開始
入学式が終わり、振り分けられた教室の決められた席に着席して一息ついた俺は、現実逃避をするかのように晴れ渡った空を眺めた。
結論からいうと、ここは妹がどハマりしていた乙女ゲームの世界であり、そして俺がモブAになることは出来なかった。
しかも、決意した日から入学まで時間が無さすぎて、あの期間で新しく魔法を生み出すことも出来なかった。
しかし、これに関しては在学中に研究を重ねて上達するつもりである。
今俺が使える魔法は得意の風の魔法で自身を浮かせたり相手を軽く後ろによろめかせたり出来る程度だ。到底檻をも壊せるような攻撃力はない。
さらに、風の魔法と相性の悪い火の魔法だとライター程度の扱いしか出来ない。
しかし、これがこの世界の魔法使いの平均である。
なので、そんな魔法を学び、育て、強くしていくのが魔法学園である。
ちなみに魔法学園の卒業生はその殆どがエリートへとのし上がっている。
そもそも偏差値も高いので、頭が良くないと入れないのだ。
ならば逆に魔法学園に入学出来ない生徒はどうなのかというと、普通に『魔法』と名前の付かない学校へと通うことになる。
分かりやすくいえば、俺の前世にあった専門的な分野を学ぶ『専門学校』がここでいう『魔法学園』で、それ以外は普通に満遍なく物事を学べる『学校』という括りになる訳だ。
しかし、魔法について全く学ばないかと言えばそうではなく、魔法に関しては必要最低限のことしか教えられないのだ。
なので、魔法を伸ばすこともなければ、強化したり、新しい魔法を開発したりとかもしない。
要は前世での『道徳』の扱いと同じだ。自分の力を正しく使いましょう。と教えるのが一般の学校での魔法についての取り扱いだ。
まぁ、そんな訳で、俺の魔法はこれからの授業に期待ということで、そこまで問題じゃない。
問題は、やっぱりここが乙女ゲームの世界であったことと、俺がモブにはなれなかったということだ。
先ず初めに言っておきたいのは、俺の制服は今の性別に合ったスカートである。
「これから共学になることも視野に入れて、新しく作ってみたのだが、どうだろう?」と、そう言われてしまえば、「男用が良いです」とは言えなかった。
その結果、俺はスカートを穿いた。
黒いヤギの中に白い羊が一匹紛れ込んだように、俺は浮いた。
というか、今も浮いてる。好奇の目に晒され、噂の的にされながら、腫れ物を触るかのように誰も近付いてこない。
入学式の前からこんな感じで好奇の目に晒された俺は、その時点でモブを目指すのは無理だと早々に悟った。
さらに憂鬱なことに、俺はここが乙女ゲームの世界だったことを確信してしまった出来事を思い出す。