第4話 次回って、何の事ですか?
何故か話が遅々として進まない……。
そして、ストックも……。
第4話 次回って、何の事ですか?
家路は続くよ何処までも。ガタゴト揺られて(無音)帰路をのんびりと移動している。桜さんの説明によると、母方の実家である隣の伯爵家に出向いた後の帰り道らしい。
理由は誰でも予想できる、僕のお披露目だった。なんでも伯爵夫妻は親バカで、四人兄妹の末っ子のニメア(母上)は、唯一の女の子で伯爵夫妻に溺愛されていた。その為、初孫でもないのに、盛大なお披露目会を7日間も開催した。これは直系の跡継ぎの孫のお披露目会と、日数は違うがほぼ同じ規模らしかった。
伯爵夫妻、どんだけ娘バカなんだ……。直系の後継と同規模なんて、跡目争いでもしたいのか? 傍から見れば、直系の後継がおざなりにされていると思われるぞ……。
『へー。ゴローちゃん、そんなところまでー、気が回るなんてー、けっこー、苦労したんだねー』
椿姫さんの【テレパス】に前世の異世界の記憶が蘇る。――跡目争い。それまでは知らなかった、貴族の裏の顔。よくあるラノベの陰謀劇などと比べる事さえおこがましい。生々しい感情と凄惨で目の覆うような現場の光景……。僕はそこから逃げ出したかった……。
「そうね。意外だわ……。ところで椿姫、巧クンは話せないだけで、聞き取ることは出来るわよ? 態々【テレパス】を使う必要性は無いのだけれども。」
暗く堕ちていく僕の心を救ったのは、桜さんの涼やかな声だった。そうだ、今はこの異世界が、僕の生きる世界……。
『えー。せっかくー、身も心も繋がったの「うォっヴっ!」――ゴローちゃん、面白い声ー』
突然の椿姫さんの、トンデモ発言に思わず奇声を発してしまった。誰と誰が繋がったんですか。椿姫さん、天然の振りしてワザとやっていますね。
『当たりー。正解者にはー、ごほうびのー、キスー!』
――椿姫さんのご褒美は、ほんのり甘いレモン味だった……。――悩み事も吹っ飛ぶよ。
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「さあ、椿姫も満足したことだし、巧クンには、この世界の文化や風習を説明するわよ。」
凄く楽しそうな椿姫さんと、何事もなかったように話を始める桜さん。――僕? うん。気持ちよかった……。――じゃ、なくって!! わくわくしながら、桜さんの説明を待った。暦や通貨の名称とか、国々の成り立ちと関連性。身近なところだと、自国と男爵家の関係なんかも気になる。
「でも、時間が余り無いから、簡潔にさせてもらうわ――」
そう、桜さんが断りを入れると、滔々と説明に入る。
まず、最初は暦と通貨。暦は、単に歴、神歴といっていて、人類が誕生する前、神代の時代から続いているらしい。桜さんが以前、女神様に聞いたとき、『暦? なにそれ? 美味しいの?』と語ったそうだ。――女神様、そんな性格でしたか? 桜さんが話を盛ってませんか?
