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女神の幸運的日常  作者: 鱸
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終わりかけの流行に乗ってみました。

なんでこうなった…?



視界に映るのは豪華なテーブルにビロードの絨毯。ただの平民であるアリーシャには無縁の代物だ。

なのにアリーシャの手元には繊細な細工がされたティーカップ。

中に入っている香り高い紅茶も恐らく目が飛び出すような高級茶葉を使っているのだろう。


「はぁ」

「如何なさった?アリーシャ殿」

「い、いえっ」


…そして何より、目の前にいる人物に緊張で白目を剥いて倒れそう。


太陽の光で輝く月白色の御髪に優しげな目元が印象的な竜胆色の瞳。

とても40代とは思えない引き締まった体に甘い顔

「な、何でもありません皇帝陛下」



なんっで私こんな所にいるのよ本当に!



冷や汗をかきながらアリーシャは現実逃避する様に数日前のことを思い出していた。




ーーーーーーーーーーーーーー


「いらっしゃい」


チリンとベルの軽い音が鳴ると同時に作業を辞め、店に入って来た客を見る。

客は並べられた商品を見るわけでもなくアリーシャのところへやって来た。

「アリーシャ!」

栗毛にソバカスの可愛い少女がアリーシャの手を握りしめる。

「ありがとう!お陰で彼と付き合うことになったのよっ」


恥ずかしそうに頰を赤らめる彼女は幼馴染みであり、店の常連客だ。

「良かったねハンナ」

「ふふふっ、本当にアリーシャが作る物って凄いわね」

ハンナと呼ばれた女性は首元に輝くペンダントに触れた

「いつも言ってるけど私が作ってるのはそんな大層なものじゃないよ。あくまで私がしているのは呪い(まじない)。魔力付与してるわけじゃ無いし」


中断していた作業を再開するアリーシャの手元にあるのは可愛らしい花の形をした銀細工と可憐な桃色の石

それは別の世界ではピンクトルマリンと呼ばれる石の様な見た目だった。


「その石って本当に宝石じゃ無いの?」

「うん、ただの石。私が加工してこうなるの」

「不思議ねぇ」


まぁ、私だって未だに不思議に思う



この世界で生を受けて17年

元々義勇兵だった庶民出の騎士である父と、仕出し女として城砦で働く母から生まれた。少し垂れ目の琥珀色の優しげな瞳に癖のないブランド。母親譲りの瞳の色は少し珍しいが、特に突出した容姿というわけでもない。いたって普通の庶民だ。


自分の髪をくるりと指に巻きつける。


それでも前よりずっとマシだな



私がアリーシャになる前ーーー前世の事だ


前世での名前はシライシサチ、チキュウという星の何処かにあるニホンという島国に住んでいた。

無論この世界でチキュウなんて聞いた事は無いし、ニホンなんて名前の国はない。



もともと、この世界には前世を持って生まれ落ちる人間がいる。

しかしそれは何か偉業を成し遂げた者、或いは大犯罪を犯した者など、魂に凄まじい影響を与えた人物だとされている。


それに比べ、アリーシャが持つ記憶はただの平凡なサチという女性。

これといった才能を持っていたわけでもない。

いや、あれは一種の才能だったのだろうか。



サチは美しい顔立ちで華があり、眼を惹く容姿だった。生まれ持った顔は周りの人間からは羨ましがられたが、きつい吊り目だった為か、気が強そうだの性格悪そうだの…挙げ句の果てには男好き、などと根も葉もない噂が付き纏った。

しかしそんな見た目に反してサチは引っ込み思案で人見知りだった。

皮肉にも見た目のお陰でいじめこそなかったが、親しい友人は居ない。

そして如何せん運が悪い人間だった。

何をしても間が悪く、良い結果が得られない。見た目の所為なのか何かトラブルが有ると必ず自分が疑われた。

他にも色々と有ったが、あまりにも多すぎて覚えていない。


そんなアリーシャは今、この国の城下町で装飾店を営んでいる。装飾と言っても貴族が使う様な煌びやかな宝石を使った代物ではなく、少し背伸びをすれば庶民でも買える様な物だ。

得意な呪いを石に掛け、それらを使って作る装飾品のデザインは、この世界では斬新で巷ではちょっとした流行になっていた。

もちろんこれは前世の記憶の産物だ。



「よし、出来た」

出来たばかりのブレスレットに灯りを当て不備がないか確認する。


「わぁ、素敵な花ね。これは何の花なの?」

ハンナはアリーシャの手の中をのぞき込んだ

5つの花弁の先が少し割れた花

「これはサクラ。遠い異国の花で芽吹きの季節に咲く花なの」

「へぇー!とっても可愛い花ね」

「うん、ワタシの好きな花なの」


ハンナと和気藹々と話しているとドアベルが鳴った。


「ハンナやっぱりここにいたんだね。」

「ジョハル!」


頬を赤らめるハンナは文字通り恋する乙女だ。

お互いに見つめ合う2人にやれやれと笑う。


「全く、此処は待ち合わせ場所じゃ無いのよ。早くデートでもしてきなよ」


シッシッと手を振りニヤリと笑うとハンナは先ほどと打って変わって顔を真っ赤にした。


「でっ、デート」


そんなハンナを優しい顔で見つめる男はハンナの手を取りこちらを見た


「じゃあお言葉に甘えて、ほらハンナ行こう。」

「え、えぇ」


「いってらっしゃい、楽しんで」


「ありがとうアリーシャ、また遊びにくるわね」


「うん、待ってる」



ーーーーーーーーーーーー



「さて、初々しい恋人たちに癒されたし、素材を集めにでも行くか」


一仕事終えたアリーシャは早めに店を閉め、装飾品に欠かせない石を取りに行く事にした。

はじめまして


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