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記憶屋見聞録-その1日、1万円で交換します。ー

作者: 幸京

こんばんわ、

はいはい、ここに来たということは、消し去りたい記憶があるんですね。

え、?アハハハ、確かに言う通り、そんなの誰にだってありますよね。

ただね、私の商売は、ただ消すのではなく、交換します。

貴方の1日の記憶と、誰かが消した1日の記憶を交換です。

交換するのがどんな記憶かは私にも分かりません。

ただねぇ・・・、消したい記憶だから良いものではないでしょう。

それでも、ここに来るお客さんは自分の記憶よりマシだと思い、交換するんですね。はい。

貴方もかなり思い詰めた眼をしていますね、何のためらいも見られませんよ。

はい、分かりました。それでは看板にあるように前金で1万円いただきます。

もちろんもちろん、記憶交換が出来なければ、お金はお返しします。

すみません、後払いだと、この店の事さえも覚えていられないんです。

実は当店は人生で一度のみ来店可能なんです、もう私がお客さんと会うことはありません。

もちろん記憶交換も覚えておらず、交換した記憶が貴方の人生です。

ただあなたの想い、消した記憶から生まれた気持ちは必ずしも交換されません。

例えば、物騒な話ですが、貴方が誰かを殺したいと思った1日の記憶を交換するとしましよう。

交換した相手は同じ記憶を持ちながらも、その人に殺意が沸くかは分かりません。

何をどう思うかは、人それぞれですからね。

さぁ、その緑の椅子に座り、そのロウソクの火を見てください。

そうそう、その調子、消したい記憶を思って下さい、つらいでしょうが、ほんの一瞬です。

だんだん、眠たくなりますよ、そして記憶が交換されます・・・。



まずいまずい、仕事に遅れる。

派遣会社の経理部に勤めている立花は慌てて駅から徒歩15分ほどの会社へと急ぐ。

「先輩、おはようございます。」

後ろから速足で後輩の野口が話しかけてくる。

「おはよう。」

「珍しいですね。先輩がこんな時間に出勤なんて。」

「アンタは珍しくもないね、いつもこんなギリギリなの?」

「大丈夫ですよ、この時間この場所このスピードなら就業開始3分前に着席できますよ。」

「3分前って・・・、」ため息をつきながら、この後輩の男は1年目の時から何も変わらないと思う。

部署内でもいまだにネタにされる、初出勤日に就業開始時刻ジャスト、本当に1秒のくるいもなく部屋の入口でフロア全体に響く声であいさつをした。「おはようございます、本日よりこちらでお世話になる野口です。宜しくお願いします!」とやる気に満ちている声で、息を切らし、ねじ曲がったネクタイと寝癖を直しながら。

「あー、今日は余部さんと登録希望者との面接ですわー。イヤだなーあのおっさん、暗いし無表情だから相手が不安になるんだよなー。」

「あんたねぇ・・・。」

余部さん、同じ職場の40歳の男性職員、見た目は背が低く、地味で冴えないくたびれたおじさんで、社交性もなく会社の飲み会にも一切参加せず、仕事中も必要最低限の会話しかしない。まぁそんな人だから会社の人達、特に女性職員の評価は低い。よしよし、恋のライバルはいないに越したことない、そう、私はそんな余部さんが好きなのだ。

あの日はたまたまだった、休日に甥の誕生日プレゼントを買いに、店舗が全国展開している日本有数のおもちゃ屋に行きそこで余部さんを見た。小さな女の子と会社では見たこともない笑顔で楽しそうに話していた。確か今は離婚して独身だと聞いたことがある、おそらく前妻との子供だろうと思った。

あんな顔するんだ、いつもいつでも会社で見せているあんな無表情じゃないんだ。

甥のプレゼントを買いに来たのに、楽しそうにする余部さんの姿を横目でずっと追いかけていた。声をかけることもなく。帰宅してからもずっと余部さんのことを考えている自分に気づき、いやいやないないと自分の気持ちの疑惑を否定するも、次の日から出勤すれば自然と目で追いかけていた。だから知ってしまった、携帯電話の待ち受け画面を見ては微笑む余部さんを。それはおもちゃ屋で一緒だったあの女の子が、誇らしげに校門前でランドセルを背負っている姿だった。いいな・・・あの娘、笑ってもらえて。