「――信じる信じないは、巧クンが決める事よ……。あたしはありのままを語るだけ。」
なんか、どっかで聞いた事あるようなセリフ……。桜さんは説明を続け、『今は神歴102017年よ』と暦の説明を続ける。
1年は12ヶ月あり、
・神の主の月(1月)単に神月とも言う。
・女神の月(2月)あの、女神様だそうです……。
・大地の女神の月(3月)大地の月。
・戦女神の月(4月)戦月。以上の4ヶ月が神の節。
・炎竜の月(5月)東南の大陸に覇を唱える最強の竜種。
・海竜の月(6月)何故か海ではなく、西の大陸に棲息する。
・地竜の月(7月)北東の大陸に存在する最古の竜種。
・空竜の月(8月)南の大陸に存在すると言い伝えられている幻の竜。以上の4ヶ月が竜の節。
・火の精霊帝の月(9月)火精の月。バハムート。世界の火の理を司る王。
・水の精霊皇の月(10月)水精の月。リヴァイアサン。万物の源である水を司る王。
・土の精霊王の月(11月)土精の月。ベヒモス。生きとし生けるモノたちの生存の場である大地を司る王。
・風の精霊公の月(12月)風精の月。ジズ。地味だが、なくてはならない風と空気を司る王。存在自体が空気の様で不憫だ……。以上の4ヶ月が精霊の節。
感のイイ人は、これがこの世界で影響力のある存在(力の象徴であったり信仰の対象であったり)であり、更に上から順にその格が下がっていく事が察せられる。女神様、結構上の方の存在だったんだね……。
次に1ヶ月は30日あり、週という単位は無く1ヶ月を上下で分けている。例えば、神月の1~15日は神月上。神月の16~30日は神月下と使っているそうだ。
1日は24時間(なんと1日を24等分にしているだけ)で、1時間は36分(同じく1時間を36等分)1分は48秒(左に同じ)となっている。とってもややこしい。
何でも、この世界の人々は時間にルーズで、時間単位でしかスケジュールが組まれていないとかなんとか。分や秒に関しては、計測時にしか使用されないので、一部の人たちしか使用してないらしい。
季節によっては、1時間の長さが変わるはずだから、面倒臭く無いか聞いてみたら、桜さんはあっさりと『日の長さ? 年中通して変わらないわよ?』と宣った。う~ん、流石はデタラメな。星の地軸とか緯度とか科学的なものは無視ですか……。そもそも、この世界は丸いのか? まさか、平面世界? 船旅をすると、世界の果てから落ちてしまうのだろうか……。
桜さんにその事を聞いてみたら、『よく平面世界だと気づいたわね。エライわ……。』と褒められたけど(若干褒め殺しっぽかったけど)、あの表情は間違いなく僕を騙そうとしている顔だった。そのことを指摘したけど、無視されるし……。因みに今日は火精の月下の18日らしい。
続いて、この世界の通貨の話。
約七千年前までの連合王国時代にはオリハルコン、ミスリル、アダマンタイトなどの伝説の金属が貨幣に使われていた。なんて贅沢な……。今ではこれらの金属類は希少で現在の貨幣は、それなりに流通量がある貴金属に代わっている。以下は現在の通貨で――
・大判金貨(金貨100枚分)大型船や築城などの時に使用。ほぼ、市場に流通することはない。
・金貨(小金貨10枚分)魔法の武具や宝石類などの売買に使用している。平民は使う事が無い。
・小金貨(銀板貨10枚分)平民が言うところの金貨。
・銀板貨(銀貨10枚分)板というより棒状になっている。(なら数えは枚ではなく本では?)
・銀貨(銅板貨10枚分)日本円に換算すると1万円相当らしい。
・銅板貨(銅貨10枚分)実は存在しない。現物はただ、穴あきの銅貨を10枚、紐で纏めたものを呼称しているだけ。
・銅貨(賤銭貨10枚分)通貨の中でこれだけ穴あきになっている。理由は不明で、単に材料をケチったとか、銅板貨を作り易くするために、穴を開けるようになったとも伝えられている。
・賤銭貨(単に賤貨と言われている)通貨最小単位。形は四角で、理由は銭袋の中の通貨の種類を、手探りで判断し易くするために、この形になったとか。確かに理にかなっている。
中流平民の年間所得が、約銀板貨4~6枚らしい。これが下流平民だと銀板貨2枚程度。
通貨は世界共通だが、国ごとに平均所得に差はあるらしかった。富める大国と貧乏小国で違いが出るのは当たり前か……。
因みに、桜さんに現在の収入を聞いてみたら、『――宗教って、結構ボロい商売よね……。』と、ニコリと微笑まれた。桜さん、目が笑ってないよ……。
「次回は、この世界の大陸と国家の説明かしら?」
桜さんの涼やかな声は続く……。って、次回って、何の事ですか?
お読みいただき、ありがとうございます。
次回の投稿は10/2 12時の予定です。