満願祈願993日目 転生まで、あと7日
誤字脱字、ご感想、ご指摘等頂ければ幸いです。
西暦2045年。
多くの人々の期待と不安を受けた2045年問題・シンギュラリティー問題ーAI-は当初の予測とは異
なり、ゆっくりとではあるものの進歩し2037年から2054年にかけ、量子コンピューターの一定の完成と1000量子ビットへの到達を皮切りに、急速な発達を遂げ人々の生活に欠かせない存在となり、生活に強く密着する世の中となった。
特に日本は、他の国ほど人工知能に対する忌避感や恐怖といった感情は少なく、二十一世紀前半のAI・人工知能とは明らかに異なる性能を持つAI・人工知能を自然と受け入れた。
その様な中、日本を含めた七つの国家は共同である一つのAIを開発した。
古き文明より名を貰い……
- テラ -
そう名付けられた、人工知能創造用基礎根幹AI・テラの恩恵を受ける七国家は、各々の国でテラの子供とも言うべき様々な専門性を有するAIと、それらを管理・調整・調節する役割を持つ統合AIをテラによって作ってもらい、それぞれの国々に合った性格の性質のAIが誕生し日本でも多くのAIが誕生した。
テラの創造した第二世代AIは、ありとあらゆる分野で有用性を示し、人々はAIと切り離された生活を送るには難しくなった。
人は一度でも手に入れた利便性を手放すことは非常に難しくテラの子供たちは世代を重ねるごとに人々に信用されてゆき、人々の生活は大きく様変わりした。
テラの子供たちは、あらゆる分野において技術革新を行い、日進月歩では追い付かず秒進分歩という言葉すら五十歩百歩といわれる世の中になり、人々はテラとその子供たちの作り出す便利さに富んだ世の中を享受するようになった。
ただ、その一方で、かつて人々が行っていた仕事の九割以上はAIとAI制御の機械が代替する様になり一時的に七国家における国家問題となったものの、それすらテラとその子供たちは解決した。
解決の内容の内の一つがベーシックインカム ー 国民一人一人に一定の金銭を渡し、渡された金銭を個々人にゆだね運用してもらう制度、働くも、増やすも、ニートするも、趣味に費やすも、その全ては個人の責任となる制度でもある。ー であり、政治体制・行政・立法・司法すら、テラとその子供たちが担うようになったからこそ可能になったといえる。とは言え、いくら便利な世の中を作り出し信用を得たAI・テラとその子供たちとは言え、AI・人工知能に政治体制を、司法を、立法を、行政を、任せるなど恐怖の沙汰であり正気とは言えない。社会インフラを任せるのとは訳が違う。それですら必ず人の手が入っているのだ。ただ、AIはテラとその子供たちは、懇切丁寧に時間を掛けて説明し認められたのだ。
その時の人々の熱気たるや、AIの分析によって各分野ごとに一世紀に独り現れるか現れないかとされる天才、それも稀代の天才を思い起こさせる程の演説であり、世界情勢・世相に後押しされるも、説得をもって人々に認められたのだ。
それ故に、それ以降の政治体制は、全体的民主主義と呼ばれる主義となり、人々の一票は一意見となり、テラとその子供たちは人々の意見を個々毎に取り入れ反映させていった。その結果、人々はますますテラとその子供たちを信用するようになった。
それ故に、人々は生きるために働く必要が無くなり、そのおかげで伝統技術・伝統芸能が全世界規模でかつてない程の注目を浴び多くの伝統工芸・伝統芸能・伝統技術が息を吹き返した。その結果、全ての伝統系統で自らの伝統始まって以来の丹生のん社数を記録し、かつてないほどの隆盛を誇った。
皮肉にも、便利さを追求し技術を高めた結果、人がほとんど働く必要が無くなり、それ故に人が人の手で、技術で作られる機械技術に頼り過ぎない、伝統に注目が集まったのだ。
高度なAI制御による機械技術によって作り出された物ではなく、人の手による技術によって作り出されたもの価値が再び再認識される様になってから58年後……
西暦2112年
