友人が「隣のクラスの女子がお前にドッキリ仕掛けてるぞ」というので、とりあえず適当に流してみた
「おい、隣のクラスで女子達がお前にドッキリを仕掛けるみたいだぞ?」
薄ら笑いの友人に、怪訝な顔を返す。
何かといじられキャラな俺だが、そんな面倒な事はごめんだ。
「アホ臭さ。帰るわ」
放課後のクラスを足早に抜け出そうと廊下に出ると、俺を待ち構えていたかのように、隣のクラスの女子が一人、鞄を持って立っていた。
「あ、あの……」
大人しそうな小柄の女子。
これは罰ゲームに近いドッキリ告白というやつだろう。きっとこの子はジャンケンに負けたに違いない。可愛そうに……。
「ん、なに?」
とりあえず適当に返事をする。早く終わらせて帰りたい気持ちを全面に押し出した素っ気ない挨拶だ。
「あ、あなたの事が……す、す、好きです!」
顔中を真っ赤にして、女の子が俯いた。
はい、ご苦労さん。と、肩を叩いてやりたいくらいだ。
「あ、そう。じゃ、帰るから」
「えっ!? あ、あの──!」
慌てる女の子をさて置き、そそくさと歩を進める。
思っていた反応と違うからだろうか。妙に必死だ。
だが、そこまで悪ふざけに付き合う気にはなれない。
悪いが帰る。早く帰ってお菓子でも買ってゲームがしたいんだ。
「よう」
昇降口で隣のクラスの神林さくらに声を掛けられた。
サバサバとした強気の適当女で、平気で俺にとんでもないイタズラを仕掛けてくる迷惑人だ。
だが不思議と気が合うのか、たまに二人で遊んだりもする仲でもある。
「よう」
同じ返事で返す。
靴を履き替え、下駄箱を閉める。
「スキデス ツキアッテクダサイ」
「ひっでぇ片言だなおい! もうちょっとやる気を出せよ」
その罠に仕掛ける気が微塵も感じられないドッキリに、思わず吹き出してしまった。
さくらのこういう所は、逆に清々しく思えて好感が持てる。
「汝、健やかなるときも病めるときも、最愛の妻さくらを愛することを誓いますかー?」
「はいはい、誓いますよ誓いますよ」
アホ面かまして問い掛けるさくらの顔に、俺はデコピンをお見舞いした。
「じゃあ帰りにドーナツ買ってこうな! もち彼ピッピッピッピッピッピッの驕りだぞ?」
「ピが多いな! ちくしょう最初からそれが狙いだな!? ったくしゃーねぇな。じゃあその後俺の家でゲームしようぜ?」
「うん」
辺りを見渡し、さくらが俺の腕にしがみ付いてきた。
「おわっ! なんだ急に!?」
「へへっ、別にいいじゃねぇか」
随分とご機嫌なさくら。ドーナツが食えるのが余程嬉しいようだ。
「アイツには悪いけどさ、コイツに関しては駆け引きアリの真剣勝負だから、よ」
「ん? なんか言ったか?」
「なーんも。早くドーナツ行こうぜ! アレ食いたいな、チョコ抹茶茶茶茶茶茶シフォンドーナツ」
「茶が多いな!」
「あ、それより昼間の弁当どうだった?」
「ん? ピンク色のフワフワでご飯に【愛してる】って書いてあったが……あれ姉ちゃんにしては手が込んでたぞ?」
「あの弁当校長の」
「ハァ!?」
「わり、すり替えた」
「校長夫婦アツアツだなおい!」
そして、ドーナツを買って家に着いた後のことはあまり覚えていない。一線をスーパージャンプで飛び越えて天井に頭を打って気絶でもしたのだろう。
──五年後。俺とさくらの結婚式で、友人とその時の話になった。
さくらの告白にはドッキリしたが、まさか最初の子はガチだったとはなぁ……。
「いやいや、あれ一つ下の人気の子だぞ。よく男子から刺されなかったな」
「知るかよ。年下には興味ないしな」
「いやあ、まさかあの日からさくらと付き合って結婚までするとはなぁ」
「ひょうたんからゴミってやつだな。素敵なレディを貰って感謝しろよ~?」
「お前はひょうたんを大切にしろ」
きっつきつのウェディングドレス姿のさくらにデコピンを一つお見舞い。そしてキスをした。
奴には俺とさくらのイチャつき写真がデカデカとプリントされた夫婦皿を送り付けてやるとして、因みに最初に告白してきた女子は、その後アナウンサーになってラグビー選手と結婚したらしい。三人の子ども達に囲まれ、幸せに暮らしているみたいだ。
「あなた」
「ん? ああ、少しアルバムを整理してたんだ」
懐かしい写真をめくると、学生時代の思い出が沢山と蘇る。どれもがさくらと一緒だ。
「ご飯出来たよ?」
「おっ、今日は何かなー?」
「お隣さんから貰ったレンチンチンチンチンチンチンパスタ」
「チンが多いな!」
「30分やったら爆発した」
「だろうな!」
言うまでも無く、俺は今幸せだ。
夢か幻かドッキリか。たまに疑わしくなる時もあるが、これが現実であることに、俺はとても感謝している。