そんなことを思い出しながら出勤する、なんとか間に合った。

一息つくと離れた席から野口がこっちを見て親指を突き立てながらアヒル口をしている。

まったくこいつは・・・。

まったく今日は朝から慌ただしい、会社からの帰宅時に忘れ物をしてしまったことに気付いた。

会社に戻るついでに、少しだけ仕事を片付けることにする。

パソコンを立ち上げ、ん?何だろう、これ、妙なお金の出し入れを確認する。大したことないかもしれないが、月末にややこしくなり残業するのは嫌なので、今のうちに片付けようと思った。不明金は処理が大変だからと、同じ経理部の後輩には常に自分へ確認してほしいと言っているのに。まったく最近の新人はと、今朝の野口のアヒル口を思いだし余計にイラつく、もそんな感情は一瞬で消えた。

えっ?、何?、ウソ・・・、何で余部さんのID番号、パスワード経由でログインされ、お金が引き出されているの?

誰かが余部さんのIDを使って?それとも余部さんが・・・。

次の日から更に余部さんを目で追いかけて、そして知ってしまった、横領したお金の使い道を。

余部さんが誰もいない会議室に入って行き、その様子をドア付近からこっそり窺うと、泣くのを必死にこらえながら携帯電話を握りしめ話していた。

「大丈夫、お金はどうにかするよーーー、大丈夫・・・。アカネは助かるよ、それよりもアカネは元気にしている?ああ、変わってくれ、・・・アカネか?お父さんだよ。もうすぐ手術だな、大丈夫、アカネは強いからな。お父さんもお母さんもついているからな。大丈夫だ。」

大丈夫だ、じゃないよ。部屋の外で電話が終わった余部さんの嗚咽を聞きながら思う。

どうせならギャンブルなり女遊びに使え。

ろくでもない男だったと軽蔑できた、ためらいもなく会社に報告した。

でも今はどうして良いかも分からず、誰にも相談できず、ただ涙がでてきた。

今すぐ余部さんを説得しないと、でもあの娘はどうなる、手術まで日にちがないようだ。

命に関わる、あの娘が、余部さんの大切なあの娘が。

ふざけないでよ、全部アンタが悪いんじゃない、アンタなんてアンタなんてアンタなんてーーー。

声なき慟哭が、帰宅中の夜空に吸い込まれる。

あの日、おもちゃ屋になんか行かなければよかったのだ、こんな想いなんかなければ良かった。

どうすればいいか分からなくなり、ただ茫然と繁華街を歩き、吸い込まれるようにフラフラと路地裏の【記憶屋】と書かれた店に入る。中年の男が1日だけ記憶を交換出来るとかなんとか言っている。

馬鹿らしいと思いながら自棄になりお願いした、

私の交換したい1日は、余部さんの横領を知ったあの日。



そう余部さん、あの人はやってしまった。

だがよくやった、今度は間違えない、間違えようがない。

余部さんを脅して金をもらおうなんてして考えもしないし、匿名によるリーク何てバカらしい。

俺みたいなお調子者が不正を暴いたのだと、会社を救ったと分からせる。

なぁ、俺は正しいだろ?間違えていないだろ?

あいつは中学校からの友達だった、席が隣同士で自然と話すようになり、1ヵ月もすればお互いの家に遊びに行くようになった。クラスは1年生のみ同じで、部活も違ったがそれでも3年間ほとんどつるんでいた。お互い他に友人はいたが、2人でいる時は自分達だけのノリを楽しんでいた。

ただ高校は別々になり、お互いの新しい生活もありあまり会わなくなった時に、あいつがイジメられ今は自宅に引きこもっていると親から聞いた。イジメの原因は分からないが、時折電話やメールをするようになった。ただ会えることはなく返信もあったりなかったりだが、声は元気そうで中学校時代のようなノリを楽しんでいた。