ガタンゴトン、ガタンゴトンっと古めかしい電車の車軸と線路のレールの歪みの発生させる音を聞きながら、揺れる電車の車窓から覗く景色は、一面の雪景色であり今の季節が冬である事を窺い知る事が出来る。
「あと……二駅か……はぁ~」
そう、しんみりと呟き寝ぼけ眼を擦りながら車窓から覗く景色を眺める一人の少年、名を鷹ケ峯 雪綱。
十五歳、中学三年生。趣味は一族代々に伝わる家伝の武術、主に剣術だ。
そう剣術だ。武術であり武道だ。
武道も、また他の伝統と同様に息を吹き返し、再び注目を浴びかつて無い程の、江戸時代を超える脚光を浴びたのだ。
その結果、新しい流派、新興流派が数多く誕生し、それ故に古い流派が、さらなる脚光を浴び古流は、息を吹き返すどころか更なる攻勢を誇ることとなった。
ただ、だからこそ……
「はぁ~」
再びため息をつく……
多くの流派が再び攻勢を誇る中、自らの流派は攻勢とは無縁であり閑散としている。ただ、これは自らの流派型の流派の様に門戸を広く開かなかったからだ。
それが分かっていても、家伝の流派への誇りが心をかき乱す。
おのが流派より誕生した流派は、直系・派生を含めると現在存在する流派の三分の一以上にも上る。
特にその中でもつの流派は別格だ。
この国を270年近くも太平の世へと導き続けた為政者を支えたの起こした幕府のご流儀。
そのご流儀の姉妹流派たる剣術と体術を組み合わせ、タイを見出した流派。
それより派生した慶弔とともに振り下ろされる、実直な技を見出した流派。
十文字槍を以って名をはせた仏門の流派。
防具と竹刀を改良し現代剣道の礎を築き上げた功罪併せ持つ流派。
数多くの幕末の英傑と辻斬りを生み出し、名を持たない技を作りし流派。
少し考えただけで、これだけ有名な流派を思い浮かべることが出来るのだ。その派生、支流となると把握出来ないほど在るのだ。
どの流派も最低でも数百人、有名流派ともなると、最低でも数十万人にもなり、その事実がさらに雪綱に溜息を付かせ一因となっているのだ。
先の流派の流祖を知っている人は非常に多い、門弟ならなおのこと知っていても当然だ。だが、流祖の始祖を知っているものは非常に少ない、たとえ、直系の門弟であってもだ。
自らの流派にしか興味がないと言われれば、それまでだが……
そんなことを考えていると、金属がこすれ合いながらきしむ音と共に電車がゆっくりと停車し扉が開く。
外と内の温度差で、一気に冷気が車内に流れ込むのと入れ替わる様に電車を降りる。
外は歩を進める毎に、十センチほど積もった雪が「ざっく、ざっく」と心地良い音が響い渡り、熱くなった心を冷ます。
「よいしょ」
そう、年寄臭く言い、登山用の七十リットルのリュックサックを背負い直し歩き始める。
道から少し離れた道を三十分ほど歩き、鵜戸神宮の境内を通り抜け社の裏手に辿り着く。
そこには、切り立った岩肌がむき出しになった断崖かあり、陽が少し落ちた事で波音が聞えてくる以外は、下の様子を窺い知ることは出来ない。
(言い伝え道理なら、ここか……)
ゴソゴソと腰の辺りに取り付けたのポーチの中に手を入れ、縦15センチ、横6センチ、厚さ1センチほどの金属製の板を取り出し、空中に適当に放り投げる。
放り投げられた金属の板は、空中で少し変形し四枚の羽根を出し、耳を澄ませなければ聞えない程に、静かな駆動音と共に空中に浮かぶ。このドーロンは、市販されているモノを改造したものだ。改造といっても中の部品と部品を少しいじっただけに過ぎない。今のドローンは、個々人に合わせ好きに改造する事が可能で、誰でも市販されている部品を組み合わせるだけで、個人の趣味、生活に合ったドローンを作ることが出来る。が……雪綱は、そこに多少の専門知識を以って組み立てたのだ。
最大速度100キロ、最大上昇・降下速度114キロ、積載荷重・15キロ、最大速度での継続飛行時間は、一時間の充電で四時間ほど飛行でき、もともとは暴徒鎮圧用の指向性マイクロ波照射装置を民間転用し害獣や害虫用の装置を少し改造し出力を上げたものを搭載している。その上に飛行用のバッテリーとは個別にバッテリーを繋いでおり長時間の使用にも耐える優れものだ。
