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平凡勇者の世直し漫遊記  作者: ワタリガニのように
第1章 平凡な〇歳児の冒険者
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第2話 懐かしい(?)貌……。

主人公のピンチに颯爽と現れるヒロイン。


――あれ? 立場逆じゃね?

第2話 懐かしい(?)貌……。




『盗賊さーん。生きてますかー? 生きてたらー、止め差しますねー』


『やめて頂戴、椿姫。アレは犯罪奴隷として売るんだから。』


『さすがー、銀ちゃんー。守銭奴ー』


『……せめて商売人と言って欲しいわね』


 椿姫さんの天然毒舌に、疲れたように応える桜さん。感覚的にはついさっき別れたばかりなのに、二人のやり取りを聞いていると何故か懐かしく感じる。確か次に会うのは16年後だったよね? 再会が早すぎないか……。


 先ほどまでの緊迫した空気は、どこにもない。母上の抱きしめる力が緩められると、助かったんだと今更ながら思い至った。『直ぐに死に戻りしたら、女神様はどんな顔をするのかな?』と笑えない考えが脳裏を過った。


『ご助力、感謝いたします聖女様。私は陛下より此の地領の守護を令された、ラインハルト男爵と申します。』


 剣を鞘に戻す澄んだ音とともに、父上が桜さんたちに名乗りと助勢の礼を述べる。それにしても、桜さんこの世界では聖女様なのか。


『こちらこそ、ラインハルト男爵様。手出しは無用と存じ上げておりましたが、この出会いも女神様の巡り合わせと先走ってしまいました。』


 当たり前のことなんだろうけど、聖女様としてのよそ行きの言葉遣いに、背中にムズムズと違和感を感じる。駄女神呼ばわりしていた時の記憶が強烈で、今の桜さんの振る舞いが想像できない……。


 桜さんと父上の会話は、聖女様がなぜ、父上の元を訪れたのか(この道の先にはラインハルト家の館しかないらしい)確認したり、自領の民の暮らしぶりを桜さんに尋ねたり、教会への喜捨についての話などが続いた。


 途中、桜さんや椿姫さんの容姿を褒める下りで、僕の身体に圧力が加わったりした。母上苦しいです。父上のアレは社交辞令というやつですよ。流石に幼女を口説く性癖はないと思いたい。


 会話は、倒れていた父上の部下の騎士たちの治療に移り、盗賊の確保(全員生きていた)と、奴隷としての代金、報奨金、騎士たちの治療費(お布施)と盗賊の搬送にいった諸事に至る。


 そして、その他諸々の雑事を済ませ、桜さんとともに僕は父上の館に戻る(自我を取り戻したのが先ほどなので戻るというと変な感じだけど)のだった。




          ###




「……聖女となるには、大変な事なのですね。」


「ええ。他にも祭神、令神、12柱の奉納例祭。数え挙げれば限がありません。」


 ラインハルト家の館に続く道をガタゴトガタゴト。馬車に揺られて帰還中。


 あの後、父上と一緒に馬車に乗り込んできた、桜さんたちと早すぎる再会を果たした。母上との社交辞令の後は、取り留めない話題が続いく。桜さんの相手は母上が行い、父上と椿姫さんはニコニコと会話の聞き役に徹している。僕? 父上の膝の上であやされているよ。


 港町の珍しい細工物や、南国の甘味の話。王都の最新のドレスなど、よくも話題が尽きないものだと感心した。中でも、希少な貴金属で出来たティアラの話に母上が喰いついたときの、父上の引きつった表情が印象的だった。そんなに高いものなら、母上には諦めてもらうように言えばいいのに?


 椿姫さんは『そうですねー』『流石はー奥様ー』の合いの手しか入れない。これは、面倒な事はすべて桜さんに丸投げしてるに違いない。――大変だね、桜さん。見た目は椿姫さんの方が年上なのに……。


 母上も会話が弾むのか、やけにテンションが高い。いや、これが母上の素なのかもしれない。


「――では、そろそろお聞かせいただけますか? 聖女様。」


 今まで聞き役に徹していた父上が、桜さんに問いかける。多分、桜さんが馬車に乗る前に話していたことだろう。ラインハルト家に何の用件があって訪ねてきたのか。父上はそう、桜さんに問うているのだ。