俺は高校卒業後、就職したがあいつは変わらず引きこもっていた。

就職してもあいつの親からも良ければ連絡してやってくれと頼まれており、俺自身も立ち直ってほしい気持ちがあったから変わらず連絡はしていた。

そんなある日、俺は仕事でのミスが重なりその後始末と上司からの叱責にかなり疲れていた。

あー、会社辞めてーな、あいつはいいなー、と思い何故かその勢いで電話した。

出るかは分からなかったが、3回位の呼び出し音後に元気そうなあいつの声が聞こえた。

ーーーおー、どうした?ーーー

何故かイライラして、開口一番早口でまくしあげた。

「お前なー、気持ちは分かるけど、少しぐらいしっかりしろよ。働いている俺だって俺達だって大変なんだぞ。今日だってな俺は上司からー」

「・・・うるせぇよ。」声が途端に沈み、そのまま電話は切れ、次の日あいつは交通事故で死んだ。

親から聞いた話によれば、事故当日、母親から買い物に出かけてくると言われたあいつは自分も行くと言ったらしい。

何年かぶりの外出に母親はすごく喜んで車を走らせた。助手席に座ったあいつは特に変わった様子はなく、ただ景色を眺めてボソッと言った。

「アルバイト雑誌買ってくれない?」

帰宅中に対向車が車線を越えて車同士が衝突、母親は全治3ヵ月の重症、対向車の運転手は飲酒運転だった。意識なく救急車に乗せられるあいつはアルバイト雑誌を抱えていた。

俺が、俺があんなことを言わなければ、あいつは今も生きて、生きていて・・・。

葬式帰りにただ茫然と歩いていると、1枚の看板が目についた【記憶屋】。

何故か吸い込まれるように入る、中年の男が消したい1日がありますね?みたいなことを言っている。

俺が交換したい1日はあいつに電話したあの日。



キッチンを所狭しと動き回り、イントネーションはややおかしいが、問題ない日本語を駆使して必死に働いていた。

「チャーハン、デキました。」

「おさら、ドコですか?」

「てんちょう、まかない、オイシイです!」

異国の地で働くというのはどれほどの苦労だろう。自分ならとてもじゃないが無理だ。

そんな自分とは正反対であるように彼女、イオンは笑顔で働き、まかないを食べていた。

留学生として来日、このファミレスでバイトして半年になる。

面接当初、片言の日本語であり、不採用の予定であった。

ーしことおばえる。ます。がんばるます、しごと、たくさんおいた・・・-。

異国での心細さや仕事がないことへの同情心、採用には不適切だったとは思う。

それでも慢性的な人手不足、イオンの必死な気持ち、すぐに辞めるバイト連中よりもつかえると思った。

読み通りイオンはよく働いた、大学終わりにそのままバイトで、遊んでいるような様子はみられなかった。

真面目で明るく、勉強も頑張っているイオンが職場の人気者になるのに時間はかからなかった。

ある日、仕事終わりにその日余った料理を夜食として持たせた。

もちろん禁止されていることだが、まぁたまにはいいと思った。

「アハハハ、おそくにタベルトふとります。」

「じゃあ、朝食べればいい。冷凍すれば保存もきく。」

「はい、ありがとうございます。ウレしい。」そう笑顔で答えたイオン。

「イオンは凄いな。俺が大学生の時なんかバイトは適当、授業にも出ず遊んでばかりだったよ。」

「そうですか、てんちょう、おみせのいちばん、スゴイです。」

就職活動時、不景気のうえ大学の成績も悪く、何の資格もなかった自分を採用してくれる企業なんて常に人手不足の飲食業界ぐらいだった、やりがいもなくただ生活のために働いた。上司に叱責され、部下からは軽んじられ、アルバイトは突然来なくなる。給料待遇面を見ても自分にはお似合い、また辞めたところで次のあてなんかなかった。

「凄くなんかないよ、社員で3年やれば誰でも店長だ。給料も少ない、休みなんかもあってないようなもの、俺にはお似合いだよ。」

卑屈に愚痴を言う自分をイオンはただ見ている。

思わず恥ずかしくなった、こんな年下に愚痴を言う、またその相手は自分とはまったく正反対の努力家。

そんな思いを知ってか知らずかイオンはうつむき静かにいう。

「しごと、アルノハすごいです。わたしのくにほとんどのヒト、おかねない、しごとない。わたしまだいい、がっこういけた。でもにほんからおかねカリテいる、せいせきわるければ、くににカエラないとだめです。」

