プロローグの三
次でプロローグは終わります。
仕事が忙しい時期に俺は何をしてるのだろう………。
ジッと手を見る。
プロローグの三
「【ギフト】については、後で駄女神に聞いて頂戴……。」
涼やかな声で、疲れたように語る魔法幼女(――10歳位の女の子なら幼女でいいよね)。
そこには、青のローブをまとった椿姫さんと、隣に並ぶ薄いピンクの魔法少女コスが似合う女の子がいた。
驚いた事にこの幼女が今世の桜さんの姿らしい。
ここは女神様が造り出した仮の世界であるため、自分たちの姿形は一定ではないようで、女神さま曰く『自分の姿を強くイメージすることで自由に姿、形を変える事ができます』との事らしい。
どうやら桜さんは、女神さまと僕とのやり取りを見ていて不安になり、自ら交渉と人となりの確認を買って出たが、僕たちに気を取られ自分の姿をイメージし損なって、最も馴染みある日本にいたころの姿になってしまったらしい。
本人の知らないうちに魔法熟女に変身していた(顔バレで)桜さん。
――それは怖い……。同じ状況に陥った自分を想像して背筋が凍る思いがした。思わず自分の姿、服装を確認してしまう。
その様子を見たんだろう、幼女の桜さんが涙目で睨んできた。そんな目で見られても……、僕のせいじゃないですよね。
「でもー、銀ちゃーん。その服装ー、気に入ってたんだねー。文句ばかり言ってたからー、嫌々着てるのかとー、思ってたのにー」
ぷるぷると恥辱に耐えている桜さんに、追い打ちをかける椿姫さん。桜さんに対する復讐かS属性の人なのか。よく分からないがここぞとばかりに、追い打ちをかける。
「そんな訳ないでしょ! この衣装は仕方なく着ているの、邪推しないで頂戴。」
涼やかな声でトゲトゲしい言葉を返す魔法幼女。なんか空気がギスギスしてきたんだけど……。
「そーかなー。昔の銀ちゃんならー、服装もー、同じになるはずだよねー? なんでだろうねー」
まだ行きますか椿姫さん。もう、宣戦布告は済んでましたか……。もうこれは、残りの女神様に期待するしかないか?
女神様を見る⇒まだしゃがみこんでいる。⇒僕どうしよう?
いやいや、答えはひとつ。――自分が打って出るしか方法はない。あのギスギス空間に……。
「あの~、お取込み中すみません。チョットいいですか?」
父の方法を真似てみる。母さんや姉さんに使っていた技だ。題して『猫撫で声作戦』。
「あなたも、羊を追いかける牧羊犬を見て、「あの犬さんー、捕まえられなくてーかわいそー」と言ってたわよね。牧羊犬が羊を捕まえてどうするの? ねえ、ねえ。どうするのかしら?」
なんか止まらない。父の『猫撫で声作戦』は失敗に終わった。
「えっと、帰っていいですか?」
どうやって帰ればいいのか分からないが、本気で帰りたい……。
「あら、ごめんなさい。忘れていたわ。巧クンにお願いしたいのは、――魔王を倒したのは聞いていたわよね。なら歴代の異世界人の行った後始末。――ついでに根本の原因である異世界人の始末も、任せたいのだけれど……。」
「――それは勘弁してください。」
流石に同郷の日本人(多分)と、命のやり取りをする覚悟はできていない。前の異世界は敵対する魔獣や魔族、人間でも海賊や野盗の命を奪うこともしてきた。それでも、元の世界との繋がりがあるだけで無意識に元の世界の常識=殺人に対する禁忌が心にブレーキをかける。
「それに関しては、こちらで対処するわ。貴方は出来ることをして頂戴。――後は成功報酬と【ギフト】ね。」
「成功ほーしゅうは、貰えるその時までー、保留でいーと思うよー。考えるー時間は、たーぷりあるよー」
「そうね。最初に決めても、途中で気が変わることもあるでしょうし……。なら【ギフト】ね。駄女神。出番よ、早くして頂戴。」
『……ヒドイ。わたし女神なのに……。』
桜さんに呼ばれ、トボトボやってくる女神様。なんかやつれたね。
「ゴメンねー、女神様ー。でも、もー少しだからー頑張ろうねー。さあ、巧くんー?」
