03 転生と転生
誤字脱字、ご感想、ご指摘等頂ければ幸いです。
「んっんん……ん~んッ!!んんん~~~~…………んっ……」
古い歴史を感じさせる落ち着いた雰囲気の家具に囲まれた、かくも立派な貴族のお屋敷と見まごう程の大きな部屋の奥には、天蓋付きの立派なベットが置かれベットの上の掛布団が、もぞもぞと動き小さな丘を形作る。
盛り上がった掛布団の中からは、眠気と戦う、かわいらしい幼子の声が聞こえてくるも、声の主は未だ起きる事は叶わないらしく、睡魔と格闘し続けること約十分。
「……ん、ん……んっん~~んんん~~…………」
再び、起床しようと睡魔に抗う声が聞こえるも、その声は段々と小さくなり今にも消えそうな声になっていく。
「……んっ、んん、ん~~んっ……ん~~~~……んっ!!」
ベットの中から気合の籠った声と共に勢い良く、白く小さな手が二本飛び出すも、本体は未だベットの中でバンザイの格好をしている。
「……んっ!!!!」
再び、気合の籠った声が聞こえ、勢いよく掛布団が跳ね上げられると、小さな腕に見合った体躯の幼い子供がベットの上に腰掛ける形で起き上がった。
ベットの上で腰掛ける形で座る幼子は、腕と同様に白い肌と白い髪を持ち、髪は歪み無く真っ直ぐに伸び、流れる様な艶が掛かっている。
ただ、その肌も髪も白いというよりも、透き通る様な純白であり、朝日の反射とは異なる揺蕩う純白の光を身に纏っている……そんな錯覚を抱いてしまう様な色をしている。
起き上がった幼子は、先程の勢いは何処へ行ったのやら、ぽふっと両手を掛布団の上に落とし、ウトウトと舟を漕ぎながら目蓋を擦ること約五分、重く閉じられた目蓋がうっすらと開かれる。
目蓋の下から覗く瞳は、桔梗色(濃い紫)をしていた。
(何とも言えない変わった夢を見たな……)
千日の満願祈願、三年にも及ぶ修練の最後の七日間を締め括る岩屋籠りの最後が、白昼夢。
神仏でも無ければ、蜘蛛でも無く猿でも無い、ましてや他の何かでも無く、ゲームのアバター作成画面。
白亜の空間と白い球体、それも真球かと見まごうばかりの美しい球体。
深層心理、夢心理、集合的無意識、そう言った心理学の言葉が頭をよぎも、ただ、それ以上に眠気が雪綱を襲う。
朝日の照らす暖かな光に導かれ雪綱は大きな欠伸を一つ打つと。
「……ふゎぁぁぁ~~~もう朝なんよぉ……」
(……!! 朝日だと!? ありえない、ここは洞窟内の岩屋だぞ!!)
そう思うと、雪綱は薄っすらと開いた重い目蓋を開こうと悪戦苦闘する事、数分。何とか重い目蓋を開き周囲を見回す。
開かれた目蓋から瞳に飛び込んでき景色は、ふかふかの厚い掛布団に、天井から吊り下げられた白を基調に複数の色の糸で刺繍の施されたレースの天蓋。
そして何よりも明らかに日本様式の内装では無く、映画や物語、歴史の教科書に出てく、貴族の屋敷ような部屋が目に飛び込み、雪綱はピタリと停止した。
部屋の中には、歴史の重みを感じさせる品の良い家具と調度品が置かれ、そのどれもが西洋的な金や宝石・ペンキと言った類の装飾ではなく、木の風合いや、素材そのものの良さを活かした、落ち着きのある一品であり、作った職人の腕の高さを窺わせる造りとなっている。
部屋に置かれた家具・調度品は和式・洋式の特徴を持ち、一般市民である雪綱でもはっきりと分る程の高級品だ。
まったく見覚えのない部屋に雪綱は、ここが洞穴の中であるかなど気にしている余裕がなくなり、慌てて朝日の差し込む窓へと駆け寄ろうとして気が付いた。布団を掴む手があまりにも小さく、ぷにぷにとした脂肪に包まれている事に……
(……まるで小さな幼子の手だな……)
そんな感想を漏らすも、それ以上に小さな白い手に目を奪われる。
白い手。
それも、ただ白いのでは無く、透き通る様な純白であり、白、月白月白、白百合、卯ノ花、胡粉、白練、古くから白を表現する言葉は数多あるものの、これ程までに『純白』と言う、表現以外の一切が相応しく無い程に、白い手だ。
手をゆっくりと握り締めては開き握り締めては開きを何度も何度も繰り返し……
「……んっ、まるで色素欠乏症みたいなんよぉ~」
そう呟き、そこでようやく気が付く……自らの口調の変化に。
そして自らの意思に沿って動く、純白を身に纏った『ぷにぷに』とした小さな手に……
それらすべてを認識した途端、言い知れぬ不安を抱き『きゅぅぅ』っと心臓区が締め付けられるような感覚に苛まれ、視界が見る見る内に涙で歪み、部屋に差し込む朝日の光り以外は何も見えなくなり……
「……いやぁぁぁぁぁ……ひっく、ひぃっく……やぁぁぁぁぁああああああ!!」
大きな部屋の中に幼子の、可愛らしくも愛くるしい泣き声が響き渡る。
白っていい色ですよね~ですが生活は大変そう……
何はともあれようやく転生出来ました。
ようやく異世界物語が進みますのでよろしくお願いします。