それに何より、三十グラム水素電池 ー 水素元素から電気を取り出し、使用する電池であり使い切りタイプの電池だ。グラム数の表記は、水素原子量を表し取り出せる電気量は原子と原子の質量に依存し電池の容積に大きく依存する。電池が大きければ大きいほど、電池の電気容量も大きくなり使用時間も伸びる。 ー を使用しアウトドアには欠かせない仕様だ。虫には刺されたくはない。
ドローンを飛ばすと雪綱は、単眼型の眼鏡端末・ウェアラブル機器を装着しドローンのカメラと同期し音声命令を送る。
「降下してくれ」
小さな駆動音とともに、ドローンのアイカメラが緑色に光点滅すると。
「かしこまりました、ご主人様!!」
「……」
四機のドローンが、それぞれ異なる音声で一斉に答える。
(頼む人を間違えたような……)
四機のドローンは、それぞれ名前が付けられており番号で呼ぶことは無い。
このドローンの基礎AI以外の基礎行動プログラムを組んだのは、姉弟子であり少し年の離れた従姉だ。正直、年が離れており、思考回路がどうなっているのか分からないものの、よく……
「メイドとは、奉仕する者ではなく、奉祀されるべき者。生メイドであれ、造形メイドであれ、機械式メイドであれ、ARメイド(拡張現実メイド)であれ、そこは変わらない。
そして、メイドさんは何を着ても最高、武器を手に鎧兜に身を包み込んだメイドさんこそ至高。
此れ即ち、真理なり」
などと言う、それなりに有名な人形造形師だ。
20センチ台から、一分の一のサイズの大きさまで幅広く作成できる上、服も一体型ではなく、きちんと人形の肌の質感に合わせた服を、布から裁断して作成するこだわりを持つ、そんな人物が組んだAIだ。
四機の性格も異なりアイカメラの光る色によって判別が可能だ。
四機のドローンが崖の下に消えるのを確認してから、リュックのの課からロープとカラビナ()を取り出し近くの木と岩に固定する。効果準備を整えていると……
「見つかりました。ご主人様」
青色の光を灯すドローンが、雪綱の頭部から一メートルほど離れた位置に、滞空し距離を保ち続けていた。
「……ユリ、ご主人様はやめてと前のも言ったぞ」
「……記憶にございません」
「!?……」
(ネットを返さず、相互通信の必要もない、一エクサバイトの記憶容量は飾りか!? 飾りなのか!?)
その様な気持ちを押し殺し、何事もなっかたかの様に、視線をリュックへと戻し準備を再開する……っと見せかけリュックの中から、予備のロープを取り出し、ユリへと投げつけた。
投げられたロープは、一転でバラバラにならないように止められ、空中でほどけるも、ばらける事は無く大小様々な輪が出来上がる。
その輪の隙間を、ユリは潜り抜ける。それも大きい輪ではなく、小さい方の輪を……
「……」
「……」
「まぁ、女性に手を上げるなんて、雪綱様は大層なご趣味をお持ちの様で、それもメイドに……」
「冥土に送りたい……」
「……ああぁ……そんな……ご無体な、私のこの穢れ無き身をねっとりとした粘度の高い透明な液体で汚しておきながら用が無くなれがば、お捨てに慣れれるなんて、お小水まで掛けておきながら……」
「……ウィルス?」
「まぁ、お忘れになられたのですか? そう……あれは、忘れもしない十三年前の夜、今日と同じ深々と雪の降りしきる夜の出来事でした。幼く愛くるしい雪綱様のおしめを取り換えようとした時でした。雪綱様は、私が地下ずくと笑みを浮かべられまして、四世代前の躯体を乱暴につかまれまして、その上に、豆回された上に、私が必死の思いで逃れられましたら、今度は、わたくしに追い打ちを掛ける様にお小水をお掛けになられて……ざめ、ざめ、ざめ……チラ?」
わざわざ擬音を音声出力した上に、チカチカとライトを二度ほど点滅させた。
(クソババア……いくら学習、成長するとはいえ、どういう風に接したら、このような性格になるんだ)
「雪綱様? 今お嬢様のことを心の中でクソババアと思われましたね?」
(……聞きたくなかった……あの人は今、三十五歳だぞ……知りた……イタッ!!)
