この恋、きみ色
【注意!BLです!】
苦手な人はプラウザバック推奨。
「やっぱり。山里君は茶色似合うな。」
年に一回の慰安旅行。このご時世に、慰安旅行という名の会社ぐるみのイベントがあること自体が変わっているが、そんなことがあるのがこの会社の特徴である。社長が、そういうイベントが好きなのもあるが、意外と社員受けもよかったりするのだ。それは、近場とはいえ海外に行くこともあるからである。今回の旅、それは韓国だった。
韓国への旅行。副社長である梨川の忙しいスケジュールの合間だったため、3泊4日という短い旅行ではあった。いつも暇そうにしている梨川だが、本来は結構忙しい人間なのだ。それを見せない仕事の仕方をしており、意外と仕事ができる梨川の周りに対する気遣いなのかもしれない。
そんな忙しい彼の、仕事のことを考えずに唯一海外で気が抜ける時間。それに山里が同行していた。というのも、本日は自由行動の日なのである。そんな日に、せっかくだからだ誰かと見て回りたいが、他の人たちと合う場所に行きたいわけではなかった。韓国の秋葉原と言われているところに行ってみたかった。だが、付き合ってくれそうな人がおらず、しゅんとしていたところに、山里が「一緒に行きましょうか」と声をかけてくれたのだ。
そうして、梨川は山里を誘って買い物に出た。ほんの少しの時間。それでも梨川にとっては、いや二人にとって幸せな時間だった。
普段忙しく働いている二人だが、共通の趣味、漫画やアニメというのがあった。そもそも、山里は社外の人間だが、関連企業ということもあり、よく社には出入りしている。そんな彼とたまに廊下であっては、「あのアニメ見た?」「あの漫画面白かったな!」という会話を交わすのが、挨拶代わりとなっていた。
もっとゆっくり話をしたい。
そんな二人が一緒に過ごす時間を持てるのは、当然こんな旅行でもなければないことだ。しかも社外の人間である山里が参加を許された旅行。幸運としか思えない、この機会を二人は逃したくなかった。
「山里君。韓国楽しめた?」
「あ。はい。料理も意外とよかったので、楽しかったです。」
「そか。それはよかった。」
梨川は知っていた。 山里が自分に抱いている思いも。自分が山里に対して抱いている想いも。そして、その想いに対して何も出来ないことも。
梨川はいろんな意味ですでに立場ある人間である。社会的地位はもちろんのこと、家庭を持った夫として、子を持つ父親として。そんな彼が山里に対して抱く想いなど、気に留めてはならない、ちっぽけな想いなのだ。しかしそのちっぽけな想いが、彼には重くのしかかる。山里も、彼に対して抱いている想いがあるからだ。
自分の想いだけなら、我慢すればいい。想ったことすらなかったことにすればいい。自分には家族があるのだと。彼は友なのだからと。彼には未来があるのだからと。
しかし今回の場合、相手も自分を想ってくれているのは、明らかである。いつも自分と話す時の楽しそうな笑顔。なのに、時折見せる寂しい笑顔。 恋しくて仕方ないのに、決して叶わぬ想い。それが明らかに出ていた。そんな相手の想いをなかったことに出来るほど、梨川は器用ではなかった。
それでも、彼は決めた。自分には今の立場を守ることしかできない。踏み出せない。踏み出しちゃいけなかった。だったら、すべてを心の中に秘めたままにしようと彼は決意した。不器用な彼は、必死に周りに悟られまいと、大好きな相手にすら仮面を被り続けた。
そうして、山里に対する自分の思いはなかったことに。山里が自分に抱く想いは、気づかないフリをした。それがたとえ、大好きな相手すら傷つけることになっても。自分の想いが報われなくても。 それが彼の覚悟だった。
「ん?」
「どうしたんですか?梨川さん」
「ちょっとこっち。」
人通りの多い道から少し入ったところに、ペンダントや指輪を売る露店があった。すべてが本物の宝石・・・というわけではなさそうだが、種類は豊富で、様々な宝石の名前がついたものが売られていた。
「これ。つけてみ?」
「え?」
何をされるのか全く理解出来ていない山里をよそに、梨川は山里の首にネックレスをむりやりつけた。 梨川が選んだのは、小さな宝石のついたネックレス。銀色のチェーンに丸く加工された茶色の宝石がついている。
「うん。」
「な、なしかわさん」
「やっぱり山里君は茶色が似合うわ」
茶色。 山里の髪の色でもあり、よく彼が着る色。山里には言えなかったが、本当に茶色がよく似合うと思ってた。 誰でも似合う色じゃない。色の白い彼だからこそ似合う気がする。昔は、そんな好きな色じゃなかった。別に興味なかった。たかが色の1つなんだから。
だが、最近茶色のものを見ると「これ似合うだろうなぁ」と思ってしまうくらい、完全に意識してる自分がいた。
自分の好きな人が似合う色。好きな人を愛せないなら。その色だけでも愛そうか。
この恋。きみ色。
BLってね、個人的な見解だという前置きのもと語ると。
本当にファンタジーの世界なのですよ。
同性だからこそ、伝えられない思いがあって、異性恋愛の好きと、BL恋愛の好きは違う種類であると思っている。
そんな位置づけで書いております。
察していただけると嬉しいです。
自身、初めての3部作。3本連続で、一つの作品です。