そんな言葉を聞き終わると、何故か口走っていた。

「イオン、たまには息抜きに行かないか?」

お金は全て自分が出す、日本の文化に触れることで言葉の習得も早くなる?等、妙な理屈を色々言って出かける約束をとりつけた。来日してからまだ一度も観光をしたことがないらしい。

講義が午前中に終わるその日に電車で1時間ほどの観光スポット、人気料理店で昼食、女性が好みそうな店でお茶をした。イオンはよく笑い楽しんでくれた。

観光スポットでははしゃぎながら背景と一緒に写真を撮ってくれと言われ、昼食中はこの料理をうちの店でも出そうと真面目な顔で提案して、お茶をしている店の外内装や小物が可愛いと笑顔であった。イオンのテンションに疲れながらも、こんなに心地よい疲れは久しぶりだった。誘ってよかった、イオンのためと思いながら自分が一番が楽しんでいる。

勿論、恋愛感情なんかはなかった。妹のような存在だし、そもそもイオンもこんな10歳も離れていて、自分とは正反対の男は願い下げだろう。

帰宅途中に宝くじ売り場があった。特に興味はなかったが、何気に1枚だけ購入する。

「てんちょう、ギャンブル?まじめにはたらくのがイチバンですよ。」

「ああ、まぁ今日の記念だ。もし当たれば、好きな事に使う。」

「すきなこと?なに?おみせ、オオきくするのですか?」

「アハハハ、秘密だ。」もし当たれば学費に。きみは受け取ってくれるだろうか?

バイトがない日は、その時間で勉強をしているため夕方には自宅アパート前まで送る。まったく敵わない。

「てんちょう、ありがとうございました。またアシタ。」

笑顔で手を振るイオン、仕事が楽しみになるのは初めてだった。

次の日、バイトのシフト時間になってもイオンは来なかった。

おかしいなと携帯電話にかけても、留守番電話になるだけだった。

とりあえず連絡してほしいと留守電に入れるも、仕事に身がはいらない。

心配だった、仕事を休むならまだしも、あのイオンが無断欠勤なんて。

仕事のピーク時間が過ぎたころ、店に警察官と入国管理局の6人組が自分を訪ねてきた。

イオン容疑者のロッカー、そして仕事中の様子、交友関係を教えてほしいと。

容疑者?誰が?何が何を言って・・・。

うろたえる自分をなだめるわけでも、落ちつかせるわけでもなく、その内の一人が淡々と話す。

昨日逮捕した麻薬密売人とイオンは親密な関係であり、今日イオンの部屋から麻薬が見つかったこと。

何でもいいので何か変わった様子はなかったか教えてほしいと。

頭の中が真っ白になった、部屋から麻薬?イオンの?

昨日ほぼ一緒にいたとの理由でそのまま警察署に呼ばれ、出かけた場所や話した内容等を詳しく説明させられた。何か思い出したことがあればいつでも連絡してほしいと言われ、呆然と歩く警察署廊下の壁に麻薬取り締まりのポスターをみる。

階段を下り踊り場にでた時、両脇を警察官に挟まれ俯き歩くイオンがいた。

「イオン・・・。」呼んだわけではなかった、ただ自然と声が出た。

イオンが顔をあげ目を見開き叫ぶ。

「てんちょう、わたし、ナニモしらない!ほんとう!」

泣き叫びながら訴えるイオンを、2人の警察官は引きずるように連れていく。

そんな姿にただただ泣きそうになった。何でだよ、何で、どうして麻薬なんかーーー。

その日のうちに会社本部に呼ばれ自宅謹慎を言い渡されが、その場で依願退職した。

帰宅時、呆然とただふらふらと自分がどこを歩いているかも分からず、気づけば【記憶屋】とある看板の店にいた。怪しげな男が、思い詰めてるが記憶を交換するかどうかと言っている。なんでも良い、楽しかった、本当に楽しかったイオンと過ごした昨日の記憶を消してくれ。




電話を盗み聞きしてしまい知った。余部さんの子供、アカネちゃんが手術をすることを。

手術代の事を話す余部さんの口ぶりを聞いている限り、あてがあるのようには思われなかった。まさか犯罪でもして?横領とか?まさかね、と考えているとふと前に買った1枚の宝くじを思い出す。知り合いの留学生の子と一緒に遊び、その時に買った宝くじ。

当選番号を調べ、体中の水分が一瞬にして蒸発したかと思った、もう一度確認する。

くじの種類、組、番号、何度確認しても高額金が当選している。

「余部さん・・・」一人言が口をついて出た時には、すでに自宅から飛び出していた。



あれっ?ん?お金が戻っている?

