整理
入学式まであと三日となった今日。
特に語るようなこともなく、寮の掃除や入学式までの確認など、そんなことをして過ごしていた。
そんな時にふと思ったのだ。
「髪が邪魔だ…」
長い髪は洗うのにも乾かすのにも時間がかかる。前世を思い出す前は、長い髪の方が色々アレンジ出来て可愛いかな、という気持ちで伸ばしていたのだが、短髪の楽さを知ってしまった今ではこの髪を切る事に抵抗はない。
どうやら、俺の一人称でも分かると思うが、記憶を思い出してからは前世の方が気持ち的に強いらしい。
なので、腰くらいまであった髪をバッサリと切った。
節約のために自分で切ったが、中々上手く切れたんじゃないだろうか。
肩につかないくらいになった髪を鏡越しに見ながら自画自賛する。
ちなみにこの断髪を知ったエトワールさんからは何かあったのかと大層心配されたが、「入学式に向けて心機一転したくて」と答えると納得してくれた。
ただ、この髪は母譲りの黒髪だったこともあり、エトワールさんは大層惜しんでくれて「せっかくの彼女と同じ綺麗な黒髪だ。また機会があれば伸ばすといい」と言ってもらった。
そんな風に惜しまれては、冬に向けて伸ばすのも悪くはないかもしれないな、とは思った。
しかし、それはそれとして頭が大変軽くなった。
シャンプーも簡単だし、パッと洗ってパッと出れるようになったので多少は節約も出来ているかもしれない。
ドライヤーを使う時間も短くなって電気代も節約だ。
俺は今後継人であるエトワールさんに殆どを支援してもらっている。そのエトワールさんとは血も繋がっていないし、正直母の手紙一つでこんなに良くしてもらっているのに申し訳なさがあるのだ。
なので今の俺は出来る限りの節約をしてエトワールさんの負担を少しでも減らすことを目標に生活している。
貰ったお小遣いも使わなければ貯めるようにして、いつかはエトワールさんに全額とは言わずとも、半額ぐらいは返したいところだ。
バイトが出来たら良いのだが、この学園では学外でのバイトは禁止されている。
代わりに学内でのバイトがあるらしく、入学式したら部活には入らず、先ずはそういったバイトを探そうと思っている。
部活は、どんな部活があるのかと一度気になって調べたことがある。前世の時にあった運動部ならバスケ部や野球部、文化部系で言えば吹奏楽部、美術部なんてものもあった。魔法学園らしく、魔法研究部なんていう前世の俺からすれば少し特殊な部活も存在する。
魔法研究部には少し惹かれるものがあるが、入部すれば当然部費というお金がかかる。なので、部活見学には行こうと思ってはいるが、入部はしないつもりだ。
エトワールさんはきっと気にするなと言ってくれそうなものだが、俺が気にする。
「さてと」
とりあえず入学式までにしておくことは終わった。必要なものは既に鞄の中にあり、忘れないように玄関に置いてある。
机に真新しいノートを広げて、俺はペンを持った。
今からするのは、この世界がゲームだと仮定して、俺の今後の身の振り方についての確認だ。
とりあえずノートに俺が知っていることを適当に書き出していく。
妹の断片的な言葉や、こんな風なスチルだったと記憶を思い出しながら下手くそなイラストを描いた。
先ず、ゲームの世界観だ。
タイトル、『何とか魔法学園~ほにゃららの星の導き~』。通称を『スタ学』。
この『何とか』の部分だが、恐らく『エトワール魔法学園』の気がする。安定というか、まぁ定番だな。つまり、『エトワール魔法学園~なんちゃらの星の導き~』というタイトルだ。
(あれ?そうしたら『スタ学』の『スタ』はどっからきた?普通なら『エト学』とかになりそうなもんだけど…。……まぁいいか。分からんから次!)
次に思い出せない『~ほにゃららの星の導き~』について考える。
タイトルさえちゃんと分かれば、何の星がキーワードになるのか、少しはヒントになったのだろうが、全く思い出せないのでここも飛ばす。
次に登場人物だ。
先ずは俺こと、ルナ・ユニヴェール。ゲームのヒロインであり、プレイヤー自身でもある。
黒髪金目の少女で、攻略対象の悩みを解決して恋に落としていく。
そして、攻略対象は全部で四人。
一人は赤髪。名前は知らん。
髪色から戦隊モノで言えばセンターっぽい立ち位置だった気がする。
けれどスチルで見た映像だと顔を真っ赤にして女の子を指差す描写があり、ライトノベルで言う赤髪のツンデレキャラのような気もしてならない。
二人目は青髪。こいつも名前は知らん。
戦隊モノで言えば青は知的クールなイメージだが、見た目のイメージだと子供のようなイメージだ。眼鏡もしてないし、知的クール系の性格ではないだろう。
記憶の中にあるこいつのスチルも、大体がにこにこと笑っていたような気がする。
三人目は橙髪に黄色のメッシュ。こいつの名前は確かキサラだ。妹が一番熱をあげていたから覚えている。だから他の三人の攻略対象に比べると知っていることはある。
まず、一見するとチャラ男な外見だが、実は超の付くほどの真面目くん。後から先にも交換日記から始めた恋愛はキサラだけだったと妹が笑いながら言っていた。
バットエンドだと監禁。……え。バットエンドとかあるの?怖っ。
四人目は白髪。名前は知らん。
最初は肌も白くて病人みたいだと思ったことを覚えている。まるで美人薄命を絵に描いたような容姿だった。
妹の「こいつは全てを拳で解決する」という見た目にそぐわない言葉のインパクトで、俺が妹の推し以外で唯一顔を覚えているキャラである。
ハッピーエンドで他のキャラを拳で颯爽と倒し、ヒロインをお姫様抱っこして去っていく姿はかっこよかったと妹が語っていたが、実はこの世界格闘ゲームか何かか?というか魔法どこいった。
まぁ要するに、この四人を中心に魔法学園を舞台として物語は始まる訳だ。