マスコミの利用方法
ホテルの一室、中々を越えていいお値段がするであろう事は、いい大人であればわかっている。
無論、政治家という職業であれば、いいお値段を安いねぇなどと嘯くか、本当に安いと感じるというのが、常であるそうだ。
もっとも、同業者の場合自分は泊まるくせに、同業他者を攻撃するときは高い贅沢だのと材料として使うというのは、よく知られている。
目の前にいるのが、目下その材料を使って料理を提供するシェフのマスコミさんである。
よくテレビで、グチさんとともにでている真島アナウンサーを見ると、また違った世界に来ているのではないだろうかと錯覚しそうなものである。
各国の代表とあったときは、国は違えど同じ世界の住人という意識が多少はあるのだが、こうしてテレビカメラを向けられインタビューを受けるとなると変な気分だ。
秘書が、余計な事をしでかすなよという目でみてなければ、大分緊張していたことであろう。
「総理、よろしくお願いします」
「はい、真島さんよろしくお願いします」
「単独で各局、各番組にインタビュー式で答えるというのは、スケジュール的に、きついものがあると思うんですけれどお疲れではないんですか?」
「まぁ疲れますよね、ただメディアの皆さん独自の切り口を持たないと飽きられるという点では、メディアの皆さんのほうも大変だと思います」
「こういう形は異例だと思うんですけど、何故この形にしたんですか?」
「国家ジャーナリストのモデルケースの一つだと思っているからです、国家ジャーナリストの資格があれば、単独インタビューも今までより実現しやすくなるという情報提供の優先の一点ですね」
秘書が眉を一瞬吊り上げたが、何か気にさわったのだろうか。
「なるほど、総理、国家ジャーナリストの育成のきっかけの一つがメディアに対しての不信感がきっかけの一つみたいな事がありましたが、実際はどうなんです?」
「それも一つではあることは確かです、SNS上では、政治への不満のほかにマスコミへの批判も多いですよ、エゴサーチした事あります?」
「あります、私やグチさんも叩かれる事もありますし、ご意見やクレームも番組ホームページを通りこしてスポンサーまでいくことがあります」
「もちろん、ネットの意見だけで全て決まるわけじゃありません、それだったら私なんか何回辞めるんだって話になってきます」
「そうですねとは言いづらいんですけど、確かにそうですね」
「マスコミの役割としてよく、権力の監視だということが言われますが、それは信用が担保になっている部分もあります、社風によって与党の不祥事は報道し、野党の同じ不祥事は報道しない、逆もあるでしょうが、それだと、政治家と同じくらい信用を失う危うい状況になるでしょう」
「今のマスコミには、自浄力がないということでしょうか?」
「自浄力があるかどうかは分かりませんが、誰しもメディア側の一端になれる時代に、既存の自浄力だけで信頼性があるか、今までの看板だけで信頼性を守れるかとなると、圧倒的に足りなくなると感じてしまいます」
「なるほど、一定の基準と信頼性の担保という事でしょうか」
「はい、情報化社会で情報というのは武器なはずなのに、ネット対応で意見募集しましたとか、アカウント作りましたなんていうものより、信頼性の置ける情報を取得、発信、検証した方が、国民の利益、国の利益、マスコミの利益にも繋がるものだと思います」
「マスコミの利益とは?」
「情報社会において信頼のある情報を扱い、入ってくるというのは普通に考えて利益ですし、信頼性があれば権力の監視だってできますよね?」
「ごもっともでございます、グチさんがいればもう少し色々聞けたと思うんですけど、お時間のようです」
「グチさんと来られたら、色々まずそうですね」
「ご冗談を、最後にグチさんに総理一言ますか?」
「国家ジャーナリスト育成できれば、マスコミは、一定数の為の捌け口中心のショーになるか、万人が信頼してもいいと思える芯のある番組になるか、どっちかだと思いますがグチさんと真島アナウンサーは、どちらか楽しみに番組を拝見したいと思います」
儀礼的な挨拶が終わり、テレビスタッフ達が帰った、きれいなホテルの一室に、綺麗な秘書に怒られていた。
「本当は、この一度にしてほしい所なんですけど、わざわざモデルケースとか言う必要なかったですよね、変な前例作をらないで頂きたいんですけれど」
「おや、よくわかったねこれが前例作りの一環だって」
「モデルケースとか言う時の、ドヤ顔で気づきましたよ、誰に対しての嫌がらせですか?」
「さぁ、まぁ強いて言うなら未来の政治家への自浄力とだけ言っておきましょうか」
「可哀想ですね」
「自浄力と言うことにしておきましょう」
秘書が部屋からでると、豪勢なソファーに寝転んでみる。
モデルケースならば、まだまだ不十分であろうが、本格的にスタートするならば、総理大臣への単独インタビューが特別なものじゃなくなることを意味することになると示唆した。
つまりは、他の政治家だって応じざるをえなくなる。
与野党共に動きづらくなる。
総理大臣という敵が、分け隔てなく独自のインタビューにこたえたのだから、自分たちも似た対応をとらなければ、インパクトも残せないし、印象も悪くなる。
自分たちが抱き込んだ記者だけで、優位に進めることが出来なくなるという事だ。
権力の監視より、マスコミを使った抑止じみた行動だが、中々悪くないだろう。
中々悪くない、ソファーの心地よさのように。
一連の取材対応が終わった身体が癒される。
久しぶりによく眠れそうである。




