……リーゼラーネは許しはしないでしょう。ああ、私はなんて不幸なのでしょう。私がなにをしたというのでしょうか」
顔を覆って泣き崩れた。ミレイユは近づいたものの、なにかするでもなく、ただ眺めていた。
「……レンネーア様。お母上にはどのようにお知らせしましょうか」
「あなたが手紙を書いて」
「は? いえ、構いませんが」
「文面は任せます。先ほどリーゼラーネが言ってたとおりのものを取り寄せなさい」
「レンネーア様はどうなさいますか」
「私は二度と、あの女と顔を合わせたくありません……」
彼女はそう言うと、ふらふらとベッドに倒れ込んだ。ミレイユはその様子を見た後、無言で部屋から出ていった。
ミレイユは手に何も持っていなかった。レンネーアに命じられた手紙を書くこともせず、人目を避けるように宿舎を出ると、裏手の森へと歩いて行った。
聖メイリナ学園の敷地内には森がある。下生えも手入れがされているため歩きやすい。それでも彼女は枝を踏んだりしないよう、慎重な足取りで進んで行く。
ある程度森に入ると、足を止めて大木の陰に身を潜ませる。そして懐から、中指ほどの長さしかない細い木の枝を取り出した。
摘まむと、空中を動かす。軌道が線となり、魔方陣を形成した。
侍女は魔術が使えないことになっている。主人を上回る力は持てないのだ。だがミレイユは苦も無く魔術を使用していた。
魔方陣に語りかける。
「リーゼラーネはレンネーアを通じて、武器を得ようとしています」
自らの主人を呼び捨てにするなど、レンネーアが見たら目を剥くだろう。しかしミレイユはあたかも当然のような語り口だった。
「すでにレンネーアは心を折られており、役に立ちそうにありません。どのように処理しましょうか」
魔方陣がたわむ。音声を発していた。
「かしこまりました。当面はこのままでよろしいのですね。武器の調達もおこないます」
再び魔方陣がたわみ、なにごとかを告げた。
ミレイユの頬がわずかに染まる。
「過分なお言葉、もったいなく存じます。全てはご主人様のご指示通りに」
魔方陣が消える。ミレイユは木の枝を懐に隠し、今度は手紙を書くべく自室へ引き揚げていった。




