友達 2
ソウマ・アルビレオの自己紹介が終わり席に着く。それを見ながら、俺は名前を聞いても特に思い出せるような記憶が無かったことに改めて自分が何も知らないことを知る。
(だけど、何も知らないのは当たり前だ)
俺はプレイヤーとしてプレイもしてないし、ソウマ・アルビレオと友人なわけでも、幼い頃から知り合っている幼馴染とかでもない。
だから知らないことを考えるのは止めた。
そしてやってきた自分の番に、誰もが注目してくるのが分かった。
「ルナ・ユニヴェールと言います。よろしくお願いします」
出来るだけ目立ちたくない俺は簡潔な挨拶だけして席に着く。
それでも、あんな短い自己紹介の間で、裏口入学だとか男目当てだとか、ヒソヒソと叩かれる悪口は、記憶を思い出す前の自分ならきっと俯いて泣きそうになるくらいには堪えていただろう。まるで他人事のようにそんなことを思って、くだらねぇと頬杖をついた。
「……なぁ、ルナ。あー言うの、あんま気にすんなよ」
「ん?あぁ、心配してくれてありがとう。でも大丈夫。ホントに気にしてないから」
男目当てはともかく、裏口入学というのはあながち間違いではないだろう。ちゃんと試験を受けて合格ラインに達していたからこそここの生徒として通うことが出来ているが、元は男子校のこの学園に女子が通うなんて、後継人が学園の理事長でなければ決して叶うことではない。
だからあの程度の陰口は笑って流せる。
心配してくれるスカイに大丈夫だと返して、先生の話を聞くために前を向いた。
一通りの説明が終わり、今度は学園の内部を見て回る時間となる。先生の後についてぞろぞろと全員が教室を出ていくのを見ていると、何故かソウマ・アルビレオがこちらに近付いて来ているのに気が付いた。
「はじめまして!ねぇ、ルナちゃんって呼んでもいい?僕はソウマ・アルビレオだよ!って、さっき自己紹介したから知ってるよね」
「えっと、はじめまして。アルビレオくん。私のことは好きに呼んでくれて構わないよ」
「アルビレオじゃなくて、ソウマでいいよ!あ、でも昔からの友達とかはみんな僕のことソウくんって呼ぶからそっちの方が嬉しいかも!」
えへへ、と笑うソウマ・アルビレオはスチルで見たのと変わらない笑顔だった。
だけどその顔は直ぐに心配そうな顔へと変わった。
「ルナちゃん、女の子ひとりで大変だよね。困ったことがあったら言ってね。僕、君と友達なりたいんだ」
「……ありがとう、ソウマくん」
俺はソウマ・アルビレオとの出会いを知らない。だからこれが原作の出会い方なのかとか、本当に何も知らないから、分からない。
それでも、この世界がゲームの世界だからとか関係なく、今の俺を心配して声を掛けてくれたソウマの気持ちを否定することは出来なくて、俺はソウマに笑いかけた。
「私の方こそ、仲良くしてくれると嬉しいな」
ただのクラスメイトの距離で過ごすことは出来なくなったが、友人が出来るのはいいことだ。
「うん!あ、そういえば、そっちの君ともはじめましてだよね?僕はソウマだよ!よろしくね」
「おぉ!俺はスカイだ!よろしくな、ソウマ!」
「じゃあ、三人仲良くなったところで、そろそろ先生達を追いかけようか」
「わっ!もう誰もいない!」
「やべぇじゃん!早く追いかけようぜ!」
仲良くなることは悪いことじゃないと、そう自分を納得させて、俺はソウマとスカイと共に列の最後尾を追った。