プロローグの二
プロローグは毎日更新します。
だが、書き溜めている分は1章にも満たない………。
プロローグの二
「――この駄女神ッ! 貴女はもう黙っていて頂戴!!」
僕と女神様だけの世界|(いろんな意味でドキドキ)に割って入る涼やかな罵声。なんか新鮮だな『涼やかな罵声……』。
「もー。ダメだよー、銀ちゃんー。女神様にブレーですよー。」
続いて間延びした美声が続く。いつの間にか女神様の両脇に二人の女性が現れていた。
女神様の右側に現れた少女は、僕とほぼ変わらない年齢に見える。黒いストレートの髪を背中まで伸ばしていて瞳も鳶色で同郷に見えた。服装は両手に樫木? で出来た杖を持ち、目の覚めるような青を基調とした豪奢なローブを身に纏っている。多分、こちらが間延びした口調の方だろう。見たまんま純和風美少女魔術師だ。
そしてもう一人。女神様の左側にいる女性は――おばさんだった。30歳前後、確かアラサーって言うんだっけ? ベリーショートの髪は薄い茶色で目の色は黒だ。そして……服装は……薄いピンクをグラデーションしたフリル多過のゴテゴテステージ衣装、しかもミニスカハイソックス。これまたゴテゴテとデコレーションした短い杖のような物を持っている。どこぞの魔法少女の衣装と言ったほうが早いか……。
「あんたも黙って頂戴、椿姫。それにあたしの名前は桜だって言ってるでしょ。――このまま駄女神に任せていたら、余計な苦労をさらに背負いこむことになるのよ!」
魔法少女――もとい、魔法熟女の罵声が続く。声だけは凛として涼やかだ。フリルの付いたピンクのミニスカートが揺れる。普通の魔女のコスだったらよかったのに……。
『酷いです。わたしはそんな事しません!』
女神様は突然現れた(イタイ)女性と知り合いらしく会話している。もしかして、アレも女神様? 心の中の警鐘がパトカーのサイレンの如く鳴り響く。あ、救急車のほうかも?
……色々と突っ込みどころ満載だが、何か言って矛先がこっちに向くのは避けたい。――よし、ここは様子見でいこう。
「メーちゃーん、それは言わない方がー、いいと思うなー……」
黒髪の少女、椿姫さんが少し困った様子で女神様に忠告する。それを見て表情が消える魔法熟女、もとい銀――いや(本人が名乗ったから)桜さん。ああ、だから衣装の色が桜色なのか。
「そう――確か……魔王を倒すために、異世界人を召喚するだけの簡単なお仕事が、なんで、召喚した異世界人の後始末をさせるために、追加で異世界人の召喚が必要になるのか教えて頂戴」
『うッ。そ、それは何と言いますか、最初に召喚した異世界の方が少々ガンバリ過ぎたのが原因と申しますか――』
なんか女神様が上司に叱られるのを回避しようと言い訳しているように見える。それにしても、何をやらかした異世界人……。桜さんが言った『後始末』の一言に嫌な予感がヒシヒシと感じられる。
「ああ、確か……魔王を倒した後、元の世界に帰らず『合法ロリはすべて俺様のモノ』『俺様は自由だ! ヒャッハー!!』とかほざいて、アレをアレした事かしら?」
『…………』
「それとも、『世界の獣ミミは(以下同文)』と言って先代の後始末もせず、獣ミミ王国を建国した件かしら?」
沈黙してしまった女神様に追い打ちをかける桜さん。女神様はしゅんとして項垂れている。心なしか、背中に輝く光翼も萎びれているように見えた。
椿姫さんは『あちゃ~』といった表情で口を挟まず見守っている。
て、言うか僕、獣ミミ王国を何とかしないといけないのか? それに、会話に嫌な言葉が紛れ込んでいなかったか? 心の警戒レベルは、既に限界突破してるんだけど。
「さて、駄女神。今回の異世界人の後始末の為に、何回召喚を繰り返したのかしら、そこにいる彼で10……何回目?」
『……20回目……です、まだ……。』
「あはは。メーちゃん、それ多すぎー。」
過少に評価しようとする女神――駄女神様。うん、これは駄女神様だ。見守っていた椿姫さんも思わずツッコミんでいたし、僕もツッコミを入れそうになった。
「あたしは、これ以上負担を増やしたくないの。駄女神は最後に【ギフト】を渡すだけでいいから、今は引っ込んでいて頂戴。」
『……はい。お手数をお掛けします……。』
桜さんのきっつい言葉に、駄女神様は悄然と答えた後、項垂れたままトボトボと後ろに下がる。駄女神様、背中の光翼が煤けてるよ……。