ドローン・ユリを見ると、虫除け用のマイクロは照射装置をこちらに向けていた。
虫除け用と言っても、もともとは暴徒鎮圧用のモデルを民間転用したタイプをドローンに搭載したのだ。小型化とバッテリーの関係上、虫除けぐらいにしか役に立たないものの、生木に二十秒ほど照射し続ければ、発火させることも可能だ。最大連続照射時間は370秒ほどにもなる。
それを、人に向けたのだ。ロボット三原則などどこ吹く風だ。
「思ってもいない、口にも出していない以上、心の中までは……」
「……昔、お嬢様をクソババア呼ばわりした時の表情金の動きと先程の雪綱様の表情筋の動きが酷似しておりました。一致率をご報告いたしましょうか?それともお嬢様にご連絡いたしましょうか?」
「……」
「報告理由は、お嬢様をクソババア呼ばわりしたこと。
お嬢様と言う単語に反応したこと。
私に、ロープを投げつけたこと。
私に、逆らったこと。
以上です。」
「ごめんなさい、報告しないでください。もう二度と言いません。思いません。考えません。」
「……仕方がありませんね、私は……最新の映画が見たいのですが……」
「……」
「……」
少しの間二人してじっと見つめ合っていると、ドローン・ユリは水平方向から縦方向へと態勢を変え底面部の金属の面に電話番号を表示し「発信しますか? はい・いいえ」の表示画面を見せてくる。
「……はい!! よろこんで!!」
雪綱は、元気良く返事をする。魔女裁判に巻き込まれないように……
「雪綱様、もう七時ですよ? これ以上、遅くなる様でしたら洞穴への出発は、明日に為されてはいかがでしょうか?」
「いや、今日の0時から始める以上、時間の猶予は欲しい」
「そうですか……最後ですものね……」
「案内を任せる」
「かしこまりました」
ドローン・ユリは光量を強くし、崖の淵へと先行する。
ドローン・ユリの後に続き、崖の淵へ近づき、崖下を覗くと冬の七時という事もあり、崖下は真っ暗で何も見えず、岩肌に波がぶつかり砕ける音と、岩肌に切り裂かれる風音のみを窺い知ることが出来る。リュックサックを背負いなおし、最終確認を行うと、崖下へとロープを無言で投げる。
「……よし、行こう!!」
「はい、雪綱様!!」
ドローン・ユリは、雪綱から少し離れた位置を明るく照らし、崖肌と単眼のウェアラブル端末の両方に可視化した緑色の道を表示する。拡張映像と表示映像の同期具合を確認し、雪綱は深く深呼吸を行い……降下する。
崖肌は暗く、視界は光の当たる所、以外は暗くないに等しい。とは言え、ドローン・ユリの送ってくる映像のおかげで、視界は良好であり岩肌を降りる分には問題ない。気を付けるのは60キロ前後もの重量を背負っている事ぐらいだろう。とは言え、油断大敵だ。
『中学三年生、崖での懸垂降下中に転落死。昼に降りずに、なぜ夜降りる!?』
なんて、新聞に書かれでもしたら目も当てられない。
流派にも、家族にも、身内にも、鵜戸神宮にも、申し訳が立たない。
そんなことを考えながら降りていると、崖上から二十メートルほど下った地点に直径1・4メートル程の穴が空いており、先に下ったドローン・シスターメイド達が送ってきた情報道理だ。
洞穴からは、波の動きに合わせて風が出入りする音が聞こえてくる。雪綱は、そのまま先行するドローン・ユリの映し出す表示された道に従って洞穴に入る。
洞穴内は狭く、中腰の姿勢で数十メートルほど進むと急に開けた空洞に出てた。
開けた空洞は槍を振るうには狭く、剣を振るうには十分な広さを備え、波の潮汐によって洞穴内の空気が蠢き岩壁を通る度に風切り音が響き渡り、心を掻き乱す様な人を不安にさせる風音を奏でている。
「ここか……すごいな、数百年前からの修行者たちの岩屋……」
雪綱の行き着いた、洞穴の終着点は少し広めの茶室ほどの広さであり、ドローン・ユリ達の照らす光によって光源は確保されており岩屋の壁の所々に、いくつもの小さくなったロウソクが立てられ、ロウソクの近くの壁には、最も古いモノで、長享の文字が書かれており、最も新しいモノで大正の文字が書かれている。
「……最後より、二百年以上か……」
そう呟くと、リュックサックを地面に置き中から、上下の袴と七日分の食料と飲料水を取り出し地面に適当に並べ袴を着付けると、長い革製の筒の中から木刀を取り出し地面に置く。
「ユリ、キキョウ、ヒマワリ、ツバキ……午前零時に真っ暗になる様に三十分後から少しづつ光量を落としてくれ」
「かしこまりました」
ドローン・ユリ達はドローンの底面部から折り畳まれた足を出して天井に張り付き、岩屋内を明るく照らしている。
雪綱は、地面に正座し暗くなるのを待つ。暫らくすると光量が落ち……
「……さてはて、蜘蛛が出るか、猿が出るか……それとも……」
「……雪綱様……御気を……」
ユリは何かを言おうとして、言い淀み……皆で……
「「「御開眼を!!」」」
(御開眼を……か……)
「七日後に会おう皆」
光が消え暗闇が訪れ後には、打ち付ける激しい波の音と鋭い風切音のみが、はっきりと感じ取れる五感となり訪れる。
「……貴様、この間、文字数について何て言った?」
「……記憶に御座いません……チラ」
ヴゥゥン!! ザシュッ!!
「……V暗黒卿……つまらぬものを切ってしまいました。お許しを……」
二日に一回、二十一時あたりに投稿しようと考えております。
科学技術の知識はどこかに置いてきたので、温かい目で見てください。