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声劇台本 オールスターズ

天才小説家の秘密

作者: 鎌瀬 狗

よろしくお願いします。

火華内(かけない)先生:不問 天才小説作家


田井中(たいなか) :♂ 出版社の社員



舞台:火華内先生の家


先生は小説に向かって小説を書いている。

田井中はその後ろのソファで座って待っている。

ーーーーーーーーーーーーーーーー


先生「すみませんね、待たせてしまって」


田井中「いえ、全然構いませんよ。それにしても火華内(かけない)先生がもう少し待ってくれ、なんて珍しいですね」


先生「今は大体8割程完成しているのですが……残りの2割がどうしても書けなくて」


田井中「2割ですか?」


先生「そう。その2割がピッタリとハマればお渡しできるんです」


田井中「では、その2割が完成するまでここで待っていても大丈夫でしょうか?」


先生「えぇ、構いませんよ。でも、ここでずーっと待っているのも退屈でしょう」


田井中「そんなことありませんよ、先生の仕事ぶりが間近で見られますからこんな光栄なことはありませんからね」


先生「いやいや、そんな大層なことはしていませんから。

……そうだ!キミ、なにか作品を書いてみるといい」


田井中「え、いや、そんな急に無茶言わないで下さいよ」


先生「確か……キミの名前は星宮くんだったかな?」


田井中「いえ、自分は田井中と申します。星宮は確か前々任だったかと思いますよ」


先生「そうだ田井中くんでしたね。名前覚えが悪くてすみません。それで、君もこういう仕事をしているという事は、少なからず小説家に憧れてこの業界に入った……違いますか?」


田井中「そうですね、先生のような小説家になりたくて目指してたんですけど……文才が無かったんでしょうね。夢も半ば諦めて、でも小説とは関わりたくて、出版社に入社したんです」


先生「なるほど。関わりたいと想う気持ちはひしひしと伝わってきていますよ」


田井中「……あっ、すみません変な話を」


先生「いえいえ、良いお話が聞けてよかったです。私も、身が引き締まりますよ。


……だけど、尚更だ。


尚更、田井中くんには小説を書いてもらいたい。よければ息抜きに、私が見てさしあげますよ」」


田井中「そんな、火華内(かけない)先生のお手を煩わせるのは」


先生「きっと私以上に沢山の作品を読んできたはずだ。そんなキミから産まれるような大作を、私は読んでみたいんですよ」


田井中「……おぉ。そこまで先生が仰って下さるなら!


よーし!頑張っちゃうぞ!」


先生「原稿用紙はそちらにありますから特別に、好きなだけ使ってください」


田井中「あれ?これって……」


先生「おや、気づきましたか」


田井中「先生の名前が書いてありますね」


先生「特別感があっていいでしょう。その原稿用紙は私のお気に入りなんです」


田井中「うっ、気合いを入れた矢先書きづらく……」


先生「それは失礼しました。

……ささっ、どうぞ。私はお茶でも入れてきますね」



田井中「うーん、どんな作品にしようかな……。

夜も更けて26時……あ、いや、都内某所のとあるコンビニ、バイトの男は……あぁ、そうだ!バーの店員が実は……うーん」


先生「だいぶ、悩まれているようですね」


田井中「それはもう勿論。そうだ先生、作品を書くコツを教えてくれませんか?」


先生「作品を書くコツですか?

そうですね、そんなものがあれば私が教えて欲しいくらいですが」


田井中「ご冗談でしょう?」


先生「そうくると思っていましたよ。

そうですね、強いて言うなれば書き続けることです」


田井中「書き続けることですか?」


先生「はい、書き続けることです」


田井中「あの、先生の中で完結してしまって……その、よく分からないと言いますか、言わんとしていることは分かるんです。ふわっとしているというかなんというか」


先生「すみません、文字に起こすことはできるんですが何分言葉にするのは苦手でして、私の仕事は無職に向かってペンを進める、謂わば矛盾の生じた仕事な訳です。


働きたいけど働きたくない。

この葛藤の中で書き続けるのが大好きなんですよ。

まぁ、それが……コツなんでしょうかね」


田井中「凄いですね、流石は先生といったところでしょうか」


先生「あまりお役に立てず申し訳ありません」


田井中「いえいえ、とっても勉強になりましたよ」


先生「勉強になりましたか?そうですか、こういうことが勉強になるんですね。……これはストックしておかないと。


まぁでも、どんな作品であれ、書いた人間が見返して『これは私の作品だ』と胸を張って言えるのであれば、それはもう立派なものですよ」



田井中「先生書けました!………短編ですが」


先生「どれどれ見せてください。

……あぁ、お疲れになったでしょう。


外に出て気分転換でもしてくるといい」


田井中「ありがとうございます、実は結構自信あるんですよね!


では、ちょっと失礼します」



先生「うん、実に良い作品だ。人柄がよく出ている。


……さて、私もこれで作品が完成しましたし封筒に入れておきましょうかね」



田井中「どうでしたか?」


先生「少々言葉のニュアンスが気になるところはありましたが、田井中くんの人柄がよく出ている素敵な作品だと感じましたよ。


何故、出版社に勤めているのか惜しいくらいです」


田井中「ありがとうございます!

先生にそんな言葉を頂けるなんて感無量です!」


先生「そうですか、私の作品と手直しした田井中くんの作品は封筒に入れて厳封の印を押しておきましたので、そのまま出版社にお持ちください」


田井中「今日は、貴重な体験をありがとうございました」


先生「いえいえ、こちらこそ素敵な作家さんに会えて良かったですよ。お陰で良い作品が完成しましたし」


田井中「では、失礼しました!また伺います!」


先生「気をつけておかえりください」



先生「さて、食器を片付けてゲームでもしますかね。次回作もきっと彼が持ってきてくれるでしょう。


……私は、火華内(かけない)ですからね」


お読みいただきありがとうございました。

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