記憶
全体的に修正を加えました。
主人公の名前の変更、キャラクターの立場の変更、また、内容の変更があります。
修正前のこのお話を読んでくださった読者様、評価、ブックマークしてくださった読者様には大変申し訳ありません。
作者がこの話を書いているうちに作品に対して納得できない部分が出てきましたので、この度大幅な修正を行いました。
読者の皆様により楽しんで頂けるような作品を目指し精進致します。
また、この1話の修正に伴い、2話以降の作品を一度削除致します。
前世の記憶というものがある。
それに気付いたのは、つい先程のことで、今の俺は急に思い出した前世の記憶に呆然と寮の部屋の中でへたりこんでる状態だ。
「は、嘘…」
頭を打って思い出したという訳でもなく、高熱が出て思い出したという訳でもなく、本当に何の前触れもなく、スッと、そういえば俺は前世では受験生前の男子高校生だったなぁと思い出したのだ。
「こんな特別感もない思い出し方とかある?」
思わず独り言が漏れてしまうが、それを拾うものはいない。
確かに、ずっと、自分が自分じゃないような気はしていたのだ。
部屋にある等身大の鏡を見れば、そこにいるのは闇を閉じ込めたような漆黒の髪を腰まで伸ばし、ぱっちりとした目に金色の瞳を宿した女の子だ。
前世の俺は短髪で水泳を習っていた為に色素の抜けた髪色をしていた普通の黒目の男子高校生だったから、それを思い出せば確かにこの姿には違和感がある。
そもそも性別が違うのだから当たり前だが。
「あー、まじかァ…。え、これってもしかしてトラ転ってやつ?」
俺の前世の死因はトラックだ。
佐々木優真という名前の一人の平凡な男子高校生だった俺は、ゲームなんてしながら歩いていたが故にトラックの接近に気付かず死にそうになった妹を庇って死んだ。
妹にはこれを機に是非とも歩きスマホと片耳イヤホンをやめて欲しい所存である。
「……にしても、この顔どっかで見たことあるんだよな…」
じっと鏡を見る。確かに十六年ずっと見てきた顔だ。だけど、そうじゃなくて、俺はこの顔をどっかで見たことがある気がするのだ。
「なんだったかなぁ…。なんで見たんだっけ…。うーん…。あっ!」
妹のゲームだ!
いや、正確に言えば妹がやっていたアプリゲームだ。
俺がトラックに轢かれることになった原因でもある妹が夢中になって進めていたアプリゲーム。その名前は確か、『魔法学園~星の導きに……なんたら〜』とかいう…、いや、違うな。『なんたら魔法学園~ほにゃららの星の導き~』とかいうタイトルで、通称を『スタ学』というらしい。
妹はそのアプリのヒロインになって、その学園でたった一人の女生徒ととして攻略対象の悩みを解決しながら愛を育んでいくという乙女ゲームだ。
この乙女ゲームにどハマりしていた妹がよく俺に画面を見せては説明してきたので多少は覚えている。
「このルナがね、あっ、ルナはデフォルト名で、私がプレイしてる時は違う名前なんだけど、これ!この黒髪ロングの女の子」といって妹が指さした画面の中で2Dの黒髪、金眼のキャラクターがゆらゆらと揺れていたのも見た。
その姿が今鏡で見ている俺の姿とそっくりなのである。
そして俺の今の名前は、ルナ。ルナ・ユニヴェールである。
一週間後、私立エトワール魔法学園に入学するピカピカの一年生だ。
事故で死んだ父親の代わりに女手一つで俺を育ててくれた母さんはつい一年ほど前に病死した。親戚もいない、頼る人も分からない、そんな俺に母さんが最後に遺してくれたのが、後継人の存在だった。
なんでも母さんの古い友人らしいその人は、モーネ・エトワールという名前で、俺の入学するエトワール魔法学園の理事長である。
母さんは自分が死んだ後はよろしく頼むとエトワールさんに生前に手紙を出していたようで、看護師さん達にも話を通していたのだろう。母さんが死んだ時、気付けばエトワールさんが側にいて、手続きも葬式も、全てやってくれていた。
「初めまして。ルナ君だね。私はモーネ・エトワールという。君のお母さんに君のことを頼まれた。もしこの言葉が信じられないなら、彼女とのやりとりの手紙を見せよう。どうか、私と一緒に来てはくれないだろうか」
エトワールさんは、母さんが死んだことを受け入れらなかった当時の俺に、高そうなスーツに汚れが付くことも気にせずに膝をついて、目線を合わせてくれた。
「けれど君も、母親を失ったばかりで、まだ気持ちの整理はついていないだろう。明日また様子を見にいく。答えは、ゆっくり考えて決めるといい。どんな形であれ、私は君の意見をできる限り尊重したいと考えている」
そうして、エトワールさんも忙しいだろうに仕事の合間だとか時間を見つけては毎日のように俺の様子を見に来てくれていた。初めの頃は何も手につかなくて迷惑ばっかりかけてただろうに、食事の用意やたまに時間のある時には簡単な遊びだって付き合ってくれた。
そうして、考える時間を沢山貰った。
だから俺は今、ここにいる。
母さんと過ごした家を売って、エトワールさんが経営する学園の生徒となることに決めて、俺はこの学園の寮へと入った。
しかし、入学が決まったのはいいものの、ここで問題が一つある。
元々このエトワール魔法学園とは、魔法使いを目指す男子校だったのである。
そこに俺が入り込んで来たことにより、共学となる。
つまり、今期は女子が俺しかいない。
今までは、女の子が一人だなんて不安だな。上手くやっていけるだろうか。なんて可愛らしいことを考えていたが、今思えば男子校にたった一人の女子生徒なんて、どんだけ都合の良い展開だろうか。
しかし、ここが乙女ゲームの世界だというなら、この展開も納得できる。
そして乙女ゲームということは、当たり前だが恋愛ゲームである。
「それでね、このゲームは攻略対象四人の問題児たちが抱える色々な問題を解決しながら、最後には恋に落ちていくんだけど…」と、嬉嬉として語る妹の言葉が脳内に蘇る。
つまり俺のこの仮説が間違ってなければ、俺は乙女ゲームの世界のヒロインに成ってしまったということだ。
そんなことを、俺はゲームの始まりである魔法学園の入学式の一週間前に思い出したのだ。