そんな女神様|(流石に可哀そうなので駄女神呼びは止めた)の後姿を目で追っていたら、視界の端で桜さんがこちらに顔を向けた。とうとう、僕の番か……。
「待たせてしまったようね、あたしは桜。ここは日本じゃないから、姓はいらないわよね?」
涼やかな声で名乗りニコリと微笑むアラサーの桜さん。その特殊衣装がイタイタしいです……。
「こんにちはー、わたしは桜の愛人のー「――椿姫」お友達の~高無椿姫ですー。よろしくー。」
朗らかに挨拶をする高無さん。天真爛漫がよく似合う声だった。清楚な容姿と相まっておっとり系お嬢様に見える。でも、そんなに桜さんが怖いなら、イジらなければいいのに。挨拶の途中で声が震えていたよ。
「えっと、高無さんと……桜さんですね。僕は五老巧です。日本人です。死ぬ前は別の異世界にいました。」
ここが違う異世界だと分かったのは、最初の異世界転移で会った神様は男神だったのと、【ギフト】という名称がなかったからだ。
「ふふっ、そんなに畏まらなくてもいいわよ。こんな姿だから戸惑うとは思うけど、気にせずにいて頂戴。後、あたしは桜でいいわ。さん付けなしで。」
涼やかに微笑む桜さん。僕には無理です。年上の人の名前を呼び捨てにするのも、その衣装を着ているあなたに自然な対応をすることも、苦悩以外のなにものでもないんですけど? でも、クギを指すところを見ると、しなきゃダメなんだろうな~。
「銀ちゃーん。巧くんだってー、――巧くんて呼んでいいよねー。でねー、巧くんも急に言われてもー、戸惑うだけだと思うなー。それよりもー、お話を先に進めた方がー、いいと思うよー。」
どうしようかと迷っているところに、助け舟を出してくれる椿姫さん。『でもー、わたしの事はー、椿姫と呼んでねー。さん付けはーなしー!』とクギを指されたので、心の中だけさん付けすることにした。
それにしても桜さん。椿姫さんの銀ちゃん呼びは止めないんですね。もしかして、最初の時のはダメ元で言ったのか?
「――そうね。後で調教――んー、洗脳すればいい訳だし……。巧クン、まずはこの世界の状況を説明します。」
桜姉さん、言ってる事が暴力的に危険ですがな。イヤイヤ、椿姫さんもウンウンて頷かない! ダメだ、女神様は――しゃがみ込んでいる。そっとしておこう。ここは諦めて桜さんの説明を受けよう。多分、桜さんなりのこの場を和ますためのジョークに違いない。……だよね?
とても怖い桜さんの説明によると、僕が転生する先の世界は、地球では中世の西洋世界に近いらしい。剣と魔法、法律もあるが権力の方が優先される、ラノベでよくある設定だった。前の異世界とほぼ一緒だ。
ただ相違点は、【ジョブ】という職能があり【熟練度】によりレベルが上がること、ステータスに関してはレベルでは上がらず【ジョブ】のレベルアップによって増減する。昔流行った、頭にFの付くゲームの2作目のシステムに近いようだ。
後は神々の力のカケラである【ギフト】……。
「この【ギフト】と呼ばれるものは、世界の法則をも歪めてしまう、とても恐ろしい力よ……。余りにも強い力に魅入られ、己の奥底に眠る欲望を解き放ってしまう程に……。」
「【ギフト】によってはー、やりたいほーだいだからねー。我慢するのはー大変だよー」
「だからこそ、召喚する異世界人の人格と、与える【ギフト】は、慎重に厳選しなければならなかったのよ。」
「うんうん。そーだねー。」
「それをあの駄女神が……。選ぶ異世界人は皆、人格の歪んだ変態ばかり……。あの日本人どもも恥を知りなさい!!」
「…………」
なんだろう? 言ってることは至極マトモなのに……。桜さん、あなたがそれを言いますか。
「……あっ! 銀ちゃーん。これ見てー。」
僕の方を見て何かに気が付いたのか、椿姫さんが掌を上にして右手を桜さんのほうへ差し出す。そこに人の頭ほどもある水晶玉らしきものが現れる。
その水晶玉らしきものの中に、なにやら人影のようなものが見えた。
ここからだと詳細は分からなかったが、女性らしい細身のシルエットだ。それを何事かと、覗き込む桜さん。
「ギャーーーーッ!!!」
その瞬間、白き世界は、涼やかで、絹でなく布を切り裂くような悲鳴で満たされた。
おバカな作者に止めの一撃は入れないで下さい………。