おかしい、余部さんの横領の証拠を提出しようとしたけれど。

お金の計算が合っている、まるで初めから何事もなかったかのように。

おいおいふざけんなよ、なんなんだよ、どうなっているんだよ?

ただ何故か嬉しくて声を出して笑ってしまった。

良かったよ、余部さん。

そもそもあんな冴えない子煩悩なおっさんに悪事は似合わない。

会社連中は誰も知らないだろう、離婚したとはいえ余部さんはかなりの子煩悩だ。

携帯の待ち受け画面は子供だし、実はその子供との電話では楽しそうによくしゃべる。

いやまてよ、立花さんは気づいているかも。

あの人は余部さんに惚れているからな、しかしあれで隠しているつもりかね。

まぁ、余部さんは絶対気づいていないだろうな。間違いなく美人の部類に入るのによりによって余部さんかよ、立花さんを狙っている他の職員達は呆然とするだろうな。そんな事を考えるとなおのこと笑えてきた。そして、先日事故死したあいつを想い出し、今度は声をあげて泣いた。



結局イオンは無実であったが、国から帰国を命じられた。

麻薬密売人が、知り合いであったイオンの留守中に家に忍び込み麻薬を隠したのだ。

ふと引きこもりの知り合いに、もっとしっかりしろと電話したことを思い出す。

うるせぇよと言われたが、まったく、しっかりしないとダメなのは俺の方だ。

どうして俺は信じてやらなかったんだろう。

イオンは泣きながら、俺に助けを求めていたのに。

今日届いたイオンからの手紙を読み返す。

ーーー店長、めいわくをかけてごめんなさい。

国に帰ります。でも無実が分かってよかった。

日本にきて、すごく不安だった。がんばりたい気持ちと不安な気持ち。

仕事はきまらない、でも店長はやとってくれた、うれしかった。

日本ではじめてやさしくしてもらった、大切な思い出。

国では学校の先生ではたらける、ありがとう。ーーー

まずは就職活動だ、とにかく何でも働こう、そしてイオンの学費を俺が返すんだ。

有り金全部、宝くじに突っ込もうとも思ったけど、どうせ当たりっこない、あんなもん。

何事も一生懸命に取り組もう、きみのように。

イオンはあれだけ優秀だから、俺が貯める頃には既に返済しているかもしれない。

なに、それならそれで構わない、未払いのバイト代と言って利子をつけて渡せばいい。

そして今度は俺がイオンの国で頑張ってみよう、尊敬するあの娘に近づけるように。



「あなた、でも本当にこんなお金、どうしたの?」

「う、うん、実は突然会社の後輩が当選した宝くじをくれたんだ。」

「え?え?どうして?何でまた?」

「分からない、いきなりだったんだ、『このお金をアカネちゃんの手術代に使って下さい』って」

「そうなの、そんな事情ならアカネが退院したら一緒にお礼に行かないと、無事手術も成功しましたって。というか、そうならそうと早く言ってよ。お金はなんとかなるって言われても不安で、あなたが何か犯罪でもおこすんじゃないかって思ったわよ。」

「あ、ああ、ごめん本当に。」

まさか言えるわけもなく・・・。

そしてもう一つ、元妻には言わなかったが、その後に言われた言葉も気になった。

『これを借りと思ってもらっても良いですよ。私、結構ずるいんで。』

微笑みながら、そう立花さんは言った。

言葉の割に表情からはまったく悪意を感じなかったけど、何か要求されるのかな?

まぁ、アカネが助かったんだから何でもこいだ。


おしまい。

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