「……、そうですね。これも、女神様のお導き……。この場が最善なのかもしれません。」


 桜さんは、父上の問いに、少し考えながら自問自答する。ただ、自問する間、素早く椿姫さんとアイコンタクトを取ったのが気になる。目的は僕だとは分かっているが、余りにも早い再会だっただけに嫌な予感がする。


「今、私たちは教会の密命を受け、極秘であるモノを探索しております。」


「……、密命。つまり、これより聞かされる事柄は内密にしなければならぬ訳ですか。」


「ええ、私どもが、探し出すまでの間ではありますが、ご内密に願います。」


「期限を設けるからには【制約】を受けろ、と?」


「――そんな! 【制約】だなんて、余りにもご無体な!」


 父上の【制約】という言葉に悲鳴を上げる母上。話の流れからして、貴族様にかけていいものじゃないんだろう。父上も難しい顔をしている。あれ? もしかして、強制できるほど教会の勢力は強いのか。


「【制約】については、教皇より一任されています。それに、【制約】が及ぶ範囲は先ほど話したものだけです」


 凛とした佇まいのまま、涼やかな声を響かせる。なんか、いつもの桜さんに戻ったように感じた。


「……分かりました。【制約】を受け入れましょう」


「――あなた!!」


「ニメア。私の愛しいひとよ。聖女様の言葉は誠実だ。信じられるよ」


 父上はそう、母上に微笑んだ。幼女の言葉を信じて大丈夫なのか? 僕は桜さんの本性を知っているだけに、父上の簡単に信じるという言葉に別の不安を抱く。まさか変態紳士……。


「先ずは探し物の確認を……。【制約】はその後という事で。」


「分かりました。では、続けてください。」


「――では。我が協会の目的は、転生した勇者様を探し出すこと。そして、あらゆる(・・・・)モノから、その御身を守り抜く事です。」


「――。……成程、教会が形振り構わぬ訳ですね。まさか、【古の勇者】が単なる伝説ではなかったとは……。」


 父上は苦い声で僕を見ながら呟く。母上も父上に抱かれる僕を呆然と見ている。【古の勇者】……、なんてワクテカするキーワードだろう。話の流れからして、僕の事だよね。


 だけど、桜さんの方を見た僕は微かな不安を抱いた。……桜さん、なんですかその『しまった!!』と言いたげな表情は……。


「――【神託】により、今年の神から竜に遷ろう間に、生を受けた者の中に、私たちの(・・・・)求める勇者様がいるのです。」


 桜さんが説明をしている横で、椿姫さんがいつの間にか取り出した様々な物体を、父上の目の前で組み上げている。


 それは、座っている腰の辺りの高さのある、折り畳み式のテーブルにテーブルクロス、その上にどぎついピンク色の木の枝が蜷局を巻いたような台座を置き、上には薄いショールを巻いた直径20センチほどの水晶玉(ガラス玉でも僕には判別できない)を載ている。


 僕の第一印象はインチキ小道具、だった。


「……聖女様……。これは、一体……。」


 父上も、僕と同じ感想なのだろう。声が震えていた。でも、流石に聖女様に向かって否定的な言葉は言い難いのだろう。隣の母上もかなり戸惑っている。


「――これは、我が協会に伝わる【秘宝珠】……。言い伝えによれば、勇者が触れると【秘宝珠】は眩い閃光を発すると記されていました。」


 滔々と桜さんは目の前にある小道具の説明をする。うん。スゴク胡散臭い……。


「では、ご子息の手を【秘宝珠】に触れさせて下さい……。」


「…………」


「……男爵様?」


「――あ? ああ……。分かっている……。」


 桜さんに再度促され、父上は恐る恐る僕の手を【秘宝珠】に近づける。隣で母上の息を呑む気配がした。それに釣られてか、こっちまで緊張してきた。


 だが、緊張する僕を余所にあっさりと、【秘宝珠】に手を乗せる父上。父上……、先ほどの躊躇いはどこへ行ったんですか?


 その瞬間、【秘宝珠】の中心部分が鈍い光を放つ。


 そして、チープな電子音が鳴り響く中……。


 【秘宝珠】の表面には『死に至る病……それは。』と、血の滴るような書体で記されていた……。




お読みいただき、ありがとうございます。


次回の投稿は9/28 12時の予定です。

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