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黒々とした手帳




午前中は、雨が降っていたせいか、人を見る事などできなかった。

いや、そもそも墓場なんて、お盆の時期じゃなければ混まないものではあるから、それを雨のせいなどと一概には言えないだろう。


愁傷な気分とでもいうのだろうか、重苦しい空気とでもいうのだろうか、自分の未来が黒々とした粘液で塗りつぶされていく時と言うのは、何でもケチがつくし、自分自身でもケチをつけたいぐらい、すさんんでいて虚しい。


平和がどうたらと、本気で思っているのか、空っぽだから誰かの受け売りを垂れ流しているのかわからない連中の、図太さとか元気を分けて欲しいぐらいだ。



これからは、こんな事を思っていると知られたなら、ギャーギャーと騒音のボリュームが大きくなるから言わないようにしなければならないのだけど。


本当に、会った記憶が薄い祖父は、こんな因果な職業を生業としたものだと思う。


一国会議員の端の端だとしても、自らそこに突き進んだと言うのは、凄い事だと思う。

きっと何かを為したい人だったのだろう。

ソコだけは尊敬していた。



祖父譲りの運と地盤、金、周囲の妙な期待と執念、政治の膿、そんなものが濁流のように自分を飲み込み、気がつけば国会議員の末席にいた。


自分に何かしら出来るとは思わないけど、そういうものだと認識してしまえば、幾分心は晴れていた。


濁流に飲み込まれ流れ着いたのならもう終わりで、あとは、よくある泡沫候補のように消えてしまえるものだと思っていた。


墓石の前に野ざらしに置かれていた黒々とした新品同然のキレイな手帳。



総理大臣になってやりたいことが綴られていた。

命を懸けてやる、孫の人生を潰してもやると神様に誓った事が血判つきで記載されていた。


その横に軽い言葉で、それじゃあやっちゃいましょと書かれた文字があった。


本来なら何の事かわからなかっただろう。


だけど、ここ数日の出来事と照らし合わせれば、薄気味悪いほど理解してしまった。


与野党の大御所が共に組んで、発覚した賄賂事件、不祥事の余波で、今の内閣は吹き飛んだが、野党も吹き飛んだ。


与野党のベテランたちは自分達が批判の渦から身を一時的におくことが予想された。


派閥の色を出さず、そして頼りなく御しやすい新人を暫定的なスケープゴートの総理大臣として、話題づくりのためだけに一時的自分を担ぎ上げる事が、与党内で決まったばかりだ。


その報告を墓参りでした日に、雨に濡れることなくキレイなままで置かれていた手帳の内容。


それから察するに、死んだ祖父の望んだことだけは叶うだろう事と、神がかっているこの濁流に飲み込まれると言うことだ。


自分だけではないことに安堵すべきか、荒んだ心では判別等は出来はしないだろう。


澄んでいたとして、祖父の事を尊厳等は出来はしないだろうけど。


それでも、再度祖父の墓に頭を下げ、黒々とした手帳をスーツのポケットへと押し込み、墓場を去った。


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