「……女神様。色々納得しにくいところもありますが、前向きに頑張りたいと思います。」
「よろしく頼むわね、巧クン。ところで、貴方はどんな【ギフト】を望むのかしら?」
桜さん、そこで出張ってきたら、女神さまを呼んだ意味が無いですよ。
「どんなと言われても、どんなものがあるか見当もつかないです。」
「そうね、戦闘系、生産系、外交系……。色々あるわね。この世界限定だけど、不老不死なんてのもあるわよ。」
「因みにー、万能翻訳の【ギフト】はー、異世界人にでふぉで付いてまーす。」
「お勧めは称号でもある女神の勇者ね。これは、複数の【ギフト】をまとめた高位【ギフト】なの。対物理攻撃半減、対魔法攻撃半減、対精神攻撃無効、対状態攻撃無効、分析、万能辞典、無限収納、万能地図、天啓がセットになっているわ。」
「――是非ともそれで!」
なんてチートな【ギフト】セットなんだ。流石は、桜さんのおススメ。
「普通はー、セットものってー、いらないものやー、ビミョーなものがー混ざってるからねー」
「巧クンがいいなら、手早く済ませましょう。さあ駄女神、サッサとやって頂戴。」
『…………』
沈黙する女神様。僕や桜さん椿姫さんと視線を合わせようとしない。うん。何をやらかしたんだろう。嫌な予感がする。
「メーちゃーん……。」
「――駄女神。何をした。」
桜さんの涼やかでドスの利いた声。
『……言ったら、怒らない?』
上目づかいで尋ねる女神様。桜さんにそんな事言ったら拙いだろ。
「――――!!」
「――銀、ちゃーんっ。お、ちついッ、てー」
流石は桜さんのお友達。椿姫さんは、罵倒しかけた桜さんの口を塞ぎ抱きついて動きを封じる。傍から見たら幼女誘拐の犯行現場だ。うん。見なかった事にしよう……。
「分かりました。怒りませんから、事情を説明して下さい。」
ここは僕が対応するしかないよね……。
『あのう。実は、五老巧さんには既に【ギフト】が贈られています。』
僕の仕方ないといった声色に応えるように、訥々と言葉を紡ぐ女神様。
「……いつの間に【ギフト】が授けられたんでしょうか?」
『それは、ですね。大変申し上げにくいのですが……。五老巧さんを異世界から召喚するときに、ランダムで【ギフト】を付与する魔法を召喚魔法に組み込んじゃいました。』
「……つまり、僕が召喚された時点で、既に何かしらの【ギフト】が授けられていた、と。」
うん。【ギフト】は一人一つだけ。それなら追加で【ギフト】を贈る事は出来ないことになる。
「メーちゃーん……。」
桜さんを取り押さえたまま、疲れた声で椿姫さんが呟く。『何でそんな事を?』とその目が語っていた。取り押さえられている桜さんは暴れるのを諦めたのか大人しく捕まっている。――ただ、女神様をジト目で見ているけど。
『……だって、異世界の方々とお話してからだと、望んだ【ギフト】を断り辛かったんですもん。』
「……だから会話の前にサッサと【ギフト】を授けてしまおうと……。なら、ついでに召喚時にランダムで決めてしまえば、召喚システムで決められていると言い逃れも出来る、という訳ですか……。」
「ならー、仕方ないねー。」
職場?放棄した女神様の言い分に、納得する椿姫さん。桜さんも口を塞がれたまま頷いている。
いや、あなたたちは他人事だからいいですが、異世界人がやらかした後始末を頼まれた僕には有用な【ギフト】は必須ですよ。先ほどの女神様の反応からして【ギフト】「女神の勇者」じゃないわけだし。ハズレ【ギフト】だったらどうしてくれるんだ。
「……では、僕に授けられた【ギフト】はどんなものでしょうか?」
『――分かりません。』
「……は?」
『わたしの――神の目の解析をもってしても、五老巧さんの【ギフト】がなんであるか分からないのです。ただ、あなたのステータスのギフト欄には【●●】と表示されていることしか分かりませんでした。』
その時白い世界は、沈黙に支配された。
ハッキリ言ってツッコミどころ満載ですが、これが使用です。
――お、お客さん、モノを投げないで下さい!